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悪霊使いの無力化 4

 並ぶ銀麗の配下は、右側三人がピンク縦ロールの監視隊で、女性二人を含む左側四人が悪霊使いの調査任務についていた。

 彼らが悪霊使いの体液を摂取した場合、摂取した最初は体の力が抜けて意識が朦朧となり、その後の主症状は記憶の混濁、活動力の減退、感覚鈍麻、思考力減退などで、人族の悪霊憑きのように暴れたくなるとか叫びたくなるような症状は出なかったようだ。

 種族特性なのかと考えたが、銀麗の見解は、彼らが厳しい訓練を積んだ者達だからだろうと言うことだった。


 銀麗の配下は、彼が国から任された『仕事』や持っている権力上、現場の判断で生命を奪う内容になる任務も珍しくなく、極限状態の中に置かれることも少なくない。

 加えて種族特性により、人族に比べると戦闘力が圧倒的に高い。

 だから水晶国外での『仕事』がメインの彼らが徹底的に扱かれるのは、何より精神鍛錬だそうだ。

 どんな状態になろうと己を失い暴れることの無いように。

 当然、薬物への抵抗力も鍛える。

 任務中に酒や薬物の影響で我を忘れ、本能のままに衝動で破壊行為をしてしまえば、彼らの戦闘力だと目立ってしまうし国際問題にもなるだろう。

 それを避けるための訓練が、悪霊使いの体液を摂取させられても動き等が鈍る程度で済んだのではないかと。


 そう考えると、悪霊使いによる吸血種の被害者が偶々銀麗の配下達だったのは状況的にまだマシだったのだろうか。

 けど、悪霊使いが噴霧器まで作って被害者を量産する手筈を整えていたのは私の見通しの甘さのせいだし、夢魔種の犯罪者が悪霊使いと通常行動可能な状態で結託していたなんて悪い方の偶然だ。

 しかも、最初から手遅れ。

 死んでしまえば完全回復の力だって意味が無い。既に殺されてしまっていればどうしようもない。


 光がこの任務を私に与えた時には、既にピンク縦ロールは悪霊使いと結託していたし、この場の人族は悪霊使い以外全員殺されていた。

 光は状況が分かっていて、私にこの光景を見せたかったんだ。


 私の任務は甘くない、簡単に人死が出る、種族間戦争の引き金になり得る、それを再認識するように、友人に会いたいとか自由にワンブックを見てみたいなんて気を抜かないように。


 言葉ではなく現実を突き付けることで、光は私に釘を刺した。

 効果的だけど、腹の立つやり方だ。光にとって犠牲者は私を戒める道具でしかない。


 塔の中では外に出るチャンスを潰したくなくて光に話を合わせたけど、悪霊憑きを狂人と呼び悪霊使いを狂人生産機扱いしていたことも、光にとってそれらが尊厳など無用で軽視していい存在だからという印象を受けた。

 神より上の立場だと、人々なんてどうでもいいってことか。

 大量に人が死ぬ事態を阻止したいのは、あくまで『世界』の形見を維持するためだけ。光にとっては『世界』以外はどうでもいいモノ。


 大丈夫。まだ頭に血は上ってない。


 シェードに肩を抱き寄せられて気持ちを切り替える。


 調査任務の配下達は果樹花王国遺跡潜入後、人族の死体や拘束された仲間を見て調査を開始したが、その頃には悪霊使い達は王の間に行くこともなく、拘束した三人の前で食う飲むヤるの繰り返しだったと言う。

 拘束した彼らを正気に戻さないために、側を離れず謁見の間で過ごしていたようだ。

 体液摂取のさせ方は気紛れのようで、調査中には液体状で無理矢理摂取だったそうだ。だから、噴霧器の存在に気付けなかった。

 これ以上の放置はマズイとの判断で四人が制圧に動いた時、朱緋が噴霧器のペダルを踏み、四人とも戦闘不能に陥った。

 あとは仲間と同じように拘束され、意識が回復しかけると悪霊使いの体液を摂取させられた。


 意識が朦朧としたり記憶の混濁があっても、訓練の賜物か見聞きしたことの何割かは整然と覚えているらしく、彼らの断片的な記憶を繋ぎ合わせると、悪霊使いと朱緋の野望が具体的に分かった。


 悪霊使いと朱緋は、捕らえた銀麗の配下達を人質に銀麗を操って水晶国を乗っ取らせ、水晶国を影から支配することを目論んでいた。


 また重要項目の伝達無しで任務に当たらせたな、あの蛇。


 気を抜いたのは私だけど、これがわざとやられたことだというのも分かるから腹が立つ。

 油断した自分にも腹は立つけど、無茶苦茶ムカつく。何なんだよ、あのクソ蛇。

 水晶国の乗っ取りなんて、今までの任務の中で一番ヤバい狙いだ。

 こいつらの目論見が成功する確率は低いけど、人質を手に入れるところまで実行済みなら本気度は高い。

 魔人族の高位貴族とガチで闘う必要があるのも隠されていたし、夢魔種の特性も知らないままなら徒に物理攻撃を仕掛け続けて危険な状態に陥り塔に強制送還だったかもしれない。


 ああ、それがあの蛇の狙いだったのかな。


 任務に出す→手遅れな死体の発見→戦闘開始→殴っても殴ってもゾンビの如く動き続ける敵→私の生命の危機→塔に強制送還→クソ蛇の計画通り、とか。


 翼の里からここまで歩いて気付いたけど、位置関係からして、最初に送られた森の中って果樹花王国遺跡まで徒歩圏内だし。

 現場が近いからと先に任務に取り掛かっていたら、私がセシルや銀麗と再会することは無かっただろう。

 ここに悪霊使いと結託した魔人族がいて、銀麗の配下が捕らわれているのを知らせなかったのも、事前に知っていれば私は必ず先に銀麗とコンタクトを取ろうとするからだ。

 銀麗とコンタクトを取ればセシルの現状を知る。あれから六年も経っていることも知る。塔で時間の感覚を狂わせていたことがバレる。

 だから、私に情報を与えず任務に出した。

 私がすぐに生命の危機に陥ることを希望して。


「アン、私はコレを処分しなければならないが、お前の任務に支障はあるか?」


 銀麗に問われ暫し考える。

 配下の前では闇月呼びはしないんだな。人族の身分証で動くなら出していい名前じゃないもんね。そう考えると翼の里ってやっぱり特殊なんだろうな。


「処分てことは、ソレはどう扱ってもいいの?」

「構わん。王族を利用した国の乗っ取りを企んだ時点で死罪は免れん」


 さて、どうしよう。

 悪霊使いも脅されて従っていたわけでもなく乗り気だったようだし、隠し通路から覗いていたイチャコラは対等でノリノリな恋人同士にしか見えなかった。本当は怯えていたとか演技だったとか正気を失っていたという反応は、何処を観察しても見当たらなかった。

 てことは、悪霊使いも同罪だ。

 銀麗に引き渡せばピンク縦ロールと一緒に処分してくれるだろう。そしたら任務終了だ。

 けど、『私にワンブック人を殺させること』までがクソ蛇の意図なんじゃないかと思うと乗ってやりたくない。


 私は今までの任務で、まだ誰も殺していない。


 生臭坊主は一度惨殺されるように仕組んだが、目的は異常能力を失わせるためで蘇生もした。

 思えば最初の任務から殺人は許可されていた。

 必要なら誰を殺しても構わないから躊躇うなと言われていた。

 任務対象も手に負えなければ殺処分するように指示されていた。

 今まで誰も殺さずに済んだのは、それこそ偶然だろう。

 私に偶然の神の加護が無ければ、とっくに何人ものワンブック人を殺していたと思う。


 慣れる程に。


 慣れる程にワンブック人を殺していたら、私は全ての依頼を完了させた時に、自由な気持ちでワンブックで暮らせただろうか。

 友人など作ることが可能だっただろうか。


 きっと、どっちも無理だ。


 あの蛇は優しげな顔で私に居場所を与えたいと言いながら、偽りまみれで居場所を持たせないように殺人を唆す。

 何の為に?

 何が狙いだ?


「銀麗、頼みがある。私の血で取引材料になれば、だけど」


 悪霊使いを殺さない方法で無力化する為に協力を請うと、銀麗は受け入れてくれた。


「お前の血と引き換えならば、全ての望みを叶えてやる」


 相変わらず気前が良い。大国の王子で規格外の天才なのに。


「この男を生かしたまま体液の効果を中和する研究をしてほしい。他者と接触させないように隔離、監禁して。監禁は、脱獄不可能な状況でピンク縦ロールと一緒に。そのピンク縦ロールも使いたいから」

「使う? 目的はなんだ?」

「まぁ、死罪と変わらない可能性もあるけど。シェード、催淫リング持ってる?」


 シェードに回収を頼んだまま受け取ってなかった呪いの品。


「コレ使うのか?」


 影から取り出された妙な光り方をする指輪を見て銀麗のこめかみが微かに引きつる。コレでトラウマものの失態を犯したことを覚えてるんだろうな。ごめんなさい。


「コレの呪いって、ピンク縦ロールにも効く? それともやっぱり眠って通常行動になる?」

「いや・・・てか、ソレ、呪いの品じゃねぇからな?」

「は? どういうこと?」

「ソレは快楽の神が加護を込めて造った指輪だ。加護を込め過ぎて効果がヤベェから教会に封印されてたモンが盗み出されて流れたんだろうな。お前が露店でソレを手に取った時は何の偶然かと思ったぜ」


 うわぁ・・・偶然無双。


「神が手ずから造ったブツだからな。種族特性無視で効果発揮だ。コレをそいつに使うのか?」

「うん。角持ちの魔人族でも破れない監禁場所で、悪霊使いが監禁されてる限り強制的に恋人でいてもらう」

「体液の中和が完了したら男は解放か?」

「そうだね。その時まだ生きていたら。水晶国側としてはそれでも構わない?」

「ああ。異常能力が消えれば何も出来ん小物だろう。用済みの朱緋は処分するぞ」

「当然だね。その時は銀麗の法に則って処分して。私の我儘に付き合わせて悪い」

「構わん」


 別に情けをかけるわけじゃないけど、悪霊使いに残す生きるチャンス。異常能力を宿した体液を中和出来るまで、ピンク縦ロールに殺されなければ解放する。

 ピンク縦ロールが本気で悪霊使いを気に入ってるように見えたから、この世に愛の奇跡みたいなものがあるならば、催淫リングで強制発情していても殺しはしないかもしれない。

 悪霊使いが解放もしくは死亡後にピンク縦ロールが銀麗に処分されるのは、私には関係ない。銀麗が銀麗の仕事をするだけの話だ。


「シーツの下の犠牲者の身内への遺体返還と後始末はどうする?」

「殺害したのは朱緋だろう。それらはこちらで引き受ける」

「わかった」


 悪霊使いの無力化の方針を決め、後始末の話も着いたところで覚えのある魔力に包まれた。


「お帰り、闇」

「触るな、クソ蛇」


 塔に強制送還。シェードの姿は無い。

 長居する気は無い。さっさと話をしよう。

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