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お出かけ

「次の任務は、悪霊使いの無力化だよ」


 鏡の間でカレーの食事を再開すると、光が『記憶の鏡』を操作しながら言った。

 鏡に映るのは人族の男性。三十代くらいかな。地球で言えばラテン系白人みたいな風貌で、オールバックの黒髪に青い瞳のマッチョマン。貴族風の服ではないけど高そうな服と装飾品。実用的な武器は身につけていないように見える。

 けど私が気になるのは悪霊使いの外見ではなく、『悪霊使い』という呼称。勇者と違って、物語の中にだって出て来ないものだ。


 そもそも、ワンブックには幽霊とか亡霊なんて言葉すら存在しない。

 ワンブック人の誕生システムを聞いたら納得したけど、魂を持つ生き物は死んだら即座に魂を回収されてるんだから幽霊になる暇が無い。

 この世界には子供が怖がる「おばけ」なんてものはいないし、墓地が肝試しに使われることも無い。


 でも、生臭坊主の一件の時にも出てきたけど「悪霊」という言葉は存在する。

 ただし、悪に染まった霊魂という意味ではない。治療不可能な未知の病に罹ることを「悪霊に憑かれた」と言う場合があるようだ。

 地球で言う精神疾患の患者が異常な行動を取るのを見て、病名が付けられない周囲の者達が「悪霊憑き」と呼ぶらしいけど。

 一応病と認識されてはいるものの、治療不可能な未知の病だから、「悪霊憑き」になると何をしでかすか分からないと恐怖の対象になることも多い。

 そのため、医師より教会に助けを求める患者や家族もいるし、解明されていない部分の多い「悪霊憑き」の正しい知識を持つ者は層が限られている。

 この辺は地球の精神疾患の患者と扱いが似てると思った。

 で、悪霊の正体はそういうことだから、それを使役する者がいると言われると疑問が湧く。地球的な意味での悪霊使いも、浮遊する霊魂なんていないんだから使役することは出来ないよね?


「少しは記憶する以外に頭を使うようになったね」


 嫌味かな。褒めたつもりかな。


「闇の成長を僕は喜んでいるよ?」


 ラッシーを飲み終わったジョッキを洗浄して、光が銀色の液体を満たす。ジョッキ一杯飲むの? いつもはカップ一杯なのに。

 無言の圧力に促されてジョッキに口をつけると、光が説明を始めた。


「悪霊は、ワンブックでの意味で考えて構わないよ。簡単に言うと、狂人生産能力だね。自分の体液を与えた相手の精神を狂わせることが出来る。体液の種類は問わず」


 唾液、汗、涙、精液、尿あたりは痛い思いをしなくても出せるな。多少痛くても血液も死なずに出せる。


「元が旅芸人だから、各地で口接けたり抱いた相手を悪霊憑きにしてきたんだけどね。今までは性的接触をした相手が自分に惚れるから狂うんだと思っていたようなんだけど、ソレがなくても自分の血を口に入れた相手が悪霊憑きになるのを見て能力に気づいちゃったんだよねぇ」

「気づいたから積極的に狂人生産してるってこと?」

「狂人生産が出来るだけで統率は出来ないのにねぇ。滅亡した国の跡に狂人王国を築いて自分が王になれると夢想しているみたいだよ」


 人口減少の危険度は戦争より低そうなんだけど。ワンブックの悪霊憑きって自殺はしないし、同種族の力自慢が数人いれば押さえ込めるよね。

 それに、生臭坊主の時には洗脳されてたから実行犯が悪霊憑きの目玉を抉る目的で拉致してたけど、普通だったら悪霊憑きというだけで迫害はされない。怖がられはするけど、むしろ病人だから保護されて衣食住は保証される。この辺の福祉は地球より手厚い。


「緊急事態じゃないなら、先にセシルのところに行きたい」

「彼女なら水晶国の王子が保護しているから無事だよ」

「銀麗にも会いたい」

「・・・・・・どうして?」

「約束がある。自分で信用して結んだ約束を守りたい。それにセシルは友達だ。会いたいと思うのに理由が必要なの?」


 表情の消えた光を見つめていると、銀色の液体を飲み干したタイミングで身分証が差し出された。


「アンソニー・テイラーは人族の王族の一部と魔人族の一部に目を付けられてしまったからね。新しい身分証」


 力の神のシンボルが浮かび上がる人族の身分証。アンリ・ミラージュ、人族、男性、20歳、髪の色黒、瞳の色緑、犯罪歴無し。


「瞳の色だけ変えて。髪は少し短くしようか。僕が整えてあげる。僕の中に送ってあげるから、あとは駄犬に案内させるといいよ」


 瞳を緑に変えると光が私の髪を結わなくても邪魔にならない程度に短く整えた。

 新しい身分証をウエストポーチに仕舞う。


「自分の役割は覚えているね?」

「魂の器が激減するのを防ぐのと、完全体になったら光の不眠症解消グッズになる」

「・・・・・・そうだよ。だから、完全体になるために、色々経験して成長しておいで」


 どういう意味の間と痛みを堪えるような表情なんだろう。

 答える気が無いだろう疑問は流されたまま、私はワンブックの森の中に立っていた。

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