生臭坊主の無力化 4
一つ分かったことがある。
イアンの姿は、『偶然にも』獣人族の好みドストライクだったようだ。
目を開けた子狼の金色の瞳と視線が合った瞬間、
「わぁ、すっごい美人」
と頬を染められた時には既に嫌な予感はしていた。
いかにも余罪が有りそうな伸びた男達を簀巻きにして警備隊の詰め所の近くに転がして、この国に出稼ぎに来た獣人族の世話役だと言う柊の両親に会うために、柊の案内で彼の自宅を訪ねたのが一時間くらい前。
「イアン君、私のお嫁さんにならない?」
「ちょっと姉さん、イアンはボクの獲物だよ」
「こんな美人のお嫁さんが来てくれるなら、どっちのお嫁さんでも構わないよ〜」
「俺に婚姻の意思は無いと何度も言ってるんだけど聞いてる?」
「イアンさん、狼は嫌いですか?」
私の、と言うより「美人なイアン」の争奪戦を柊の家族と子狼の家族で繰り広げ、収集がつかないでいる。
シェードは「偶然のフラグ」と呟くと呆れた視線を寄越して我関せずの体。
どうして男性のイアンが柊の姉の嫁として口説かれるのか、さっぱり分からないけど、イアンの顔面は獣人族的には「絶世の美人」らしい。
けど、女性と子供に口説かれてもな。
少し遠い目をしつつ、話を先に進める術を考える。
柊も、楓という名のオスの子狼も、拉致されたのは今朝方で、夕飯までには帰って来ると思っていた家族は心配もしていなかったそうだ。
それで、傷薬を使いはしたけど無傷で帰宅したから、問題を大きくするつもりは無いと言う。
狼一家の方は本心からそう思っていそうだけど、柊の方の一家は別の思惑が有りそうな微妙な表情をしていた。
その思惑を気取らせない為に、わざとイアン争奪戦を長引かせてる気さえする。
今回の任務、光は人族以外の子供を拉致する目的が性的暴行であるような言い方をしていたけど、拉致された子供のセレクトと『注文表』の重なり方を見れば、神父が王を洗脳していた時のように「子供を味見して帰す」で済ませるとは思えない。
味見して生きて帰されたって死ぬまでトラウマ抱える人生になりそうだけど、目玉を抉り取られたら獣人族でも再生はしない。助け出されて心のケアをしても取り返しのつかないことになる。
あの『注文表』のことは、獣人族には話していない。
あれが明るみに出れば、仙境から派遣されるのは生臭坊主への報復部隊ではなく、あんな注文をする人族全体を滅ぼす為の軍隊だ。
可愛らしい外見の子供は人族でも誘拐されることがある。
一般的な子供の誘拐事件と救出劇のような言い方をして子供らを送り届け、まだ誘拐犯がうろついてるかもしれないから子供を一人で外に出さないよう要請した。
柊ファミリーの意図は気になるものの、これ以上ここで出来ることって何だろう。
ベタベタすりすりペロペロと両側と背後から触りまくって「イアン争奪戦」を続ける女性と子供を力尽くで引き剥がすことも出来ず、ぼーっと考えていたら、三人に揉みくちゃにされていた私をズボッとシェードが引きずり出した。
「悪ぃけど、コレ、俺のだから。そろそろ連れて帰るわ」
あぁ、やっぱり本気出せば実力差は歴然だな。女子供と言えど獣人族三人に押さえ込まれてたら、私には相手を無傷のまま抜け出すことはできない。
「ええーっ、ズルいよっ」
「美人を独り占めしないでくださいよっ」
「お前ら俺より弱ぇだろうが。悔しかったら強くなれ」
不満げな子供達が黙ると言うことは、納得する強さを彼らはシェードから感じてるのか。
そう言えば、シェードは明らかに人族じゃない匂いがするって柊が言ってたな。
「柊、さっき」
「急ぎの仕事が残ってるだろ。行くぞ」
また誤魔化した。
明らかに人族じゃないスピードで成人男性体の私を抱えて柊の家を出たシェードが、そのまま加速して街中を駆ける。
一体何を知られたくないんだ?
そんなに言いたくないなら、任務が終わったら光に訊くからいいけど。
「それはヤメロ。あることないこと話を盛られるのが目に見える」
こういうのは本人が自分から話すまで暴かない。なんて考えるような殊勝な質じゃないからなぁ。知りたかったら調べるよ、私は。
「分かったよ。時間ができたら言う」
溜め息をついてシェードが私を降ろしたのは、『記憶の鏡』で見たのと同じ外観の教会の裏庭だった。
「どうせ次はここに来るつもりだったんだろ?」
「思考に乗せてなかったのによく分かったね」
「相棒だからな」
ドヤ顔。身体能力敵わないのがクソムカつく。
この任務が終わったらもっと鍛えよう。




