ヒロインの無力化 3
寮の部屋はそれなりに広かった。
ベッドと机と本棚が二つずつ。クローゼットは共用で、バス・トイレ付き。入学案内には簡易キッチンと記述されていたが、普通に使えるキッチンと大きめの冷凍庫付きの冷蔵庫がある。
「この部屋は食堂が使えない生徒用だとよ」
あぁ、薬盛られないように完全自炊が必要だからな。
「そこまで手段選ばないのが当たり前になってるのに、ヒロインはよくまだ無事だな。無理矢理既成事実を作られたりしないの?」
「その辺は性別の差だな。ヒロインが魅了してるのは男性だけだ。ヒロイン自身から選ばれてねぇのに卑怯な手段で手籠にしたら、プライドも許さねぇし卒業後の仕事にも差し支える」
ヒロインが狙ってるのが玉の輿なら、魅了してるのは良いとこの坊っちゃんだろう。家を継いだ時に、卑怯な手段で手籠にして得た妻を隣に並ばせておくのは体面上よろしくない。
でも、だとすると、魅了されても恥も外聞も無く暴走するわけじゃないのか。
「体面が何より大事な王族や貴族はな。ただの権力者や金持ちの子弟が魅了されたらどうなるか知らねぇが、今んトコ王子どもが他の恋敵を牽制してるからヒロインに無理強いする野郎はいねぇ」
へぇ。危ういバランスだ。いっそ誰かに手籠にされてヤンデレ監禁エンドになれば無力化完了なんじゃないかなぁ。
「お前はまた物騒なことを。手籠にしたのがどっかの王子なら、ヒロインを狙ってた他の王子が怒り狂って兵を出すかもしれねぇだろ」
えー、そんなにこの学園に王子様が居るのか。
「今、三人在籍してて三人ともヒロインに魅了されてるぞ」
「へー、選り取り見取りだね」
生徒に三人、プラス職員に水晶国の王子様か。
人族の国は日本の地方都市程度の大きさだ。ワンブックに貧しい国は今は無いけど、島一つが一つの国であり宝石を産出する水晶国は、ワンブックで一番の大国かつ一番の金持ち国家だ。
繁殖力の高い人族の女性を望んで妻にする魔人族も少数だがいる。
資産が多い家に嫁ぐのが目的なら、王位継承権第一位以外の王子と婚約するより、水晶国の平民の資産家と婚約する方が多分後から自由になるカネが多いだろう。
なら、水晶国の王子と婚約できたら人族の王子なんて、どうでもよくならないかな。
「お前、すげぇ悪い顔してるぞ」
「嫌だなぁ、兄さん。俺は人助けの方法を考えていただけだよ?」
下手にキャラを作ると何が起きるか分からないから、今回は一人称だけ庶民の成人男性らしくしよう。
「ん? お前、ホントに色しか変えてねぇの?」
「今回は顔も体も声も変えてない」
「は⁉ どっからどう見ても男だぞ⁉」
「そうなんだよなぁ。生えてないけど」
「生えてない?」
「ちん」
鼻ごと口を塞がれた。息ができない。
「あ、悪ぃ」
「さすが童貞」
「ほっとけ」
「あ、ホントなんだ」
「違っ‼」
シェード涙目。よく分からないけど、非童貞って男から見たら偉いの? 憧れるの?
「そういう訳じゃねぇけど、バカにされんのは嫌なんだよ」
「からかってるけどバカにはしてない。俺も童貞だし」
「生えてねぇんだから当たり前だろ」
「生えてる体になった時も勃たせ方が分からないからヤッてない」
「んなもん・・・あ? お前、前に俺の姿で・・・」
「ヤッたなんて一言も言ってない」
「うがーっ‼」
どうやって勃たせるものなんだろう。折角男性寮にいるんだから、独身男性の生態をじっくり観察するチャンスだなぁ。
「ヤメロ。この任務の間はお前は常に俺と共に行動だ」
「じゃあ兄さんが教えてくれるの?」
「バッ・・・」
うわ、顔だけじゃなく服から出てるとこ全部赤いな。そんなに純情で、この学園の生徒達に言い寄られた時に困らないのか。
「それは平気だ。顔面レベルの基準を満たしてねぇ奴らに何をされようが反応しねぇ」
「俺の顔面レベルがヒロインや王族以上とは思えないんだけど」
「あ? んー? おかしいな。男にしちゃ綺麗で可愛い顔をしてる程度で大したことねぇのに」
事実だからいいけど大概失礼なこと言われてるな。
「店が閉まる前に一度学園から出て食料調達するけど、兄さんはどうする?」
「ん? 出るのは構わねぇが、わざわざ重いもん買わなくてもソイツから何でも出せるだろ?」
左右に首を傾げていたシェードがウエストポーチを指差した。
「買い出しもしてないのに自炊の匂いさせて生活してたら怪しいだろうが」
「あー、スマン。人族の感覚だとそうだよな」
神は飲み食いできるけど、飲み食いしなくても死なないからな。任務中にシェードが食事してるの見たことないし。
あれ? じゃあ作るのは自分の分だけでいいのか。
「俺の分も作れよ。嗜好品として好きなんだよ」
じゃあ、魚介料理にしよう。
ホタテをフライにして、タルタルソースも作るか。あとは魚介のマリネサラダを作ってパンを添えればいいか。
「白ワインも買ってこようぜ」
「いいけど。任務中に酔うなよ」
「ワインで酔うわけねぇだろ。てか、お前意外と真面目だったんだな」
失礼な。真面目にやって来てなきゃ今頃生きてない。
「悪ぃ。お兄ちゃんが屋台で何でも買ってやろう」
何でも・・・。その言葉忘れるなよ。
「ああ。可愛い弟の為だ。男に二言は無ぇ」
癖なのか、ぽすぽすと私の頭を軽く叩くように撫でるシェードと部屋のドアを出る。
ふふ。後悔するなよ。




