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馬車の中で年表を見る

 塔の書庫には歴史書は何冊かあったけど、ちゃんとした年表は無かった。

 塔で読める歴史書に書かれていたのは、誰がどういう歴史上重要なことをしたのかと言うことと、古代と現代と呼ばれる時期の間には全種族を巻き込んだ大きな戦争があったということ。その大きな戦争以降、翼人族は結界に守られた翼の里の外へは出て来なくなったということ。


 銀麗の話だと、翼人族は用事があれば翼を体内に収納して外に出て来ているらしい。それは人族には秘されている他種族の常識なのかもしれないけど、塔の書庫にあった歴史書には偏りがあったことは確実だろう。


 初めて目にしたワンブックの年表について、銀麗から説明を受けた。

 ワンブックの年表は毎年新しく作成され、それはお金で買うことは出来ない。新しい年表は古い年表と交換することでしか手に入らない。

 ワンブックには年号のようなものは無いので、毎年その年が年表の起点となり、歴史はその年から〇〇年前という書き方で記される。


 何と言うか、不都合な史実を隠蔽し放題な仕組みだよなぁ。


 銀麗は王族だけど研究者でもあるから、裏ルートから今年の物より前の年表も入手して秘密裏に保管しているらしいけど、古い年表の売買や保持はワンブックでは犯罪行為だそうだから口外しないでくれと言われた。

 過去の年表を見比べられたらマズイと思う奴等が、権力を持ってワンブックの歴史を管理しているってことか。

 寿命の長い種族はともかく、人族なら年表を操作して教育内容を意図的に都合良く弄れば、不都合な史実なんて簡単に「無かったこと」に出来るだろう。

 寿命の長い種族だって、獣人族は仙境で年長者から口伝で教わる内容が書き記された書物より優先で、年表には興味が無いらしいし(銀麗が言ってたから光の話より信頼できる)、魔人族は好んで人族と関わりを持つ者が少ない。


 銀麗の話だと、獣人族と人族の夫婦はそこそこいるけど、魔人族が人族の妻を娶るのは後継者欲しさの繁殖用以外はほぼ無いそうだ。

 魔人族が他種族と婚姻するなら獣人族か、滅びたけど妖精人族を選ぶのが「普通の感覚」らしい。それもあって、セシルを正妃に迎えた銀麗は変り者扱いに加速がかかったのだとか。

 翼人族と魔人族の夫婦はいないのか訊いてみたら、知識量が少ないから、と魔人族側がフラれるらしい。


 話が横道に逸れたけど、とにかくワンブックの歴史は誰かに都合良く管理されている。

 それでも大まかなワンブックの流れは知ることが出来るから、私は取り敢えず今年の年表を記憶する。


 今年を起点にして、約4700年前に古代と現代を分ける戦争があった。

 この大戦の戦後処理の時に大掛かりな焚書があり信仰は刷新された。

 大戦で古い神々の神殿は全て破壊され、新たな国に教会が建てられる。


 ん? 新たな国?


 銀麗に訊くと、古代は人族の国は大陸の東と北と南に大国が三つだった。それを記した書物は焚書に遭ったそうで、銀麗も翼人族から聞いて初めて知ったと言う。

 大戦前には、西側に獣人族の住む仙境があり、大陸中央に妖精人族の果樹花王国、仙境と果樹花王国の間の森に翼の里という配置だったそうだ。当時は森も全て翼人族の領地だったけど、結界で覆うには広過ぎたから、里だけ覆って隠れ住むようになったらしい。


 翼人族が隠れ住む理由は、焚書や大戦前の知識を残そうとする者への迫害から身を守るためで、他種族が嫌いとか外との交流を一切断つような考えは無いそうだ。


 大戦後、ワンブック人の前に天から降りて姿を現した神々が、人族の優秀な男の中から王となる者達を選び国を造る力を与えた。

 その王達が大陸の各所で国を造り、今の地図のようなワンブックになった。と、銀麗は翼人族から聞いたらしい。

 神々が王として選んだのが全員男性だったって、絶対それ女嫌いの『世界』の指示だよね。

 それにしても、『世界』って何年前に死んだんだろうな。

 神々が王として指名したのは人族の男だけなのか訊いたら、他の種族は問題が無いからそのまま血統を守るように言われたらしい。


 んー、じゃあ当時の人族には何か問題があったってこと? なーんか変だよなぁ。


 年表を読み進めていくと、大体は塔で読んだ歴史書の通りの事柄が〇〇年前という情報を加えて記されている。

 そして、約100年前に妖精人族が疫病で全滅して果樹花王国が滅亡。

 あ、ロリコン優遇法の廃止も載ってる。約30年前か。へぇ。ほんと、どんだけ私は光に騙されて来たんだろうな。

 あれ? おかしいな。大戦後には人族の国同士の小さな戦争が何度か起きているけど、ナルシスト王子の所業が原因になった戦禍なんて年表には無いぞ。


「銀麗、妖精人族が滅亡した後には一度も戦争は起きてないの?」

「私が生まれる以前のことは隠蔽されていれば分からんが、この三百年はどの種族も戦争を起こしてはいない。何か気になることがあるのか?」

「私は、妖精人族の滅亡が戦禍のきっかけになったって習った」

「そのような事実は無い。私は当時、調査のために果樹花王国の近くに十年ほど滞在したが、結界で覆う前の死体からの追い剥ぎや王国に侵入して家財を荒らす盗人同士の殺し合いがあった他に、争いなど発生していなかったぞ」


 あぁ、そうだよね。考えたらすぐ分かるじゃないか。


 妖精人族の滅亡は表向きは疫病のせいなんだから、誰もナルシスト王子の仕業だなんて知らない。ナルシスト王子への制裁や復讐で王子の国が攻撃されることなんてある筈がない。

 滅びた果樹花王国の利権を奪い合うための戦争も、人族以外の種族が手を取り合って妖精人族を弔い、結界で滅びた国を遺跡として守っているなら起こすことは出来ない。

 あれも嘘だったんだ。

 異常能力持ちが戦争の引き金になるから無力化しろ、という任務を、私が引き受けざるを得ない気持ちにするための。


 今ワンブックに散らばっている異常能力持ちを光は無力化したい。

 サラやセシルのように、悪意で犯罪行為をしたりしない、生まれつき勝手に持たされた力の犠牲者でも、手に負えなければ殺処分で無力化して来いと指示されていた。


 無力化しなければ、戦争の引き金になるから。と。


 私が地球での記憶で戦争はとても悲惨なものだと認識していることを利用し、種族を丸ごと滅ぼした異常能力と「戦争」という言葉を結びつけることで、異常能力を持つ者を無力化することが様々な原因による大量虐殺を防ぐ唯一の手段だと思い込ませた。

 だから異常能力持ちの無力化は、どんな犠牲を払っても成し遂げなければならないし、躊躇ってはいけない。

 そう思い込んでいた。

 自分は善人ではないし、見知らぬ人の生死に興味も無いけど、自分が戦争を止められるのに止めずに大量虐殺が起きたら嫌だと思ったから、自分の身を守るためだけじゃなくても人を殺せると思った。


 光は一体何をやらせたいんだろう。


 異常能力持ちの無力化には、戦争を起こさせない為という意味が本当にあったんだろうか。


 もし、光の目的が、私が異常能力持ちを殺して回ることだとしたら、それは何の為に?


 魂を入れる器を急減させない為に。それは嘘じゃないかもしれないけど。それだけなら、戦争は許さないと神託を降ろさせて教会から国王に伝えさせれば、少なくとも人族は戦争を起こせないんじゃないか?

 無力化に光が直接手を下すと加減ができないから面倒が増えると言ってたけど、神々に命令して神託を降ろすなら問題も無さそうだ。

 私をわざわざ現地に派遣して、任務という形で調査や接触させるのは何故だ?

 偽りの情報を与えたり、私の地球での知識や常識を利用してミスリードした上で任務に当たらせる理由は?


 過去の年表を銀麗に渡されて見比べると、人族の国同士の戦争が増減している。隠蔽したり出してみたりしているようだ。

 百年ほどかけて、大規模な災害が無かったことになったりもしている。

 年表を編纂、出版しているのは教会らしい。

 教会は神託により、毎年新しい年表を書き起こすそうだ。

 今、神託の内容を好き勝手に出来るのは、光だよね。

 世界が創った箱庭を、彼女の理想のままに守るために歴史を操作してるのか。ご苦労なことだ。

 箱庭でお人形さん遊びがしたいなら、『世界』はワンブック人に心なんか与えるべきではなかったんじゃないかな。

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