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悪霊使いの無力化 2

 気配は王城内の奥まった一部屋に集中している。滅亡前の果樹花王国に国賓として来たことのある銀麗の話だと、貴族用の謁見の間らしい。

 果樹花王国の王は、即位すると王城から出ることは無くなるそうだ。

 けれど身分に拘らず全ての民に目を向け耳を傾けようとしていた。

 かと言って身分秩序を乱せば、主に貴族側の反発が強い。

 その結果、装飾を控えた平民用の謁見の間と、華美な貴族用の謁見の間が造られたんだとか。


 貴族用の謁見の間までの廊下には、歴代の果樹花王国国王の肖像画が壁に掛けられていた。

 あちこち切り裂かれてはいるけれど、ファンタジー小説のエルフを描いた挿絵の上等なやつに見える。耳が長くて金髪で青か緑の瞳の繊細な美形が王様っぽい格好で並んでいる。

 歴代国王に女性は一人もいない。ここに女王の肖像画が飾られる前に、妖精人族は滅びた。


 たった一晩で全ての国民が亡骸となった果樹花王国。国外に滞在中の妖精人族も、全員が等しく朝を迎えることが出来なかった。

 突然の種族丸ごと滅亡。何の予兆も無かったそうだ。当然だろう。病などではなく、呪いを成就させただけなのだから。


 国外に居た妖精人族達は、前の晩まで普通に暮らしていたそうだ。

 仕事の話、友人との会食、恋人との語らい、馴染みの店での馬鹿騒ぎ。

 銀麗から聞いた調査結果では、何一つ異常は無く、いつも通りの日常がそこにはあったらしい。


 それらが全て一晩で失われた。


 遺伝的な病で急に発症して薬も治療も間に合わなかった。

 そう結果が出されて発表されて、悲しいけど仕方ないね、と関係者達は納得させられた。

 表面上しか納得していない関係者が多数だと言うけれど。

 私の仮説が当たっていれば、『自分以外の女が人気者になるのは許せない』という『世界の意思』で奪われた日常なんだけど。

 この仮説が当たってるなら、本っ当に、本っ気で、光の女の趣味が悪過ぎる。


「あの扉の向こうが貴族用の謁見の間だ」


 唇を動かし無音で銀麗が言う。

 示す先には、一応閉じてはいるけど取っ手の失われた元は豪華だったような大きな扉。


「セシル、夜空、クロはここで待機」

「別行動になるけどいいの?」

「気配はあの中に集中しているから。予想外の敵が現れたら夜空は結界での防御に集中してほしい。クロも合流するまで力を温存して」

「了解、主」

「承りました」


 クロはともかく、夜空を使っちゃってるけどいいんだろうか。

 まぁ、貰った記憶から考えて、夜空が裏切るとは思わないから頼らせてもらおう。

 あの扉の向こうにある複数の死体がキレイな死体とは限らないし。食事が不味くなるようなモノは見る機会が少ない方がいい。


「行く。シェード、先導を頼む」


 読唇術での会話が終了して行動再開。

 身分が高かったり特殊任務や裏稼業には必須ではあるけど、今回の同行者全員、読唇術できるんだね。


 シェードの先導で、扉には触れず柱から天井裏へ入り、崩壊して使えなくなった謁見の間に続く隠し通路に降りた。

 貴族然とした見てくれだけど、銀麗の動きは忍者みたいだ。

 隠し扉に近づくと、謁見の間の様子が窺える。

 拘束されているのは男が五人、女が二人。全員魔人族だろう。色彩がカラフル。衰弱しているように見えるけど、衰弱が原因ではない焦点の合わない目をしている。拘束具は人族用ではない。人族の国で一般に流通していない筈だから、事前に用意していたのかもしれない。

 散乱する死体が合計八体。人族のものに見える。明らかに失血で事切れている。太い血管が何箇所もパックリ切れてるし。

 セシルを待機させて正解だったな。

 自由の身なのは男が二人。記憶の鏡で見た通りの容貌の悪霊使いと、ピンクの縦ロールの男。ピンク縦ロールからは羊のような角。

 角持ちの魔人族の貴族かぁ。顔付きからしてプライド高そうだな。


「銀麗、知り合い?」

「私の従兄に当たる。身分故に監視だけ付けて見逃され続けて来たが目に余る。そろそろ処分で構わん」

「従兄って、アレ歳上なの?」

「私の母がアレの姉だが、婚姻時期が姉妹ほぼ同じだったそうだ。子を授かったのは叔母上の方が二百年ばかり先だったな」

「二百歳も銀麗より歳上・・・見えない」


 読唇術で会話していると、銀麗が珍しく非常に微妙な顔をした。

 まぁ、そうだよね。二百歳上の従兄が縦ロールでヒラヒラの、レースとフリルのゴスロリみたいなコスプレしてたら、そういう顔したくもなるよね。銀麗が落ち着いた上品な格好をしているから、尚更アレの異様さが際立つ。


「私が生まれるまでは、何処にでも居る我儘な貴族の息子だったらしいが、王族として生まれた従弟が角無しということで荒れて道を踏み外したようだ」


 あー、魔人族の角持ちのプライドか。王族は大抵が角持ちなんだよね、確か。

 現国王は純正オーガ種で正妃が純正ミノタウロス種だから両方角持ち。

 正妃から生まれた第一王子と第三王子も角持ち。

 第二王子の母親は側妃だけど正妃の妹だから純正ミノタウロス種で息子も角持ち。

 銀麗の母親は純正吸血種の筆頭貴族の姫だけど角無し。治癒魔法の名手として側妃に迎えられ銀麗を生んだ。


 水晶国の王族の直系には名前に『煌』か『麗』が入るんだけど、王位を狙える力を期待される者には『煌』、それ以外には『麗』を与えると以前銀麗から聞いた。だから気楽な立場なのだと。

 角無しで生まれたから『麗』の字を名に与えられたのに、見た目は吸血種でありながら身体能力はオーガ種に匹敵することはすぐに知れた。

 知能は吸血種らしく魔人族の中でも高く、本人のオタク気質もあり諸々規格外の才能を発揮した為に、若い時分から外国に出されていた。

 その上、私に名を捧げたことで魔人族最強になったもんだから、水晶国としては大番狂わせで頭を抱えてるらしい。主に国家の中枢が、後継者問題で。勝手だねぇ。


「下に見ていた銀麗が自分より有能だからグレたとか?」

「概ね合っている。私が生まれた時に、角無しが王族など許せないと、私と自分を取り替えるよう国王に進言して問題になった」

「・・・よく首刎ねられてないね。その時既に二百歳でしょ? 成人してたよね」

「アレの父親が純正夢魔種の筆頭貴族だからな。当時はまだアレが一人息子だったから簡単に処分は出来なかった。今は優秀な弟がいるがな」


 あの羊っぽい角は夢魔種の角か。筆頭貴族家の嫡男で一人息子だったから国王相手にトチ狂ったことを抜かしても無罪放免。子供が生まれにくい種族ならではだ。


「自分以外にも家を継げる者がいたら、何でも無罪になる魔法はもう使えないのを気付いてるのかな」

「いないだろうな。国内では陰で無能と揶揄されていても、仮にも角持ちの貴族だ。人族に紛れれば無敵に近いだろうし、一般的な平民の同族よりは強い」

「銀麗の配下より?」

「通常であれば一対一でなければ遅れは取らないが、悪霊憑きの状態になれば判断力や思考力が著しく低下する。アレが正常に動ける状態なら拘束も容易かったろうな」


 そう言えば、シェードが完全に悪霊憑きにはなってないと言ってたけど。魔人族の貴族には異常能力が効きにくいとかあるのかな?


「いや、異常能力は効いてはいる」


 私の疑問を読んで答えるシェードに、益々疑問符が頭に湧く。

 首を捻っていると銀麗が説明してくれた。


「夢魔種の特性だな。アレは現在眠った状態だ。夢魔種は危険を感知すると眠りに落ち、自分を夢の中から操って起きている時と同等に動くことが出来る」

「危険感知してるのに逃げないの?」

「精神攻撃を受けて危険を感知した場合は体と意識が切り離され、自分を操る行動パターンとして常日頃の本心で考えている内容が採用される」

「じゃあ、あの状態は常日頃の本心なんだ・・・」


 うわー、という目を謁見の間に向けると銀麗が嘆息する。

 吸血行為で他種族を殺害してるし、同族を拘束してるし、いい歳して縦ロールのゴスロリだし、何故か悪霊使いにベッタベタしてるし。

 一応美形なせいか、ベッタベタされてる悪霊使いも満更じゃなさそうだけど。

 悪霊使いに抱きついてチュウチュウペロペロしながら股間を揉んでる従兄とか、見たくないよねぇ。


「銀麗の配下が悪霊憑きにされたのは、何か罠があるような気がするから、意識刈り取る必要があるの二人だけみたいだし、異常能力が効かない私とシェードで行ってくる。銀麗が悪霊憑きになったら困るし」

「了解した。悪霊憑きになった配下を戻す手立ては考えている」

「え? そんなのあるの? 悪霊憑きに特効薬なんかあったっけ?」

「吸血種にのみ、全ての状態異常を正常に戻す特効薬がある」


 頭の痛そうな銀麗の顔を見て思い至る。

 最強、いや、最凶の血液を持つ銀麗の正妃。

 冷静沈着、理性的で知的な大人の銀麗が別人格になる程の激マズ血液。

 魅了の異常能力も吹っ飛ばして正常に戻した、セシルの血液。


「一滴で悶絶して絶叫して脳内が真っ白になるぞ」

「そんなに凄いんだ・・・」

「猫にとってのマンティコアの心臓浸漬酒のようなものだろうな」

「それ、死ぬレベルの拷問用じゃ・・・」

「そのレベルだ」


 うわぁ。セシルすごいなー。吸血種相手なら無敵?

 少し遠い目になりながら謁見の間に集中する。さっきからずっとイチャコラが激しい。地獄が目前なんだけどね。気付いてなさそうだね。


 行こう。シェード。


 思考を浮かべるのと同時に隠し扉の向こうへ周り、全速で背後から悪霊使いの意識を刈り取る。


 シェード、ピンク縦ロールの影を縛って。


 眠った状態の奴を気絶させても動き続けるだろう。

 シェードが影でピンク縦ロールの動きを封じる間に、ウエストポーチから魔人族の罪人用の特殊な拘束具を取り出して嵌め込む。

 両手両足と首と角を繋ぎ轡も装着するそれは、角持ち用の強い魔人族仕様で、抵抗すると角に傷が入り、首や手首や足首が絞まる。轡は口の中で膨張して硬化し、舌も牙も使えなくなる。抵抗も申し開きも許さない、高位貴族が重罪を犯した時にだけ使われる物だ。

 何故お前がそんな物を持っている、という銀麗の視線をヒシヒシと感じるけど黙秘。

 転がした二人の周囲には不快な臭いの霧が漂っている。


「こんな装置まで作ってたのか」


 ペダル式の噴霧器のような装置の中身は、悪霊使いの体液だろう。近付かれたら踏めば、吸入した相手は悪霊憑きになる。

 人族の悪霊使いの反射神経では魔人族に敵わなくても、ピンク縦ロールなら銀麗の配下を罠にかけて吸入させることが可能だったんだろうな。

 噴霧器の中身が赤じゃないってことは、この臭気からしても・・・まぁ、血液でも嫌だけど。

 無力化するのに罪悪感が要らなくなったかな。

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