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ヒロインの無力化 4

 屋台で売ってるのは食べ物だけじゃないんだよねー。


「お前、あんなもん何に使う気だよ」

「人助けだよ。お兄ちゃん」


 屋台を巡って食材も買い込み、私とシェードは学園に戻って来た。

 港町の屋台には、珍しい物を並べる店も色々あって、一見ガラクタみたいな骨董品や美術品、装飾品や怪しげな薬まで、ちゃんと探せば面白い掘り出し物がある。

 よくよく見なければ判らないし、実物を見たことが無ければ見過ごすほど微かだが、一般的な魔道具とは違う『呪いの品』には暗いツヤがある。

 塔にいる間に光から幾つか有名どころの『呪いの品』を見せてもらったから、特徴の暗いツヤは見分けられる。何の呪いなのかは購入後にシェードに神眼で鑑定してもらった。

 いやぁ、面白い物が手に入ったなぁ。


「お前が後から後悔しないなら好きにしろ」

「反省はするけど後悔はしないよ」


 男性寮への道を話しながら歩いていると、『記憶の鏡』で見覚えのあるヒロインが正面から突っ込んできたので避けた。

 この子、何してるんだろう。スライディング土下座?


「痛ぁい。転んじゃったぁ。アタシったらドジっ子!」


 起き上がって地面に内股で座り込み、こっちをチラッチラッと上目遣いで見ている。

 おぉ、すごい。テンプレみたいだ。


「兄さん、助けて欲しそうだから手を貸してあげれば?」


 仕方ない、と言うようにシェードが手を貸そうと近寄ると、勢いよく立ち上がったヒロインが私に再度突進して来たから、もう一度避けた。

 ずべしゃー。

 リアクション芸人で食べていけそうな見事なスライディング土下座再び。

 私の目を見てボディタッチしたいんだろうなぁ。

 本命は身分のある金持ちだけど、優良物件は全部キープしておこうってところか。強欲なことだ。結局一人しか選べないんだし、他の真剣にパートナーを探しに来ている生徒達の迷惑だろうに。

 まぁ、この子も真剣に玉の輿には乗りたいのかもしれないけど。


「ア、アンソニー・テイラー君だよね。アタシはセシル・レイトン。アンソニー君と同じ18歳だよっ。よろしくねっ」


 私は本当は18歳じゃないけどね。

 めげないヒロインに両手を掴んで目を見て挨拶されてしまった。

 当然、魅了されないけど。


「え・・・? あれ・・・? アンソニー君?」

「どうかした?」


 どうすれば男が思い通りになるか、これまでの経験則で自分の力の使い方が分かってるんだろうな。全く気の無い私を不思議そうに見上げている。


「アンソニー君も、度を越した面食いなの?」


 嫌そうに顔を顰めて問うヒロイン。そんな顔をしたら明るいドジっ子ヒロインのキャラが全う出来ないよ。


「俺は面食いじゃないけど、女性じゃ勃たない」

「はぁっ⁉」


 生えてないから男性にも勃たないけど。


「女を探さない男なんて、この学園に何しに来たのよ⁉」


 そう思われるよなぁ。

 薬を盛られるのが嫌で咄嗟に女性お断り宣言しちゃったけど、ここに来る人達の目的は「優秀な者の血を得ること」と「優秀な血を高く売り込むこと」だから、庶民の男性が売り込む先は、通常は金持ちの女性だ。

 でも、何事にも例外が存在したっておかしくない筈。


「俺は自分の才能を活かして事業を起こす為の優秀なパートナーを探しに来たんだ。同性婚なら俺のパートナーになった男性は女性も選べるから困らない。俺は継がせなければならない家も持っていないし、兄が理想の妻と結ばれればテイラーの血は繋がる」


 口から出任せだけど、こういう人だっているんじゃないかなぁ。

 ワンブックの人達は大抵がバイセクシャルだ。けど、同性だけ、または異性だけしか対象に出来ない人もいるし、それで迫害されることは無い。

 血を残す為に婚姻は異性とするけど、独身時代の恋人は同性ばかりという人もいるし、同性に性的に接触するのは生理的に無理という人もいる。

 そしてヒロインは、多分ガチガチの異性愛者。


「信じられない。優秀な者には血を残す義務があるのに放棄するなんて最低のクズじゃない!」


 うわぁ、すごい言い様だ。ワンブックで同性愛差別発言は下品で恥ずかしいことなんだけどなぁ。


「クズで結構。勃たない相手と子づくりなんか出来ないだろ」

「優秀な新入生だって聞いたからアタシの取り巻きにしてあげようと思ったのに最悪」

「キャラ崩壊して本性出てるけどいいの?」

「アタシに夢中な男達はアンタの言うことなんか誰も信じないわ」

「ふぅん。興味無いからいいけど。それより情報買わない?」

「は?」


 私はニヤリと口元を歪めて声を潜め、ヒロインの耳に囁く。


「この学園には君の知らない王子様がもう一人いる」

「嘘・・・」


 ヒロインの目が見開かれる。


「本当。俺、合格してすぐ口説かれたし。身分を隠して本当に優秀な生徒を見極めてるんだって。男は俺にするつもりらしいけど、まだ女は選んでる途中だってさ」

「騙そうったってそうはいかないわよ。この学園に身分を偽って編入できる訳ないじゃない」


 私もシェードも偽って編入したけどねー。


「生徒として編入してないから。職員の銀麗は、水晶国の王子だよ」

「水晶国・・・」


 ヒロインの瞳が強欲の焔に染められる。


「本当なんでしょうね」

「ああ。人族の王子なんか目じゃないくらいの大金持ちだよね。君は折角女性なんだからさ、既成事実、作っちゃわない?」


 にいぃっ、と不気味なほどヒロインの唇が吊り上がった。

 私はウエストポーチから先刻屋台でシェードに買ってもらった『呪いの品』を取り出した。


「これ、君にあげる」


 ヒロインの掌に転がしたのは、ピンクの石が嵌った白金の指輪。


「これを銀麗の指に填めると、彼は目の前にいる君と既成事実を作りたくてたまらなくなる。あとは上手くやればいい」

「これ、何?」

「呪いの品だよ。催淫リング。指に填めると意識を失うまで性欲が尽きない」

「へぇ・・・情報の代金はいくら?」

「金はいらない。俺がこの学園で平和にパートナー探しができるように、女生徒達に俺が女は無理だって広めて。あと、男も兄より弱いのは論外だって。銀麗は兄より弱そうだから、いくら金持ちでも俺の好みじゃないんだ」

「分かった。アタシの邪魔をしないならどうでもいいわ。代金として、その話を広めてあげる」


 これで女性に追い回されることは無くなるし、男に言い寄られたらシェードに押し付ける口実が出来た。

 魅了の力で油断させて指輪を填めてしまえば、銀麗はヒロインに襲いかかるだろう。

 既成事実が出来てしまえば、銀麗はヒロインを受け入れなければならない。因みに、既成事実とは避妊しない性交渉だから、避妊した上での婚前交渉はワンブックの恋人達には普通にある。

 魅了されただけじゃ大国の王子として慎重に伴侶を選ばなければならない銀麗は、求められても避妊するだろう。呪いの指輪で理性を失えば避妊する余裕も失う。

 人族の王子が怒り狂って兵を出そうとしても、相手が水晶国なら王が絶対に止めるだろう。人族の国一つ二つと水晶国では国力が違い過ぎる。

 婚姻後もヒロインに魅了され続けて、銀麗がヤンデレ監禁エンドに持っていってくれれば解決だ。

 ヒロインも玉の輿に乗れれば望みは叶ってるんだから、ハッピーエンドなんじゃない?


「じゃあ、頑張ってね」


 指輪を握りしめて去って行くヒロインを見送って、シェードの方を向くと変な顔をしていた。


「ヒロインは最悪始末する必要もある対象だが、銀麗の人生を狂わせるのはどうかと思うぜ」

「魔人族の寿命は人族より遥かに長い。せいぜい数十年、人族の女性を囲ったからと言って人生は狂わないだろう」

「お前なぁ。愛した相手に先立たれて長い人生苦しみ続ける可能性だってあるんだぞ?」


 ・・・・・・それは、思い当たらなかった。

 魅了も洗脳みたいなもので、会わないで時間が経てば解けるんだと思ってた。


「洗脳は従えて操作。魅了は恋に落とすんだ。恋に落ちた後から、その相手を愛しく想い、気持ちが募っていくもんだろう。恋なら新しい相手を見つければ失っても乗り越えられるが、愛した相手は簡単には忘れられねぇもんだ」

「そういうものなんだ・・・。知らなかった。どうしようシェード」


 こっちを探って来る銀麗の注意が他に向いて、ついでにヒロインも片付けばいいな、くらいの気持ちだった。この方法なら、ヒロインを殺す必要も無い平和的解決策だと思っていた。


「後悔してるか?」

「反省してる」

「反省したら、人はどうするものなんだ?」

「謝る」


 でも、謝って済む案件じゃないよな。

 ぽす、とシェードの手が私の頭に乗った。


「俺は買ったもんを冷蔵庫に入れてくるから、お前はヒロインを止めに行け」

「うん」


 偽物の兄は本物の兄が見せたことの無い「お兄ちゃん」の表情で私を促す。

 何だろう。脈拍が通常より少し速い。

 私はヒロインを探しに走り出した。

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