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後悔

真冬の長時間停電で結構なサバイバル状態を経験して寝込んでましたが、ここから第二章の終わりまでは毎日更新する予定です。

 銀麗に教わったワンブックの歴史は、研究者である彼が蒐集した貴重な資料を元に、日本で学生だった頃に受けた授業のような広範囲を俯瞰で眺められるものだった。

 本来であれば三百歳くらいの魔人族である彼が知ることの無い知識や情報、手に入れるには裏ルートしかない資料も多く、それらを伝えられる形にまとめた銀麗の知能の高さや研究者としての熱意は、夜空の記憶を貰った今こそ凄まじいものなのだという実感が強い。

 それでも、古代の史実の詳細は銀麗にも未知のモノだった。

 何しろ、本当に資料が一切残っていないと言うのだから。

 辛うじて、魔人族の王族だから、大戦の少し前に神になった魔人族の王の情報を持っていたけれど、それより前のことは未だ研究中らしい。


 夜空の記憶は、最初に創造された翼人族からある。

 私が知らなかった情報が、当然だけど山盛りだ。

 だけど、あくまで個人が見聞きして感じて考えた内容の共有だった。

 知識欲の強い種族だから、大戦前は見聞を広めに里の外に出歩いたりして、一つの種族だけの記憶にしてはワンブック全土を網羅しているとは思うけど。

 歴史から抹消された女性の偉人達と実際に会った経験があったりするし。


 でも、夜空に貰った記憶の中に、銀麗クラスの研究者が一人もいないんだよなぁ。

 魔人族以上に知識欲が高い種族の筈なのにな。翼人族。

 記憶を継ぐ特性があるからなのかもしれないけど、私にとっては不思議なくらい、彼らは『見て見ぬふり』をしている気がする。

 何人分もの殺される時の感覚や恐怖を記憶として受け継ぐんだから、防御機構として鈍感であろうとするのかもしれないけど。


 翼人族のスルースキルが高過ぎる。


 引っかかった方が良さげな情報すらスルーしているのが、継がれた記憶から読める。

 これ、一回ちゃんと光と答え合わせしないと、貰った記憶だけじゃ判断しかねることが多いなぁ。でも、塔に戻って不本意な状態にされるのは避けたい。


「シェード」


 私は思考に耽っていた畳ベッドから起き上がって、窓辺に立つ相棒を見た。

 私が変色を解いたままだからか、彼も本来の姿で佇んでいる。


「シェードは光に絶対服従だよね?」

「ああ」


 確認すると、静かな声音で肯定が返った。


「光に命令されたら、シェードは私の抵抗を封じて、光の体液を無理矢理飲ませたり光に挿入させたりする?」


 絶対服従の契約なのだからシェード自身もどうしようもないのを知っていて、不安からこんなことを口にしてしまい、


「っ・・・」


 私の視界の中で静かなものから変化した彼の表情を認識し、


「ごめん。ごめん。シェード」


 私は、多分、生まれて初めて明確な後悔というものをした。


「ごめん。ごめん。口に出した言葉は戻らないけど。ごめん。シェード」


 これは反省案件なんかじゃない。

 反省を次に活かすなんて事柄じゃない。

 とにかく私が悪い。私が馬鹿だ。私が考え無しだ。


「ごめん。シェード。傷つけた」


 ベッドを下りて、窓辺へ行き、手を伸ばして、拒絶をされていないことを確認して、シェードの顔に触れた。


「ごめん。二度と言わない。思考もしない。シェードが望んで私を傷つけることなんか絶対にないと思ってる」


 頬に触れた右手を押し付けるように、上から大きな手で握り込まれたから、左手でシェードの髪を撫でる。


「ごめん。酷いこと言った。ごめん」


 めちゃくちゃ胸が痛くて苦しい。

 二度とシェードに、こんな表情をさせたくない。


「・・・お前が悪い訳じゃねぇ」


 表情を見せないようにだろうか、胸の中にきつく抱き込まれる。

 見えなくても、その声は、あの表情から溢れ出たものだと分かる。


「クソッ・・・お前が一番の被害者じゃねぇかっ・・・守ってやりてぇのに・・・クソッ・・・」


 謝罪を重ねる代わりに、力を抜いて身を委ねる。信頼しているから、シェードの腕の中にいる時には無力でいい。


「闇月・・・」

「なに? シェード。守れなくてゴメンとかは言うの無しだよ」

「お前、いつ俺の思考が読めるようになったんだ」

「読まなくても分かる。シェードはずっと嘘無しで一緒にいたから」

「・・・そうか」


 ふっとシェードを取り巻く空気が和らいだ。

 抱き込む腕を緩めて私の両腕を掴み、少し身を離したシェードを見上げると、悲しそうだけど、ひどく優しい表情をしている。


「お前がどうなろうと、誰に傷つけられようと、俺が守れなくても、俺もお前も生きてる限り、俺はお前の傍にいたい。情けねぇ言い草だが許してくれるか?」

「お前の主が誰であろうと、私の相棒はシェードだけだ」


 はっきりと告げると、嬉しそうに目元を緩めたシェードが、私の額に自分のそれをコツンと合わせる。


「悔しいなぁ。お前の方が男前じゃねぇか」

「でも私はシェードを頼りにしてるよ?」

「・・・ずりぃ。勝てる気がしねぇ」

「? 何か勝負してたっけ?」

「いや、まだ俺だけスタートラインに立ったところだろうな」

「??」


 疑問符を浮かべていると、シェードが吹き出して私の髪をクシャクシャと掻き回した。


「で、どーすんだ? マジで塔に戻るのか?」

「光と直に話す必要はあると思う。だから、後回しにしてた任務を片付ける」


 翼の里に入ってから目まぐるしく、神獣に襲われたり事情説明があったり契約してみたり記憶贈与されたりしたけど、本来の訪問目的は、果樹花王国遺跡の結界が綻んでるから直すように、水晶国王子の銀麗が翼の里に依頼することだったんだよね。

 そして私の任務である『悪霊使いの無力化』は、ターゲットが潜伏しているらしき果樹花王国遺跡に行って遂行する必要がある。

 任務が完遂されたら光からの接触があるだろう。


「明日、果樹花王国遺跡に向かう」

「了解」


 ニヤリとシェードが不敵に笑う。

 明日、とっとと片付けよう。体液を無力化する方法を考えると物騒なものばかり思いつくけど。多分、何とかなる。

 光が接触してきたら、一度塔に戻って、ここまでの答え合わせと要求だな。

 そろそろ、報酬もはっきりさせておこう。私が欲しいものも決まったから。

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