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正体を話す

「私が生まれたのは、こことは異なる世界だ。文明を持つ種族は人族に似た特徴を持つ一種類だけで、魔法や魔物は物語の中にしか存在しない世界だった」


 もっと驚かれるかと思ったけど、私が異なる世界で生まれたことには驚きが無かったようだ。

 夜空だけじゃなく、銀麗とセシルも、私がワンブック人ではないと薄々思っていたみたい。


「私は生まれた家を18歳で逃げ出し22歳まで特技を使って裏稼業をしていた」

「裏稼業に通じる特技ですか?」


 少しばかり眉をひそめて夜空に問われたので頷く。


「信じるかどうかは好きにすればいいけど、殺しは仕事にしてなかった。可能な技術は持ってたけどね。非合法なことをして生きてたんだから、それを疎んじるのは普通の感覚だと思うよ。その仕事で使ってた特技は人真似だ。他人の筆跡を真似て書類の偽造をするのが主な仕事。身を守るために身体能力は鍛えていたし、動物でも人間でも完璧に再現できる声帯模写も逃亡には役立った」

「申し訳ありません。里を守る長として心配だったものですから。後ほど事情をお話しますが、この里は暗殺者に狙われることが多いのです」


 暗殺者とは穏やかじゃないな。

 自分の立場の責任をきちんと果たすリーダーには、むしろ好感を覚えるから大丈夫。

 私は気にするなと首を振って話を続けた。


「家の者に探されてると面倒だから、家を出てからは形態模写で別人になりすまして生きていたんだけど、その男が偶然ろくでもない犯罪者で命を狙われていたらしい。私がその男の代わりに殺されそうになっているタイミングで、光の蛇にワンブックで仕事をするよう依頼されて連れて来られた。それから光の蛇の下で教育されて依頼をこなしている。訓練の成果として、私は補助系の魔法で自分の姿を変えることが出来るけど、それは元々持ってた技術を魔法で現してるから。今は目の色しか変えてない。こっちに連れて来られてから、訓練と食事で外見は変わったけどね」

「訓練はともかくとして、食事で姿が変わるとは、ワンブックの食事は闇月の体には合いませんか?」


 心配そうに訊く夜空。ああ、そう考えるのが普通か。そうだよね、性別が変わる飲み物なんて、魔法のあるワンブックにも無いもんね。


「私は元の世界で生まれた時は女性だったんだ」


 夜空とセシルが息を呑んだ。そりゃそうだ。食べたら性別が変わるものが自分達の世界で流通してたらビビる。


「アン、大丈夫なの⁉ ワンブックの食べ物ってアンには毒なの⁉」

「え? いや、普通に食べてるよ」


 身を乗り出して私を見つめるセシルに首を傾げると、目を潤わせて唇を引き結んでいる。


 あ、心配してるのか。


 そうか。そうなんだ。

 あぁ、私の感覚は、まだまだ大切な人にまで私を大切に思ってくれていると信じきれていないんだな。

 セシルが息を呑んだのは、自分達がヤバい物を食べてるかもしれないからじゃない。私がヤバい物を口にしてると思ったからなんだ。

 夜空も私の身を案じていたんだろう。ワンブックの食事が私の体に合わないか訊いたもんね。

 思わず自分への苦笑が浮かび、緩く首を横に振った。


「ごめん、言い方が紛らわしかった。ワンブックで流通してる食材は、私にとっても普通の食べ物だから安心して。私の姿を変えたのは、光の蛇に与えられた飲み物だ。異なる世界から来た私がこの世界の免疫を付けるための飲み物だから必ず残さず飲むように言われた。飲まされていたのが光の蛇の魔力を液体化したもので、飲ませる目的が男性体に変えることだとは知らなかったけどね」

「安心できるわけないでしょ‼ 何それ酷すぎるじゃない‼」


 聞きながら青くなったセシルが、途中から赤くなって叫ぶ。私のことで怒ってくれるのか。嬉しいな。


「うん。酷いよね。けど、私の特技は元の世界でも利用価値が高い方で、安全な居場所が無かった。18歳で家を出たのも、これ以上利用されて搾取されるのは嫌だと思ったからだし、書類偽造の他の特技を同僚にも見せなかったのは利用価値が高まると危険だから。偶然とは言え命を狙われるような犯罪者の姿を借りていたから立場はかなりヤバかったし、私の命を助けてワンブックで生きるための教育をしてくれた光の蛇に恩があるのは事実なんだ。だから、私に男性体になって頼みを聞いて欲しいという話を一度は受け入れた」


 一度、言葉を切って息を吐く。

 一度は、受け入れた。

 けどなぁ。


「だけど、光の蛇が私にしていた教育には多分の偽りが含まれていた。巧妙に事実を織り交ぜながら、私が持つ元の世界の記憶や常識から光の蛇の言うことや教育が真実であると錯覚するように誘導して、光の蛇と創造主に都合が良いように私を造った。光の蛇は私に報酬を払う依頼主だ。この世界の常識ではどうか知らないけど、私は依頼主と自分の立場を対等なものとして仕事を受けるし、隷属させて一方的に依頼主の願いを叶えようと偽りの情報を与えることを許容できない」


 これなんだよね。

 依頼を受ける段階で、きちんと説明がなされていれば、報酬次第でどんな仕事だって受けたんだけどさ。

 利用するのはお互い様だし、裏稼業に持って来る仕事に合法で理不尽じゃないものなんか無いのは最初から分かってる。

 恩があるから大抵の融通はきかせるし、貞操観念が自分にあるとも思えない。


 けどねぇ、騙して私の目や耳を塞ぐようなマネをして、それで私に信じさせて良いように搾取しようとしたのは許せないんだよ。


 騙すのは光の自由だし信じたのは私が馬鹿だったからだとしても、手に入れた心を踏みにじられて怒るのも私の自由だと思う。

 それに、隷属させて搾取って、私にとっては地雷っぽいんだよね。どうやら今までの任務でも、その辺で怒ってたみたいだし。

 創造主とその恋人の光の蛇は、この世界ではそりゃあ偉いんだろう。力だって権力だってトップなんだろう。だから異世界から連れて来た平民なんか、騙そうが意思を無視しようが搾取しようが当然なんだろう。

 だけど私は異世界人なんだよ。この世界の創造主なんか私が敬う相手じゃないし、光の蛇も私にとっては恩があれどただの依頼人の一人だ。

 だから融通はきかせたいけど、何をされても許容できるわけじゃない。

 うん。はっきり自覚した。私は怒ってるんだよ。光。


『おやおや、僕は随分と君を怒らせてしまったんだね。闇月?』


 いきなり馴染んだ声がして、黄金の光が部屋に満ち、光の姿が私の隣に現れた。

 シェードは警戒に眉を思い切り顰め、銀麗と夜空は緊張で硬直し、セシルは異様なほどに美しい光の姿に怯えている。

 本体は来れないだろうから映像だけだろうけど、身柄を回収されるのは嫌だ。


『警戒しなくても、まだ君を無理に回収したりはしないよ。嫌われたまま体を繋げるのは僕も望まないからね』


 嫣然と微笑む光は映像だけでも威圧感が半端ない。慣れてる私とシェードは平気だけどセシルが心配だ。


「威圧を引っ込めて。私の友人達に危害を加えるなら光の頼みを聞く前に自害する。完全体になってない私はまだ不死身じゃない筈だ」


 睨み上げると威圧を収めた光が苦く笑う。


『最高の人質を取られてしまったねぇ。ここまで怒るとは思わなかったけれど、ますます気に入ったよ。連れ戻さなくても指示や連絡はできるから、納得できるまで自由に動くといい』

「納得できなかったら?」

『そうだねぇ。どうしようか。僕は努力なんてしたことが無いけれど、闇月を口説く努力をしようかな』


 真偽の読めない緩やかな笑みを浮かべて余裕で見下ろす光。

 私に面食い志向が無くて良かった。この顔で口説かれたら面食いならどれだけ理不尽な要求でも飲みそうだ。


『君にはこの顔が効かないから、本当に楽しいよ。美しい顔も僕の力も地位も、闇月にはただの判断材料で魅了ができない。君は僕にとっても未知の存在だよ。ずっと楽しませてね』


 にっこり。美麗に笑顔を造る光に舌打ちすると、ヒラヒラの衣の袖で顔を隠して吹き出した。声は抑えてるけど、肩が震えてる。


『ああ、本当に君は楽しいねぇ。君の友達に危害を加えないと約束するから、勝手に死ぬんじゃないよ?』


 一頻り笑ってからそう言って、私が頷くと光は現れた時と同じく唐突に姿を消した。黄金の光も一緒に消える。


「えーと、皆、大丈夫? あれが光の蛇と呼ばれる存在だと思うけど」


 自称だから確信は無いけど、多分そうだよね?

 見回すと、渋面のシェード以外はポカンとした顔で私に注目していた。うん、健康被害は無さそうだ。


「アン、さっきの怖いくらい綺麗なお兄さん、変なこと言ってなかった?」


 真っ先に口を開いたのはセシルだった。この胆力も好きだなぁ。

 それにしても、変なことってどれだろう? 光は性格が悪いから妙な言い回しは常態だしなぁ。

 首を傾げていると、眉を寄せたセシルに硬い声で訊かれる。


「体を繋げるって、何?」


 あぁ、ソレか。説明の途中だったな。


「光の蛇が私を男性体にする目的だよ。創世神話の通り、光の蛇は闇の中で眠れるらしいんだけど、闇の中っていうのは性交で闇に光が挿入する暗喩みたい。光の蛇はどうしても眠りたいんだって」

「なんでそれで男性体なの? さっきの人って男だよね? 挿入する側なら女じゃないよね?」

「あ、うん。また言葉が足りなかった。創世神話の通り、世界と光の蛇は恋人同士だから、操を立てる為に女性体とは性交できないんだって」

「はぁ⁉ 何ソレ⁉ 勝手すぎない⁉ アンそれでいいの⁉」

「男性体になるのも、この世界に連れて来た本当の目的も、全くの事後承諾だったよ。事後承諾だけならどうにか納得できたけど、色々偽情報で私を操ろうとしてたのは許せないと思ったし、不信感が募ってからは、男性体になるのも嫌だと思うようになってる」


 私が伝える言葉でセシルが険しい顔になる。出会った時の美少女の印象が美女にシフトしてるのを実感して、本当に六年経ったんだと思い知る。

 騙されたままなら寿命の長くない人族のセシルとは二度と会えなかったかもしれないんだ。やっぱり簡単に光を許せないし納得なんか無理だ。


 元々私は性別が変わるなんて思いもしない世界で生まれ育ったんだし、元の世界でだって望んでないのに男性を演じることを強要されたり、身を守るために男として生きなければならなかった。よく考えれば、私にとって本来と違う性の「男」として生きることは理不尽の象徴ですらある。

 それに、魔法で変身を繰り返して分かったことも、男性体になることを憂鬱にさせる。


「今はまだ完全に男性体にはなってないんだ。服を着てると分からないけど、下半身の性器だけは男性体じゃない。体は徐々に変化したけど、どうして最後までソレが変わらないのか漸く理由が思い当たった」


 任務で男性体に魔法で変身した時に、勃たせ方が分からないと首を捻っていたけど。塔で獣人族や地球で見た天使のCGを真似て変身してみて確信した。


 姿を変えても元から無い部位は動かせない。


「私は魔法で記憶にある姿を再現できる。人族の男性体にも獣人族にも翼のある姿にもなることは出来る。でも、元の姿に無かった部位には意思を通せないから動かすことが出来ない。見た目は同じに出来ても、獣耳や尻尾を動かすことも翼を操ることも出来ないし、同じように元から無かった男性器には意思が繋がらないから、男性体になっても男性として生きることは出来ない」


 光に良心があるとはイマイチ思えないけど、自分の体の一部が全く使えない状態では不都合や不便が多いから、この部分は最後まで変化を残したんじゃないかな。


「何ソレ、酷い、ムカつく・・・」


 セシルが美人台無しの顰めっ面で低く唸った。

 完全体になったら排泄は必要ないだろうし、不都合は自分の体なのに意思が通せない違和感だけなんだろうけど。今のところ、自分が男として女性を好きになって挿入したいと思う未来が想像できないし。

 けど、嫌ではあるなぁ。恋愛や性愛どうこだけじゃなく、自分の体をちゃんと把握して使えなくなるのは、自分を自在に操ることで生き延びてきた私にとっては、使い道の無い部位でも気持ち悪いし不安を掻き立てられる。


「女性に戻ることは出来ないの?」

「え?」


 ムッとした顔のままセシルに問われて、私は間抜けな声を出した。


「それは、全然考えてなかった。思いつかなかった」


 体の変化は一方通行だと思っていた。と言うか、思い込んでいた。


「男に変えられるなら女に戻れるんじゃないの? アタシ、アンとお揃い着たり堂々と手を繋いで出掛けたりしたい」

「そ、れは・・・楽し、そう」


 途切れ途切れに言葉が出る。

 男性体では人妻と二人で会うことも不貞と見られる。同性愛者でも関係なく、挿入込みの性交が可能なことが問題視されるからだ。

 男性として生きるなら、人妻になったセシルとは自由に友人付き合いが出来ない。

 女性体に戻れたら、魔法で女性に変身しなくてもセシルと会える。

 偽物じゃない姿で、友達として付き合える。

 それは、とてもとても魅力だ。きっと、すごく、ものすごく嬉しい。


「闇月を女性に戻すことを報酬として光の蛇に要求してはどうだ?」


 銀麗が顎に手をかけながら思案顔で言うと、セシルがパッと笑顔になって両手を打ち鳴らした。


「それよ! 重要項目を事後承諾なんて商売の上で最悪のペナルティなんだから、毟り取れるだけ報酬をぶん取ろうねっ‼」


 毟り取る。ぶん取る。

 光の蛇に対して恐れない言い様。最高だよセシル。私の友人はカッコいいなぁ。

 シェードの顔も険が取れた。この世界に来て、皆と会えて、良かった。

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