ヒロインの無力化 1
いつものようにシェードを呼び出すと、最初から人族に紛れ込む風体で現れた。
金色の短髪、青い瞳、着ているのは制服?
「シェードも編入するの?」
「もうしてる。神獣のガキがいねぇか先に調べるようにアレに命令されたんだよ」
神獣って、そんなにしつこいのか。
でも、再会なんてそうそうあるものでも無いような。
「お前には偶然無双があるだろうが! 仙境の奴らも何かの調査で人族の国を巡ってるみてぇだからな。ほらよ」
シェードが人族の身分証を差し出した。
私が光に渡されたのと同じく、力の神のシンボルが浮かび上がる身分証。
シェード・テイラー。人族。男性。21歳。髪の色、金。瞳の色、青。犯罪歴無し。
「俺はお前の兄ということになっている。流れの剣士だった両親が死んでから、二人で行商をして生きてきたが、金が貯まったから伴侶を探しに編入試験を受けて入学ってぇ筋書きだ。弟は後片付けがあるから少し遅れて試験を受けると言ってある」
今回は、ちゃんと設定のある潜入任務なんだな。
「お膳立てまでお前にさせると偶然を引き寄せるからな。それよりお前、色を変えたとは言え、任務で素顔晒していいのか? あんなに嫌がってたじゃねぇか」
「今回、色だけ変えて素の姿で動くのは光の指示。それに、塔で生活する度に元の姿が少しずつ変わっていくから、最終任務が完了する頃に今の姿を維持してるとは限らない」
「言われてみれば、育っただけじゃねぇな。顔つきも最初の頃とは違う」
「私の本質に合った肉体になるんじゃないかって言ってた」
「へぇ、そういうもんなのか」
身分証を返すと入学案内の冊子が渡される。
パラパラと捲ると、学園創設の理念や施設案内、授業内容や規則の説明が掲載されていた。
勉強する為に入る学校と言うより、学校の体裁で作った結婚案内所みたいな感じ。
随時行われている編入試験が、ワンブックの一般的な高等教育を優秀な成績で修了していないと受からないレベルだから、授業は教養を増やしたり体が鈍らないように鍛える目的のものがほとんど。
一斉に行われる入学試験や入学式、卒業式などは無く、相手を決めて婚約したら卒業。
全寮制で、寮の部屋は王族以外は同性で二人部屋。同性愛が珍しくないのに大丈夫なのかと思うけど、妊娠しなければ問題無いらしい。王族は肉体関係を持つようなお気に入りを作ると後々面倒が起きるから一人部屋なんだとか。
「んじゃぁ、お兄様の俺が案内してやるから堂々と門から入るぞ」
「お兄様ってガラか。兄貴だろ」
「結局兄なんだから同じじゃねぇか」
「イメージが違う」
入学案内をウエストポーチに仕舞い、木陰から出てシェードと並んで歩く。
城壁越えじゃなく門から入るのは初めてだなぁ。本物の身分証すごい。見せて学園の編入試験を受けに来たって言うだけで侵入できた。
「侵入じゃねぇし」
街に入り込んでからシェードにボソリとツッコミを入れられる。
海の匂いが流れてくる方向に港もあるようだ。屋台に魚介料理も並んでいる。
「受かって入寮したら街に出ようぜ。お前をこの世界に慣らすのも俺の任務だからな」
「そうだったんだ?」
「今回からな」
最初は嫉妬から敵視されてたからな。
「それはもう忘れてくれ。恥ぃ」
敵視して値踏みして化け物とか言われたなぁ。
「悪かったよ。お前が『ああなる』事情もちゃんと分かってなかったし、躊躇わないだけで好きでやる訳じゃねぇことも信じてなかったからな」
「・・・仕事なら何でもできるよ」
「出来るのとやって平気なのは違ぇよ」
大きいホタテ、美味しそうだな。
「お前、俺が読むの前提で本心隠すやり方覚えたよな」
寮の部屋には自炊ができる簡易キッチンが付いてるらしいから、後で材料を買いに来よう。
「まぁいいけどよ」
ぽすぽすとシェードに頭を撫でられながら歩く内に、煉瓦造りの学園の門に辿り着いた。
「編入試験て何割点数取ればいいの?」
「さぁな。落ちたらシャレになんねぇから俺は満点取ったぜ」
「じゃあ全力でやっていいのか」
「おう。頑張れよ」
門の守衛に身分証を提示して、試験を受ける建物を教えてもらう。
シェードとは一旦分かれ、門のすぐ側の飾り気の無い二階建ての建物に入った。




