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悪霊使いの無力化 3

誤字脱字報告ありがとうございました。嬉しいです。

 噴霧器の他に罠が無いか確認し、転がる死体にはウエストポーチから大判のシーツを出して掛けて回った。

 死体は新しい物でも死後10日は経過しているように見える。

 ということは、私が塔から森に送られて真っ直ぐここに来ていても一人も助けられなかった。

 つまり任務の指示を出された時点で手遅れだったってことだ。


 それでも悪霊憑きは死ぬ病じゃないからと、今回の任務を軽視していた自分の浅はかさを思い知らされる。

 これも、私を追い詰めて判断力を削るために、わざと光が用意した舞台なんじゃないかと嫌な想像が過ぎり、眉が寄った。

 悪霊憑きになった魔人族の夢魔種が、眠ったまま日常の本心通りの犯罪行為を重ねるというのは、知識も無かったから想定外だ。

 けれど、これが立入禁止の遺跡じゃなくて人の多い街中だったらと思うと、到着が遅れた分だけ被害者が増えていただろうことは容易に想像できる。

 こういうケースがあるなら、任務には最速で向かわざるを得なくなる。

 自発的に行動が縛られる。

 この、外堀が埋められて行く感が気持ち悪い。


 臭い霧が完全に消えてから銀麗に合図をして、扉の外の三人とも合流した。


「明華。私の配下を正気に戻せるか?」


 妻としての名でセシルを呼び、銀麗が問う。


「まーかして。アタシの血ィは世界一ィ」


 ニンマリとセシルが小さな針を取り出した。手早く針を消毒している。妙に手慣れているな。

 私の疑問の視線を感じて、ウキウキしながらセシルが答える。 


「水晶国に滞在中、かーなーり失礼な奴らがネチネチ嫌味言ってきたからね。自力で出来る撃退法を銀麗に相談したら、挨拶代わりに血を飲ませてやればいいって言うから。それから針は常備」

「セシルには掠り傷一つ負ってほしくないんだけど」


 ぽつりと言うと、美人なのに顎が外れるほど大口を開けたセシルがブンッと私を振り返り、それから大輪の花のように笑った。


「ありがとう、アン。針でプチッとやるだけだから痛くないよ。銀麗が治癒魔法使ってくれるから痕も残らないし」

「そうか。じゃあ頼っていい?」

「モチロン! いくらでも!」


 興奮気味のセシルが何故かクックックと悪役めいた笑いを漏らしながら針で人差し指の腹を突くと、小さな一滴が盛り上がる。その度に銀麗が手際良くガラス製の薬匙で掬っては、拘束された配下の口にに順番に押し込んで行く。

 そして阿鼻叫喚。絶叫。断末魔。


「・・・劇的効果だね」

「セシルって人族? 血管に猛毒でも流れてる?」


 涙を撒き散らしながら悶絶して転げ回る魔人族達を見て、私は虚無顔になりクロはドン引きしている。

 シェードはウワァって顔してるけど、夜空が楽しげに目をキラキラさせてるのは常識人と腹黒の差だろうか。腹黒って言うよりドSか? 夜空は腹黒敬語キャラ改めドS敬語キャラか?

 しかし、この惨状を見ると、銀麗はやっぱり極限状態でも冷静な方だったんだな。


 響き渡る複数の絶叫とのたうち回る振動で、悪霊使いが意識を戻しそうだから、ガッチリ拘束しておいた。下手に体液を発射されると面倒だから、全身を覆う拘束服で。この世界にもあるんだな、コレ。ウエストポーチから出て来た。当然轡も嵌めた。

 最凶の血液ショックから落ち着いて来た配下から順番に、銀麗が拘束具を外して治癒魔法をかけて行き、やがて配下の七人は片膝を着く姿勢で銀麗の前に並び頭を垂れた。


「報告を」


 低く静かな一言。けど、従える者の声音だ。

 跪いたままピリッと姿勢を正し、右端の男性が口を開く。


「朱緋監視隊から報告いたします」


 朱緋って、そのピンク縦ロールのことかな?

 そう言えば目が赤っぽかったな。貴族だけど王族じゃないから名前に特別な字は入らないんだ。銀麗に対して名前でもコンプレックス持ってそう。


「二十日前、果樹花王国遺跡に侵入した朱緋を追跡し、我々も結界の綻びより内部へ潜入しました。三時間ほど民家や店舗、役所、広場の跡を周りながら街路樹の果実を採取しては握り潰すことを繰り返し、王城へ侵入。5分後、我々より先に侵入していた人族の男と遭遇。男の同意を得て王の間へ移動し寝台で性行為及び吸血後、五時間ほど両者とも睡眠。その間我々は王城内に複数の気配を感じ、気配を追って散開しました」


 最初に遭遇したのは悪霊使いか。お互いに好みのタイプだったのだろうか。監視隊が止めずに見てるだけなら、本当に合意だったんだろうし。

 しかし、王の間の寝台って使えるんだ。百年使ってなかったんだよね。あ、でもこの部屋にもティーテーブルとか食料とか酒瓶とかあるし、寝具は持ち込んだのかな。


「城内には計八名の人族が生存、徘徊していましたが、様子が尋常ではなく、悪霊憑きの状態であったと思われます。徘徊中の人族を追尾したところ、一定時間ごとに食料のあるこの謁見の間に戻るパターンが見受けられました」


 悪霊憑きになっても生存本能で餓死しないようにするらしいからね。食料を一箇所に集めておけば、命令は出来なくても集合だけはさせられる。意外と頭が回るんだな。


「朱緋と寝た男ですが、目が覚めると朱緋に自分の王国を作る計画を語り出しました。男には体液を摂取させた相手を悪霊憑きにする能力があり、その能力を使い、この場に自分を国王とした新しい王国を作る、お前は気に入ったから王妃にしてやってもいい、と朱緋に語ったところ、王妃になるのはお前だと朱緋に組み敷かれ・・・」


 あー、セシルのぱっちりしたお目々がキラッキラしてる。

 マッチョとピンク縦ロールの絡みでもセシル的にはアリなんだ? 話の流れだと受け攻め交代してそうだけど、それもアリなんだ?


「・・・のように、男は驚愕していましたが無理強いとも見えなかったので監視を続行しました」


 監視続行したのか。監視隊も大変だな。

 まぁ、悪霊使いとしては体液摂取させたのに普通に動いてるように見えるんだから驚愕するだろう。


「三時間後、行為が終わると連れ立って謁見の間へ向かいました」


 三時間。体力あるね。片方が魔人族だからかな。悪霊使いもマッチョだし精力モリモリなのかな。


「謁見の間には当時二名の人族が食料付近に蹲っていましたが、朱緋がその内一名を右手で掴み上げ、左手親指の爪で頸動脈を切り裂いたので、監視隊三名で連携を取り制圧にかかりましたが、液状の物を朱緋の自称王妃から噴射され二名が戦闘不能、残り一名が朱緋により拘束されました。拘束後、無理矢理自称王妃の体液を摂取させられ、先に戦闘不能となった二名も拘束されました。奴の体液を摂取すると意識が朦朧となり記憶の混濁が起こりますが、我々ですと10時間から18時間で意識の靄が薄くなるようです。意識が回復してくると再度自称王妃の体液を摂取させられました。朱緋と自称王妃は体液の噴射装置を改造し、少量の体液をより広範囲に効果的に充満させる噴霧器を完成させ、我々で実験を繰り返しました。意識が回復する度に人族の死体が増えておりました」


 自称は付けてるが、ナチュラルに悪霊使いを王妃と呼んでるのが気になるけど、笑い要素は皆無の報告だ。

 この場に銀麗の配下は七人いるけど、監視隊として動いていたのは三人ってことか。

 残り四人は私が悪霊使いの話を銀麗にしたから調査を命じられてた人員かな。


 ああ、本当に。

 こういうことになるなら、今後は自発的に行動が縛られる。

 何がしたい。何が言いたい。光。

 自分で考えて答えに辿り着くように、という体で放牧したようでいて、やりたいように自由に動けば被害拡大で罪悪感を感じるように出来上がっている。

 自由選択のように見せかけて、その実は光が望まない選択肢は『私が自発的に』選ぶのを躊躇うように誘導され囲い込まれている。

 こういう支配は凄く嫌だ。好きじゃない。


 ぽすん。


 無意識に噛み締めた奥歯から力が抜ける。

 いつもの重さと温度でシェードの手が頭に乗っている。

 ふぅと小さく息を吐き出して相棒を見上げ、目で頷く。

 大丈夫。冷静になった。

 視線を銀麗の配下に戻すと、次の報告が始まっていた。

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