セシルが暴走を始めたようだ
結界から出て事のあらまし(貴重な情報を貰うために夜空と婚約した)を告げると、皆すごい顔をした。
すごい顔で奇妙な沈黙を3秒維持した後で、
「うがーっ‼ こいつが騙されやすくてチョロいの忘れてたーっ‼」
シェードは頭を抱えて叫び出し、
「紳士ヅラして出し抜きやがって! このムッツリ鳥野郎‼」
柊改めクロは毛を逆立てて夜空を罵倒し、
「カップル推しはシェード×アンなのに公式の試練⁉」
セシルは地球で有名な叫びのポーズで恋愛小説に染まった悲鳴を上げ、
「ふむ。極上の味に変わりは無いが、夜空殿の風味が添加されたな」
銀麗は冷静に私の首筋から血をテイスティングして感想を述べた。
「あー、クソッ! 油断しねぇで結界の中覗きゃよかった」
「覗いてなかったの?」
頭を抱えたままボヤくシェードに訊くと恨みがましい目で睨まれる。
「敵の覗きや盗聴ならいくらでもするが、仲間の密談を監視するわけねぇだろ。お前も助けを求めてなかったからな」
まぁ、手段はアレだけど欲しい情報だったからなぁ。
光から与えられる情報が信じられない今、この情報の対価が自分の婚約で済むなら誰に反対されても手に入れたと思う。
でも教訓にはなったかもしれない。顔が綺麗で頭のいい男は腹黒いから、嫌な感じがしなくてももっと警戒が必要。
「マジで警戒してくれ。頼む・・・」
私の保護者のようになっているシェードが力無く呟く。気苦労が多くて悪いな。
誰かの言動をなぞるのではなく自分の頭で考えて動くようになったら、思った以上に私は迂闊で失敗が多い。
それをフォローし護るよう命じられているシェードは大変だろう。
「お前はお前の思うようにやってみろ。アイツもそれでいいと言ったんだから邪魔はしねぇだろ」
ぽす、と頭に手を置いて撫でられた。それでいいと許される感覚は、まだ慣れないものだけど、シェードの手は心地良い。
黙って身を任せていると、いい笑顔で睨み合っていたクロと夜空がその笑顔のままこちらを向いた。
「先輩、何一人でオイシイ思いしてるの?」
「任務上だけの夫婦と聞いていましたが、随分と仲がよろしいですね」
クロの反応は想定内だけど、夜空もそういう人だったのか。長生きしてる分、もっと超然と、とか淡々としてるかと思ったけど、婚約者への独占欲は一応あるんだな。
「いや、そりゃあるだろ。長く生きても独占欲丸出しなキラキラしたのがいるだろうよ」
キラキラしたの。あぁ、光か。
独占欲あったっけ? 嘘で束縛して自分の思い通りに私を動かそうとしたのは独占欲と言えるのかな。
「あー、うん、まぁいいや。アイツの自業自得だろ」
シェードが楽しそうな悪い笑顔で私の髪をクシャクシャにしながら撫でる。
「ちょっと、二人だけの世界を作らないでくれる?」
「神が思考を読み取れることは知っていますが、当然のようにそれで会話をしないでいただけますか?」
「二人のイケメンに奪い合われるアン、尊い・・・」
詰め寄って来るクロと夜空の背後で両手の指を組み合わせてウットリするセシルは、銀麗の屋敷の図書室に籠もっていた六年で新しい扉を開けたらしい。
「お前ら余裕無さすぎ」
「先輩だってボクがキスを楽しんでたのを力尽くで引き離したじゃないか!」
「契約に必要な口づけは止めなかったろーが。こいつの意思を無視してセクハラすんじゃねぇ」
「セクハラはいけませんね。闇月、はっきりと言葉で縛った方がいいですよ。事前に命じておけば絶対服従ですから」
「余計なこと言うなムッツリ鳥」
「お黙りなさいセクハラ猫」
何このカオス。
でも、いちいちセクハラを警戒するのも面倒だから先に命じておいた方がいいかな。
「クロ、護衛と救助目的以外で私にお前から触れるな」
「承知しました。ボクの主」
ニンマリ。跪いて了承したクロが唇の両端を吊り上げる。
あれ? 私、何か間違った?
シェードが私の頭に手を置いたまま、可哀想なものを見る目で見下ろしている。
「その命令だと、護衛と救助の目的があれば触れ方は自由ですね」
夜空も呆れたように言うが、何がマズイか分からない。護衛や救助が必要な緊急時に触れ方を縛って手遅れになったら大変だよね?
見上げてシェードに首を傾げると、軽く溜め息を吐かれた。
「自分で気が付くまでは、それでやってみろ。マズイことになったら助けてやるから」
マズイことになるのが前提な言い方。
「身に迫る危機に気付かないアン、尊い・・・」
セシル? 君は何処に向かっているの?
「ハッ! 銀麗、あなたも参戦しなきゃ! まだ属性の枠は残ってるよ!」
セシル? 属性って何?
この世界の恋愛小説は男同士が多いようだけどね? 男女だと悲劇になるのが定番だし。そして現状、見た目は男が男を取り合う図だよ? でも属性って何。そんな定義あったっけ?
「ああ、メイドが言っていたクール何とかという奴か」
「銀麗はクール王子様属性だよ! 青藍と緑青と萌語りした時に教えてくれた!」
銀麗の屋敷のメイドが引きずり込んだのか。
楽しそうだからいいけど、銀麗はクール王子様と言うよりオタク教師だと思う。ついでにクロは腹黒ヤンデレで夜空は腹黒敬語キャラ・・・あれ、腹黒しかいない。シェードのマトモさが際立つ。
シェードが腹黒認定の二人から守るように私を抱き込んだ。
「闇月、先輩は自由に触っていいの⁉」
「闇月、今は夫婦の演技をする必要は無いのでは?」
「お前らがイヤラシイ手付きでにじり寄って来るからだろうが」
「夫婦じゃないけどシェードは私の保護者だし」
いつの間にか手をわきわきさせて距離を詰めていたクロと夜空から離れるように、シェードにすり寄る。
「先輩ずるい‼」
「保護者ですか・・・。なるほど、そういう手で来ますか」
「ほら、銀麗、参戦っ」
複雑な表情でセシルを見下ろす銀麗。気持ちはよく分かる。
期待と興奮に彩られた妻の表情に何らかの決意を固めたのか、銀麗はキリリと目元を引き締め一歩前に出た。
「シェード、成人している闇月を毎晩同じベッドで抱き込んで眠るのは保護者の域を逸脱しているのではないか?」
「は⁉ 先輩そんな羨ましいことしてたの⁉」
「夫婦を演じるとは言え、それはセクハラでしょう」
「いいよ、いいっ。でもこれは本命と結ばれるためのスパイス。アタシはカップル固定派」
セシル・・・。
これは、私がこの場でノッた方がセシルを喜ばせるんだろうか。
「もっと面倒なことになるからヤメとけ」
「あ、うん」
「また二人の世界⁉」
「里の中では任務上の関係を演じる必要はありませんから、寝室は分けましょうね」
「テメェら夜這いする気だろうが。こいつと俺の部屋を離すのは認めねぇ」
「同じ部屋にすればお前も闇月を抱いて寝るだろう」
「言い方っ! ステキ! 抱いて寝るって!」
セシル・・・。
「俺が抱いて寝るのが一番安全なんだよ。刺客だけじゃなく夜這い仕掛けるエロ猫とムッツリ鳥から守れるし、銀麗にとっては唯一の生殖行為可能相手だから万が一を避けるためにも一人部屋には出来ねぇ。無抵抗な睡眠中じゃ助けを呼ぶのが遅れる可能性もある。だから寝てる間は俺の腕の中に入れておく。文句があるか」
ジロリと男達を睥睨して言い放つシェードに、クロは悔しそうに黙り、夜空は何か考えるように黙り、銀麗は無言で「もういいか?」という視線をセシルに送った。
「スパイスで絆が深まる感動の場面。勝つのは正ヒーロー。公式の試練に負けない」
抱き合う私とシェードに手を合わせて拝んでいるセシル。
些細な切っ掛けで度々沸き起こるセシルへの罪悪感を、もう薄れさせてもいいのかな、と、ちょっと思った。




