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休暇

 しばらく休みなさいと言われても、休暇の過ごし方が私には分からない。

 知識としては、「それっぽい過ごし方」と言うものはあるけれど、それを演じて自分の「休み」になるのかもよく分からない。

 光に相談してみたら、必要な注意はするから好きに過ごせばいいと言われたので、前回の準備期間と似たような生活をしている。


 体を虐め抜くような鍛錬は止められたから、運動は日課のトレーニングと素振りと型のおさらいくらい。

 ワンブックの書物が全て収められた、地球の図書館より広い書庫で読書をする時間も多い。

 神獣のことを調べてみようと思ったけど、人族に実在を秘しているだけあって関連書籍は皆無だった。

 獣人族や魔人族の書物にも無いんだから徹底してるよなぁ。そう言えば光の講義でも口頭でしか教わってない。

 そこまでして人族に実在を隠すのは、人族ほど多彩な欲望を持つ種族がいないからだそうだ。

 獣人族が持つ欲望は、食欲、性欲、睡眠欲の他は権力欲くらい。魔人族は、それに知識欲が追加される。

 人族は、他の種族には想像もつかない行動に出ることもままある。という結論に至った他種族は、人族の欲望に繋がりそうな自分達の「常識」が外に漏れないように徹底することにした。

 翼人族は徹底しすぎて、結界から出て来ない。


 運動と読書以外では、キッチンに立つことが多い。

 果汁と果実のゼリーとか、魚介のグラタンとか、バターたっぷりのオムレツとか、元の生活では材料費が気になって作らなかったものを好きに作っては食べている。

 ちなみに、ゼラチンの原料はワンブックの水棲生物の卵を乾燥して粉末状にしたものだ。卵は蛙のものに似ている。もっと大きいけど。


 恵まれた栄養状況のおかげなのか、休暇中にまた成長したようだ。

 もう上には伸びていないけど、筋肉と骨格が育った。

 実感できるくらい骨格が育つって、考えてみると自分の年齢ではおかしい気がする。

 けれど実際、手が大きくなって、剣の柄を握って振り回すのが楽になっている。

 じっと手を見る。

 これ、男の手だよなぁ。

 全身が映る鏡の前で服を脱いで首を傾げる。

 骨格、男だよね。これ。鍛えたから筋肉質と言える範囲は超えている。腰骨と臍の位置関係が男性体だし。

 アレが生えてないだけで、下さえ脱がなければ男に変身しなくても女性だと思ってはもらえないだろう。

 男性体に変身し過ぎたせいだろうか。その内、アレも生えてくるのか?

 生えたら嫁に行けな・・・行く気が無いから問題ないか。それに同性愛禁忌の世界じゃないし。むしろ選択肢が広がる?

 いや、でも、生えたら男として生きるんだよな。

 今のままで男として生きることになったら困る。


 だって、自分のアレの勃たせ方が分からないから。


 以前、勇者の任務の時にシェードに変身して男を抱いてきたように匂わせたけど、手と言葉責めで堕としただけで、勃たせ方が分からないからアレは使ってない。

 エロいことを考えれば自然に勃つものだと聞くけど、膨大なエロ知識を駆使しても全然起きてくれないんだよ。

 どうせ男として生きるなら、エロ漫画のヒーローみたいに膨張率を自在にコントロールして攻めまくりたいじゃないか。


「闇・・・、何考えてるの」


 気が付くと呆れ顔の光が傍にいた。


「光、私、その内、生えるの?」

「どうだろうねぇ。君の本質に合った肉体になるんじゃない?」


 私の本質が女性より男性に寄っていれば、いずれ生えるのかな。

 それまでに勃たせ方を習得しなければ。


「闇は斜め上の努力を全力でする子だよね」


 また呆れられた。


「服を着て鏡の間においで。退屈そうだから次の任務の説明をするよ」


 いつも光がいる部屋は鏡の間と言うのか。

 いそいそと服を着て、『記憶の鏡』の前に座り、銀色の液体を飲みながら説明を聞く。


「次の任務は、ヒロインの無力化」


 記憶の鏡に金髪碧眼の美少女が映し出される。

 種族は人族、年齢は十代後半。学校の制服らしき物を着ている。

 学園物ヒロインぽいってことは、持ってるチート能力は『魅了』辺りかな。


「正解。ヒロインが在籍しているのは、別名『玉の輿学園』と呼ばれている全寮制の学校でね。この国の王が、自分の子供達には血筋より実力のある者をパートナーに選んでほしくて創設した学校なんだよ。だから、試験さえ受かれば、婚姻可能な者であれば誰でも入学できる。学費免除制度もあるしね。試験の難易度は高いと言われてるけど、闇なら楽勝だよ」


 へー、玉の輿学園かぁ・・・え、私なら楽勝って?


「闇にも試験を受けて編入してもらうよー。今回は妙な偶然を減らすために、僕が闇の身分証を用意したから。はい、これ」


 光に渡されたのは、ごく普通の人族の身分証。

 アンソニー・テイラー。人族。男性。18歳。髪の色、金。瞳の色、青。犯罪歴無し。

 非常にシンプル。有力者の家の者だと、備考に「〇〇家の誰々」みたいなのが追記される。

 シンプルだけど、偽造防止に、魔道具を使う感じで魔力を流すと発行元の教会のシンボルがホログラムで浮かび上がるようになっている。

 発行した教会が、身分証を持つ人物の身元保証をしているような感じ。

 このホログラムは力の神のシンボルだな。


「この前の貸しを返してもらったんだよー」


 あぁ、生臭坊主の一件か。この身分証、教会が発行と言うか神様発行みたいなものなのかな。


「今回は他人の姿を借りずに髪と瞳の色だけを変えて行ってね。また妙な偶然で変なのに絡まれたら厄介だからねぇ」


 笑顔から威圧が滲み出ている。

 異世界の神の加護は光にも先が読めないらしい。


「厄介なことが起きても、ちゃんと生きて帰って来るよ」


 私が言うと、光がフフッと笑って威圧を消した。

 任務の準備の為に、髪と瞳の色を身分証の通りに変える。


「ヒロインの魅了の力が問題になるってことは、逆ハーでも狙ってるの?」

「最終的に婚姻出来るのは一人だけなんだけどねぇ。気に入った相手を次々魅了しているよ。女性が対象にならない相手には効かないけどね。魅了するには、目を見てボディタッチが必要だよ」


 男性の同性愛者と女性の異性愛者には効かない。目を見て触られると堕ちるのか。


「魅了されるとヒロインに恋愛感情を持つようになるんだけどねー、中々情熱的になるみたいで、恋敵を蹴落そうと必死なんだよねぇ。あの学校には他国の王族も留学しているから、ヒロインを巡る王子達のバトルが国同士の戦争を引き起しちゃうかも?」


 この世界、戦争の引鉄が多過ぎやしないかな。


「そういう点では、闇の元いた世界の方が成熟しているかもね。ワンブックでは、戦争で世界が滅ぶかもしれないなんて、誰も考えないからねぇ」


 誰も考えないけど、滅ぶ可能性はあるんだろうな。


「世界は永遠じゃないからねぇ。じゃあ、気をつけて行っておいで。闇」

「行ってきます」


 塔の外の匂いを感じたら、街道脇の木陰に立っていた。

 潮の匂い。今回は海が近い国なんだな。

 旅人っぽい荷物一式をウエストポーチから出して背負う。護身用の剣も装備。

 任務開始だ。

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