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馬車の中で地図を見る

 銀麗が用意した馬車で、私とシェードとセシルと銀麗は翼の里へ向かっている。

 御者台にはシェード。他三人は馬車の中だ。アンソニーの顔は狙われるから中にいろとシェードに言われたが、理由がそれだけじゃないのは今なら分かる。

 以前の私は他者が自分に向ける善意に疑いしか持っていなかった。善意を向けられても対価を求められているだろうと考えたし、利用してやろうと思っていた。善意めいた言動の裏には対価の要求か偽りしかないと考えて、裏をかいてやろうと思っていた。

 だけど、今はシェードの「狙われるから中にいろ」の裏には「中で俺以外の奴から知りたい情報をもらえ」という更なる善意があることが感じ取れる。


 出発前に銀麗の指示で、私が描いた『悪霊使い』の似顔絵を持った配下の魔人族達が、奴の体液を摂取しないよう同胞らに通達に行った。

 行動を共にする間、私に知識を与えるためにと馬車に積み込まれた地図や歴史書は、塔の書庫には無かったものばかりだ。


 私はどれだけの嘘を光につかれていたのだろう。


 私は持って生まれた記憶力のおかげで、年齢の割に地球の知識はおそらく相当に持っている。

 けれど、地球と似たような動植物が存在して人間そっくりの人族が人口の大半を占め、空と海が青くて夜と昼があり太陽も月も一つずつなワンブックは、光によって上手く隠されていたけど、私にとっては本当は何も知らない異世界だった。

 私が地球の日本で生まれ育ち、頭と体に染み付いた「普通」や「常識の範囲」や「そういうこともあるかなという妥協」を利用して誘導し、光は私をワンブックの真実から意図的に遠ざけようとしたとしか思えない。


 利用するのはお互い様だと割り切れる。


 だけど、割り切れるのは、「お互い様」だったらの話だ。

 こんなやり方は、一方的に私を搾取した実の兄と何ら変わりない。アレと同じやり方を私にするなら、誰であろうとそれは私の敵だ。


 まともに戦って勝てる相手じゃないのは分かってる。けど、全く抵抗も出来ない関係でいる気はない。

 光が私から隠した情報を得て、自分の頭で考えて、納得できるまで徹底的に抵抗してやる。


「随分と熱心に見ているが、貴族や大きな商家ならばどの家にも置いてある程度の地図も、初めて見るのか?」

「うん。この世界には詳細な地図は存在しないって言われてた」


 手元の地図はA3サイズくらいの薄い冊子で、国名も地名も記入されていないワンブックの全体図が1ページ、大陸だけの国名が記入された地図が1ページ、水晶国の地図が1ページ、大陸を東西南北に分割した詳細な地名入りの地図が4ページ。


 私が塔で見ていた地図は、ワンブックの全体図に水晶国と仙境の場所が記されただけのもので、仙境の麓の森の中に翼の里があることは口頭で説明されたから詳しい場所は把握してないし、「この辺りは人族の国が点在してるよ」とザックリ説明された場所には実際は果樹花王国もあったらしい。


 大陸西側の山に仙境があり、山の東側の麓に広がる森に翼の里がある。

 翼の里から更に東側、大陸の中央に向かって森を抜けると、今は立入禁止の遺跡となっている果樹花王国があるようだ。


 人族の国は西側には無く、東の海沿いには水晶国との貿易で潤う大きな港を持つ国が三つと漁港しかない国が五つある。東の内陸部は平野が広がり川が流れ、市街地より農地が広い農業が主な産業の国と農産物の加工品を流通させる商業国家が点在する。

 勇者の任務で出向いた国は、その商業国家の一つだったようだ。


 南の海沿いには各種金属の出る鉱山の山脈があり、四つの国が一つずつ山を持っている。

 山を持たない南の内陸部の国は金属加工業が盛んで、山を持つ国々とは友好国。

 生臭坊主の任務に当たったのは、その内の鉄の加工が盛んな国だったようだ。金属加工業が盛んな国には獣人族が多く出稼ぎ労働者として流れて来るそうだ。


 北側の海沿いは水産資源が豊富で漁業が盛んな国が並び、魚介料理を目玉にした観光産業も発展してホテルや別荘も多いらしい。

 セシル達と出会った学園があったのは、この中の国の一つだ。

 北の内陸部には、温泉郷を展開している山があり、その山は四つの国が共同で所有している大陸随一の高級リゾート地だと言う。

 各国の貴族や金持ちが別荘を建設し、山中に幾つかある湖の景観を楽しめる土地は価格が高騰し続けているそうだ。

 眼球コレクターの一人が新築した別荘も、この山の湖畔だ。

 そして、この山から流れる水で麓に豊かな牧草地が広がり、温泉郷の山を持たない北の内陸部の国々は畜産で財を成している。


 元の世界の知識がある私の感想は、造られた箱庭みたいな都合良く配分された世界だな、だ。

 気候や土壌に不公平も無く、与えられた環境に沿った生き方をすれば飢えることのない筈の優しい世界。

 を、創ったつもりなんだろうな。『世界』は。


 創造主が意のままに管理し続けることが可能ならば、そのまま回っていたのかもしれないけど。


 今は光が腹の中に収めて生命力を与えなければ、資源は産出されないし生物は死に絶える状況だ。

 新しい魂が追加されることは無く、魂を入れる器も現存するワンブック人が繁殖に成功しなければ減る一方。

 そして、管理者不在のバグ発生システムで異常能力を与えられた人族が戦争の引き金としてバラ撒かれている。


 戦争の引き金になるのが異常能力だけとは思えない。


 人族の国々の産業や資金源がバラバラに分かれ過ぎている。

 大陸の産業を牛耳る一大国家を目指して、覇者を目指す者が出て来ないのは不自然じゃないか?

 一国で資源と産業を握れば水晶国より資金力のある大国になり、人族は人口の多さや繁殖力の高さも相まって、最も栄える種族となるだろう。

 この程度の地図は財力があれば平民でも所持が可能で、各国の産業に関する知識が一般常識ならば、人族の国を統一する野心の持ち主が現れない理由が分からない。

 それとも、それは思いつかないように『世界』にプログラミングでもされているんだろうか。

 だとしても、それだってバグで覇者を目指す者が発生するかもしれないじゃないか。


 私は頭を振って一つ息を吐くと、次は歴史書と年表を手に取った。

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