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生臭坊主の無力化 7

 現在、単独行動で柊ファミリーの家の天井裏に身を潜めている。

 どうにも微妙な表情をしていたことが気になったのと、イアンの外見が獣人族にとって絶世の美人だという話が本当なら尚更、柊ファミリー、特に柊の態度が腑に落ちない。

 楓は目を開けた瞬間からイアンの顔に一目惚れ状態でウットリしていた。

 楓の両親や既婚者の兄姉も、口説いては来なかったが美しさを絶賛していた。

 何と言うか、柊ファミリーと楓ファミリーの熱量が違う気がした。


 獣種の違いかとも思ったけど、柊は最初の内はイアンの顔に言及しなかった。

 楓が目覚めそうになったタイミングでイアンを美人だと言い始め、顔を舐めてきた。

 柊の家に来てからも、三人がかりでイアンを触りまくって舐めてたけど、楓の舐め方と柊とその姉の舐め方は違った。

 楓の舐め方は、舐めるのが嬉しくて仕方ないように感じたけど、柊達の舐め方は、わざとイヤラシく舐めてるように感じた。

 そのイヤラシい感じも、気に入ったから誘惑してると言うより冷静に反応を見ているようで、枕営業技術の動画を思い出した。


 柊の両親と姉がイアンを初めて見た時の反応も引っ掛かっている。

 まるで、「獣人族の常識的な反応として」イアンに目を瞠って歓声を上げたようで、「思わず上げた歓声」とは私には思えなかった。

 自分も人真似をして演じる仕事をして来たから、他人が仕事として造る表情や声の粗は見えてしまう。


 シェードも何か隠しているから少し腹が立って思考にも乗せなかったけど、多分、柊ファミリーは私と同じで何らかの任務でここにいる。

 感情のコントロールや演技も訓練を受けているんだと思う。

 訓練を受けている分野がそれだけな訳はないし、敵と見なされた場合に獣人族四人が相手だと結構戦況は厳しくなるだろうけど。

 何となく、敵ではないような気がするんだよなぁ。

 美人だから無条件に好き、とか思われてる気は全然しないけど。


 食堂で食事が終わって、それぞれ移動し始めた。

 食事中の会話が、当たり障り無く普通過ぎた。

 これは、気付かれてるのかなぁ。

 バラけた四人、天井裏から誰に付いて行くか。

 やっぱ柊かな。幼体なのに、何故か一番食えなさそうな感じがするんだよなぁ。成体の他の三人に指示を出していてもおかしくないくらいの。


「イアン、君、本当に人族?」


 あぁ、やっぱりバレてた。

 柊が個室に入ったところで声をかけられた。

 音を立てないように、同じ室内に飛び降りる。


「姿が見えてるから隠密魔法じゃないし、生身で人族がそこまで音も気配も消すって、おかしいよ」

「鍛え方と訓練次第だよ」


 この世界には隠密行動に特化した魔法を使える人もいるもんね。魔法に頼れるから技術を磨く必要が無いんだろうけど。


「音も気配も消してたつもりだけど、何で気付いた?」

「匂い」

「獣人族のいる場所には忍び込めないな」

「気付いてたのボクだけだから大丈夫。ボクは特別に鼻がいいから」


 猫って獣の中で、そんなに嗅覚発達してたっけ?

 疑問が顔に出ていたのか、柊が薄く笑って話を続ける。演技の感じられない表情。


「ボクは普通の獣人じゃないから」

「混血ってことか?」

「それもあるけど、普通の獣人と比べて特別に鼻がいいのは、ボクが神獣だからだよ」

「は・・・?」


 神獣? って、人族には実在していることを秘している、仙境から一生出ない、獣人族の特別変異体。と、光に聞いている。

 どうして仙境から出てるんだ? どうして人族の姿の私に言うんだ? え、聞いちゃったから消される?


「そんな特別にいい鼻に、あんな激臭劇物を突っ込もうとしたんだよね、君は!」


 あ、根に持ってたんだ。

 こめかみに青筋のまま満面の笑みを浮かべられると、怒りがよく伝わってくるな。


「そんなこと知らなかったし、あの時は蘇生させるのに必死だったから」

「君、やっぱり人族じゃないよね。神獣が実在していることに動揺してない」


 やっぱ食えないなぁ。

 実在してるのは知ってるし。目の前の柊は、他の獣人族の成体を凌駕する資質を持ってるのは感じるし。神獣だと言うのが自称じゃなくて事実なんだろうな、と思えてしまう。

 中々いい威圧を向けてきてるし。


「ねぇ、何でボクの本気の威圧を受けて平気なの?」

「もっとハイレベルのに慣らされてるから」

「は? え? 君、何処の化け物に使役されてるの?」


 化け物に使役。言い得て妙だな。絶対口には出せないけど。


「まぁ、俺を使ってるのが誰かは言えないけど、柊が神獣なら尚更、この仕事で敵対する気はない」

「やっぱり誰かに遣わされて仕事に来てるんだね」

「ああ」


 神獣は獣人族の信仰対象ではないけど、崇拝の対象であり、その力を以って同郷の者を守る存在であると学んだ。

 ならば、一部の人族が欲望から獣人族の子供を狙った今回の件で、柊の敵に回る必要は無い。

 ただ、一点を除いて。


「柊、お前、神獣なら獣人族を統率して命令出せるよな? 一部の人族が獣人族を害したら、人族に戦争仕掛けるか?」

「考えなくもないよ」

「考えないで欲しい」


 数分ほど、張り詰めた空気の中で視線がぶつかった。

 先に口を開いたのは柊。


「君が人族に特別な感情を持っているようには見えないよ。どうして人族を守ろうとするの?」

「人族を守る為の言葉じゃない。戦争を起こさせたら仕事が失敗に終わる」

「あぁ、納得できる理由だね」


 ふっと空気を緩めて柊が笑う。幼体の顔に似合わない、ひどく大人びた笑み。


「今回のことで人族に戦争を仕掛けないと約束してもいいけど条件がある」


 断れないパターンだろうけど、無茶言うんだろうなぁ。


「仕事だと言うなら、イアンという名前も、その人族の姿も偽りでしょ? 本当の姿を見せてボクに名乗って」


 そう来るか。まぁ、いかにも特殊任務に就いてますという話の進め方をして来たから、一番の弱みを握ろうとしたら其処だよねぇ。

 まぁ、しょうがないか。


「変身解いても期待に添えるか分からないけど。はい、どーぞ」


 変身解除して素の姿に戻しても、形は人族なんだけどね。色がワンブックでは有り得ないだけで。

 人族じゃない疑惑はあるけど、獣人族だと思ってはなさそうだし、魔人族だと思ってたらこの姿じゃ満足しなさそうだよなぁ。

 妙に静かだな、と思ってチラと柊を見ると、目を見開いたまま固まっていた。

 ん? どうしたんだ?


「柊?」


 名を呼んで首を傾げると、見開いた蛇の金瞳が熱を持って潤み出し、頬まで紅潮して唇がぷるぷると震え出した。

 なんか、イアンを見た時の楓みたいな?


「名前、教えて。約束だから」


 音もなく距離を詰められて反射的に退がる。


「ボクから逃げないで。教えてくれなきゃ開戦の指令を出す」


 うわぁ、脅してきた。

 ええぇ、なんでー? なんか、物凄く面倒くさいことになりそうな気がするんだけど。


「教えて。君の本当の名前」


 壁際まで追い詰められた。

 見た目が小学生くらいで猫耳付いてる男の子に壁ドンされてる状況がいたたまれない。

 溜め息が出る。


「・・・闇月」

「闇月・・・。種族は?」

「本当の姿を見せて名乗った。条件は満たした。約束を守れ。それとも神獣は嘘つきか」

「約束は守る。ここからはボクが望んでいるだけ・・・」


 ゆらりと金色の陽炎が立ち昇る。

 何だ、これ。習ってない。見たことない。けど、ゾワッとする。多分、今自分は危機。


「シェード! 助けろ!」

「命令形かよ」


 陽炎を包み込んで消し去る影。


「呼ぶの遅ぇ。またアイツに〆られる」

「ああ。魔法食らうの初めてだから危険度がよく分からなかった」

「いや、あれ魔法じゃねぇから。食らったことあったらビビるけどな」

「魔法じゃないなら何?」

「神獣の交尾の予備動作」


 は?


「邪魔しないでくれる? 先輩」


 え?


 不機嫌を漲らせた柊と私を片腕で抱えているシェードの睨み合いを、多分私は、えらく間抜けな顔をして眺めていた。

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