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勇者の無力化 2

「で? どうやって門を通るんだ? クリストファーって奴は顔パスなのか?」

「違うんじゃない? ウエストポーチから本物の身分証を拝借して通ることは可能だろうけど、万が一使用中に本物が身分証の紛失に気付くと面倒だからね。僕は向こうから入るよ」


 街道を外れて城壁の見張りの死角に入り、ひっそりと壁に近寄る。

 これなら行けそう。某芸術的サーカス団のショーの映像で覚えた、壁を駆け上がって駆け下りる技。尾行を撒く時に実践済だから多分大丈夫。


「お前、そんな侵入方法があるんなら変身の必要無ぇだろ」

「人目につく前に他の姿を借りる必要はあったよ」

「気配消すのも完璧だったじゃねぇか」

「それでも見られない保証は無い。あの人数ならもし見られても目撃者を全員口封じすればいいけど街に入ったらそうはいかない」

「口封じする気だったのかよ」


 私は答えず城壁を駆け上がり、内側へ駆け下りた。

 すぐにシェードが隣に立つ。


「俺はお前の命令で殺しなんかしねぇぞ」

「必要ないよ。自分でできるから」


 貼り付けた笑みを深くすると、シェードの殺気が駄犬から狼程度までレベルを上げた。


「僕の能力でするのなら、殺しも咎めないと光には言われているんだけど?」

「化け物め」

「地上で暮らす者にとっては邪神の方が化け物だと思うなぁ」

「簡単に殺しをやれる能力があるなら姿なんてどうでもいいだろ」


 まぁ、そう思うよね。

 どれだけ殺気を膨らませても怖くないんだから普通に質問すればいいのに。しょうがないなぁ。


「光が・・・。任務完遂の報酬で、この世界に居場所をくれるって言ったんだ。任務中にトラブルを起こした姿は捨てなきゃならない。居場所を貰った時に本当の姿を捨てていたら、そこは偽物の居場所にしかならない」


 クリストファーの表情を消してそう告げると、シェードの殺気も消えた。


「アレの口約束なんかを信じるって言うのか?」

「少なくとも、光はシェードみたいな自己保身は考えてないと思うから」


 またクリストファーの笑顔を貼り付けると、目を逸らして舌打ちが聞こえる。

 ふぅん。まぁ、いいや。

 すっかり日も暮れた。ウエストポーチからフードの付いた黒いマントを取り出して羽織る。


「僕は情報収集に行くけど役に立つ気がないなら邪魔だから消えておいてくれる?」


 背を向けて歩き出すと後ろから付いて来る気配。


「何処に行くんだ?」

「クリストファーの家。姿を借りるなら筆跡も欲しい」

「場所分かるのか?」

「馬車にデライト商会って書いてあったよ。気配を消して忍び込む」

「クリストファーの姿なんだから堂々と入ればいいんじゃねぇの」


 面倒臭い奴だな。まだ家族や使用人を騙せるほどクリストファーのデータは揃ってないんだよ。見つかった時に誤魔化す程度ならイケるけど会話すればボロが出かねないだろうが。なんなのコイツ。隠密行動の部下のくせに考え無さすぎ。足手まといなの。ハリボテなの。


「・・・俺が思考を読む前提で無言で罵るのヤメロ」


 デライト商会、すぐ見つかったな。見張りが多いのは大金を動かせる有力者だからか?

 シェード、見張りが手薄な場所は分かる?


「あー、表も裏も隙間無ぇな。空からでもなきゃ無理じゃねぇ?」


 いくら有力な商会だとしても、ちょっと厳重過ぎないか? 何かあるのかな。まぁ、だとしてもデータ収集したいし。上から行くか。


「は?」


 間抜けな声を上げるシェードを後目に、街灯の無い商会裏手に向かい、窓が暗い三階建アパートを見定めると、壁と雨樋と窓の庇を使ってその屋上に降り立った。カンフーアクションの真似。

 ウエストポーチから黒いつや消しロープを取り出し、錘を付けて侵入目的の建物の二階ベランダの柵に投げて巻き付ける。引いた手応え、強度は十分。アパートの側にもしっかりロープを固定。忍者映画って結構実戦で使えるんだな。

 闇に紛れてスルスルとベランダに到着したら、ウエストポーチから鋭利にカッティングしたダイヤモンドを出してガラスを切る。鍵を開けて侵入成功。

 よし、この部屋には誰もいない。


「呆れた・・・。なんなのお前、もう・・・」


 全く役に立ってないシェードがよろよろと付いて来るから一応指示を出す。


「切ったガラス、再生しておいて」

「やらねぇっつったら?」

「切り取られた窓の目撃者を消」

「再生完了」

「チッ」

「舌打ち⁉」

「冗談だよ」


 ここは客間っぽいな。

 ドアの外に人の気配は無い。音を立てずにドアを開けて廊下に出ると、華美ではないけど高級そうな調度品や絵画に彩られた清潔な空間が続いていた。

 廊下でこれなんだから、本当に儲かってるんだろうな。

 クリストファーの自筆が一番有りそうなのは私室だろうけど、場所も分からないし、ここまで来たなら使用人から見たクリストファーの印象も聞いておきたい。

 使用人の溜まり場を探そう。


「この先を右に曲がった突き当たりのリネン室にメイドが溜まってる」


 あ、シェードが役に立った。


「闇雲に動いて目撃者を消しまくられたくねぇんだよ」


 やだなー。私は必要とあらば躊躇わないだけで殺しが好きなわけじゃないんだよー。


「躊躇わずに殺れるだけで問題だ」


 神サマって善良だねぇ。

 あぁ、殺気立つと護衛とか飛んでくるかもしれないから邪魔しないでね。

 リネン室のプレート見っけ。中には人の気配が四人分。声からして全員女性かな。若い娘二人と中年二人。

 聞き耳を立てて会話に集中。


「クリストファー様はまだ戻られないの?」


 おぉ、ビンゴ。ちょうどクリストファーの話題だなんて、偶然の神の加護なのかな。


「また娼館だから今夜は戻られないわよ。近頃入り浸りよねぇ」

「贔屓を愛でるならまだしも、熟女から少年男娼まで見境なく毎晩違う相手らしいわよ」

「しかも治療費を払うからって毎回相手に怪我をさせてるって」


 えー、あのお坊っちゃん、見かけによらず性欲強いドS? 私は内に秘めたドSを演じなければならないのか?


「お前なら演技しなくてもドSだろうが」


 黙れ駄犬。

 ドアの中に耳を澄ます。


「今夜はフェルナンド殿下がお忍びで宿泊されると言うのに、よりによって娼館に出かけて不在だなんて」


 殿下ってことは、王子様? 王子様が今夜ここに宿泊? だから警備が厳重だったのかな。


「殿下とクリストファー様に血縁があるなんて信じられないわよねぇ」

「会長の妹様が後宮に召された時に、5歳だったクリストファー様は随分暴れたとか」

「初恋が破れてヤケを起こしちゃったのかしらねぇ」

「ヤケが長すぎるわよ」

「それもそうねぇ」


 楽しそうな笑い声の方向がバラけ始めた。そろそろ誰かリネン室から出てくるかもしれないな。ここまでか。

 暗がりに身を潜めると、程なくドアが開き、シーツや枕カバーを抱えたメイドが二人出てきた。

 廊下の角を曲がり見えなくなってから、リネン室の様子を再び窺う。


「どうせ娼館で夜明かししてくるなら夜のお支度はいらないわよね。さっさと片付けだけしちゃいましょ」

「そうねぇ」


 クリストファーの部屋に向かうのかな。付いて行ってみるか。

 部屋にはもっと人物像に迫れるものがあるかもしれないし。

 それに、王子様の血縁者なら、王子様狙いの勇者の餌にできるかも。

 クリストファーのデータが集まったら明日は勇者の目撃情報を探して、王子様の血縁者をチラつかせて接触できないかな。

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