悪霊使いの無力化 1
次の朝、銀麗達と夜空に果樹花王国遺跡へ任務遂行のために向かうことを告げると、銀麗と夜空も結界修復のために同行すると言い出した。
下手に別行動を取ると却って危険だろうと、セシルも一緒に行くことにしたが、クロにセシルの護衛を命じると頬を膨らませて拗ねられた。
「それで? ボクの主は先輩に守ってもらうつもり?」
「連携を取るならシェードの方が私の危険度が下がる。私の心を守りたいなら、私の身よりセシルの安全を守る方が効果が高い。それでも不満か?」
「! 不満じゃないよ。ご褒美くれる?」
「しっかり守れるなら頭を撫でてやる」
「やる! しっかり守る!」
獣耳と尻尾があると喜びの表現が伝わりやすいな。やる気になったなら頼もしい。
下げられたクロの頭をワサワサと撫でておいた。マタタビ酔いみたいな顔になったけど大丈夫か?
「接触で多幸感が漲るって言ったろうが」
シェードに呆れ顔で言われる。まぁ、実力はあるだろうから命令通りセシルはきちんと守るだろう。
「結界修復作業にかかるとは言え、私も同行するし、夜空も自分の身は守れる程度の腕はある。心配は無いだろう」
「そうですね。いざとなれば、遺跡の結界修復を中断して我々の周りに防御結界を張りますからご安心ください」
「銀麗に保護されてから護衛され慣れてるから変な行動はしないよ」
そうか。大国の王子の正妃として暮らしているセシルは守られ慣れているのか。それなら安全率は上がるだろう。
「任務が終了すれば、おそらく光の蛇が接触してくる。そうなれば私は光の蛇と直接話しに行く」
「アン、ちゃんと戻って来るの?」
「絶対に戻って来る。セシルが年を取る前に」
「オバサンになる前には間に合う?」
「間に合わせる」
自信を持って私が宣言すると、セシルは笑ってハグしてくれた。
果樹花王国遺跡までは、翼の里の結界から東側に出て、隠者の森を徒歩で突っ切ることになる。
通常なら魔物や野生の動物が出る場所だけど、歩いているメンツが私とシェードと銀麗とセシルとクロと夜空という、セシルと夜空以外は殺気や威圧感をバリバリ垂れ流せる物騒な一団なので、その手の障害は何も出て来ない。
まぁ、仙境から隠者の森の辺りは神獣を敵に回す野生生物はいないらしいんだけど。クロが力関係を幼体の内に叩き込んだらしいから。
盗賊やならず者みたいな輩も、身分の高そうな美形がゾロゾロ歩いてるけど、多少なりとも腕に覚えがあれば我々とエンカウントしないように迂回して逃げているようだ。
シェードとクロが何故か互いに殺気を飛ばし合ってるから巻き込まれたくないのだろう。神獣は好戦的なのかな。犬と猫だから相性が悪いのかな。
こっちのヤバさを感知できない程の雑魚は、姿を現すと同時に銀麗が何かして昏倒させている。
何をしているのか訊いてみたら、攻撃魔法の操作を極限まで精度を上げたら針状の小さい魔力弾を自在に飛ばすことが可能になったとか。つくづく天才と言うか規格外と言うか。オタクは最強だと思う。
そんな感じで、警戒していた創世神話の狂信者からの襲撃も無く、安全に果樹花王国遺跡に辿り着いた。
ちなみに、翼の里を出る時に、私とシェードは身分証通りの色に変色し、夜空は翼を体内に収納している。
果樹花王国遺跡は、美しく豊かな国の面影を残していた。
建造物と舗装された道は白い石が使われていて、遠くに見える王城の形はアンコールワットに似ている。
建物や広場、街灯などの装飾は奪い去られ、家々の窓や扉は打ち壊されて、侵入者が略奪の限りを尽くした後であろうことが想像できる。
それでも、住む人のいない百年の間も花を咲かせ実をつけ続けた沢山の木々が、白い廃墟を鮮やかに彩っていた。
遺跡を覆う結界には、人一人くらい簡単に通り抜けられるような綻びが各所に見られると夜空が言い、修復は侵入者を全て遺跡の外に出してからということになった。
そう。遺跡の中には侵入者がいる。
私でも気配が探れたからシェードに確認を頼むと、場所も人数も当たっていた。
王城内に九人。こちらにはまだ気付いていない。
「シェード、九人の内訳は?」
「ターゲット、魔人族の吸血種の男が六人女が二人。あとは人族の死体複数」
「死体?」
「で、魔人族の一人が完全に悪霊憑きにはなってねぇな。そいつ以外の魔人族は悪霊憑きの状態で拘束されて弱ってる」
どういう状態だ?
ターゲットの悪霊使いと不完全な悪霊憑きの魔人族の吸血種が一人、七人の悪霊憑きの魔人族の吸血種が拘束されていて、人族の死体が複数。
ワンブックの悪霊憑きは死ぬ病気ではない。
異常行動や錯乱状態に陥ることがあっても、自傷はしないし生存本能が働いて食事も摂取する筈だ。食事が摂取できない環境なら、それこそ拘束でもしていなければ逃げるだろう。
食事・・・吸血種の食事。
弱っていない吸血種が手近な人族の血液を独占して際限無く吸血?
それなら死体があってもおかしくはない。その吸血種は確実に犯罪者だけど。
だとしても、悪霊憑き状態の魔人族を七人も拘束するのは並大抵の実力差ではない。
「拘束されてない魔人族って、同族を複数相手にしても勝てるくらい強さに差があるの?」
私が訊くと、シェードは銀麗にちらりと視線をやってから答えた。
「そいつだけ貴族だ」
銀麗が苦い顔で小さな溜め息を吐く。
「私の『仕事』の対象だ。拘束されているのは奴に付けていた私の配下だろう。予定より処分が早まったが、お前達が王城に乗り込むなら私も同行する」
銀麗の『仕事』。魔人族が被害者か加害者の水晶国外の事件の調査及び解決。
銀麗の仕事の対象が私の任務の対象と一緒に行動してるみたいだけど、これまた凄い偶然だな。
加護が仕事してるってことは、努力次第で結果は吉になる。
よし、やろう。
「銀麗が同行するならセシルも一緒だね。夜空は?」
「私も同行しますよ。隠密行動が苦手な方には音と気配と攻撃を遮断する結界で包みましょうか?」
「助かる。私とシェードとクロは大丈夫だと思う。銀麗は魔力でバレそう?」
「視界に入らなければ感知されないだろう」
「じゃあ死角から回り込む。状況把握後に一旦捕獲。処分はそれから。銀麗もそれでいい?」
「了承した」
「クロ、夜空、セシルを頼んだ」
「後でご褒美ちょーだいね」
「お任せください」
こういうのは初めてだな。でも、不思議なくらい不安が無い。
「OK。GO」
合図と共に、無音で行動は開始された。




