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生臭坊主の無力化 3

 城壁の内側は雑木林だった。近くに人の気配は感じられない。


「イアンて、本当に人族?」

「そう見えない?」

「見た目はそうだけど、道具も使わず城壁を駆け上る人族なんて見たことないよ」


 え、そうなの。肉体強化の魔法とかあるし、普通に皆やってるかと思った。


「普通に皆やれてこの警備の薄さはねぇだろ」

「え、そういうもん? シェードだって柊抱えて城壁飛び越えたよね」

「こっちのお兄さんは明らかに人族の匂いしないもん」


 シェードの正体、獣人族には簡単にバレるんだな。

 何の匂いなんだろう?


「おら、時間ねぇんだろ。林抜けたら教会跡地だから行くぞ」


 誤魔化したな。時間が無いのは事実だから行くけど。

 林を抜けると、窓に外から板が打ち付けられた廃墟がひっそり佇んでいた。

 プレートの類は取り外されているけど、石壁に直接彫られたシンボルは力の神のもの。

 気配を窺っても何も引っかからない。


「俺は中に入るけど、シェードはここで柊を守ってて」

「お前をウッカリ死なせると俺が折檻されるんだが」

「ドMな駄犬にはご褒美なんじゃない?」

「ヤバければ絶対呼べ」

「ん。コレ、柊に塗っといて」


 ウエストポーチから傷薬を出してシェードに放ると、無施錠の扉を僅かに開けて中に滑り込んだ。

 人の気配は無いんだけど、シェードが茶化しても真面目な顔してたし、多分ここ、「何か」はあるんだろうな。

 窓は全部外から塞がれてるけど、正面のステンドグラスから入る明かりで行動の制限は感じない。

 ステンドグラスは明度の異なる赤を組み合わせた最上部に、透明なガラスで剣と斧を模した物が嵌め込まれている。時間帯によっては剣と斧が金色に見えるだろう。


 床にはベンチが撤去された跡。長く放置された廃墟にしては埃は少ない。と言うか、無い。

 足跡を消したな。

 匂いも、何でも屋時代に追われて逃げ込んだ廃屋とは違う。でも、当時これと似た匂いは嗅いだことがある。

 何処だっけ? あんまり思い出したくない記憶の気はする。覚えてるけど、普段は思い出さないようにしている種類の記憶。


「あー、アレか」


 声が出た。気配は無いけど、これ以上出さないように口を押さえる。

 見回しても、視界の中に答えは無い。他の部屋への扉も上階への階段も無い。

 足で軽く床の音を確かめる。

 見えないけど、地下がある。匂いがするってことは、ここと完全に遮断されてはいない。

 地下への隠し階段か扉がある筈。

 何処だろう。悠長に仕掛けを探してる余裕があるとは思えないし、床をぶち抜いたらマズイかなぁ。


「え?」


 押さえた手の下で、くぐもった声が出た。

 一瞬、ステンドグラスの剣と斧が金色に光ったら、ステンドグラスの下の床が1メートル四方くらいズルっとずれた。

 罠? まぁ、時間も無いしサクサク行くか。

 ずれた床の下には石の階段が降りている。明かりも気配も無い。

 ウエストポーチから火を使わない携帯用の灯を取り出して、階段を降りる。

 あの匂いは、どんどん強くなる。


 あぁ、やっぱり。


「趣味わる」


 石造りの小部屋が無人なことを確認して呟く。

 地球にいた頃、偶々逃げ込んだ倉庫で密輸した希少生物の標本を保管してたことがあった。

 剥製じゃなくて、標本。

 保存液に浸けた、希少生物のパーツ。

 あの光景と同じ臭いがしたんだ。


「最近は使ってないみたいだな」


 摘出用の台も器具も、血の臭いは私の嗅覚では感じない。薄っすら埃も積もっていて、床には足跡も幾つか見られる。

 棚には宝石で飾ったガラス瓶が二つ。中にはそれぞれ、紅の眼球とネオンピンクの眼球。


 手遅れだった?


 ガラス瓶の横に立て掛けられた書類ケースを調べる。


「世界が変わっても人の欲望って似たりよったりだな」


 一枚目の書類は『在庫表』。

 紅とネオンピンクの眼球は、討伐難易度の高い魔物のものだった。

 二枚目からは『注文表』。

 蛇獣人の眼球、希望色金。狼獣人の眼球、希望色金。虎獣人の眼球、希望色金。長寿祝い用なので目出度い金の品が欲しい。

 猫獣人の眼球、希望色青系ネオン。新築した水辺の別荘に飾るため。


 ここで全部見てる暇は無いか。

 微かに外の音が聞こえてくる。誰か来た。

 書類ケースごとウエストポーチに仕舞い、代わりに取り出した仮面を装着すると地上に走り出た。


「なんだテメェッ‼」


 見るからにカタギじゃない男が5人。縛られた獣人族の子供が一人。多分、狼獣人の幼体。

 投げナイフを5本放つ。男達の武器を持つ手に突き刺さる。

 子供を捕らえている男に当て身を喰らわせ奪還。

 そのまま止まらず扉の外へ。


「シェード! 奴らを黙らせろ!」


 柊と身を隠しているのか姿の見えないシェードに叫ぶ。

 風が通り過ぎた。

 そう感じて振り返った時には、5人の男が地面に伸びていた。


「やっぱりお前がやった方が絶対早い・・・」

「しょうがねぇだろ。俺はあくまでサポート要員なんだって」


 なんか悔しい。クソ。駄犬なんか光に掘られてしまえ。


「いや、怖いこと考えないで⁉」


 狼獣人の子供は結構重傷を負っている。

 柊を「保護」しようとしていた誘拐犯達は、やはり根が善良だったんだろう。

 拘束を解き、ウエストポーチから高性能の傷薬を取り出す。


「ボク、その子知ってる。最近親の仕事のために引っ越してきたって言ってた」

「狼?」

「うん。両親とも狼だって。ボクのとこは父さんが猫で母さんが蛇。ボクは目だけ母さん似だけど成体の蛇の姉さんがいるよ」

「柊、傷全部治った?」

「うん。さっきので治った。その薬ヤバ過ぎじゃない? なんで骨が見える裂傷が一瞬で治るの?」

「獣人族の自然治癒力ってスゴイなー」

「感情こもってないよね?」


 柊は冷静なツッコミ要員なのかな?

 でも、実際スゴイと思う。軽傷とは言え、柊に使った普通の傷薬でこんなに早く完治するのは人族では有り得ない。

 子狼に使った傷薬だって高性能な高級品ではあるけど、宝物庫で厳重管理するレベルのものじゃない。

 うーん、顔色悪いな。傷は治っても貧血状態か。増血剤も使おう。


「イアンて、どっかの王子様とか?」

「そう見える?」

「だって、普通持ってないような高価なもの持ってるし。その薬とかマンティコアの心臓浸けた酒とか」


 マンティコア? あぁ、あのデスソース臭い酒か。強壮効果があるらしくてマニアは大枚叩いて買うって本で読んだけど、金貰っても飲みたくないな。


「それに、すごい美人だし」

「は・・・? え、俺、美人なの?」


 埋没するように高校生バイトの一般人をモデルに変身したのに。


「うん。すっごい美人。もっとよく見せて?」


 装着したままだった仮面を柊に取られた。顔近いな。

 クソモテリア充をモデルにしたのは拙かったのか。なんか整った顔してるとは思ったんだよ。それにしても、この世界では男も顔面が美しければ美人と呼ぶんだろうか。同性愛普通な世界だもんな。呼び方も平等なのか。


 ざり。


「猫獣人て舌も猫なんだな」

「冷静だね」

「子猫に舐められてもな」


 そろそろ増血剤の効果が出るかな。

 シェード、これに関しては私は何もしてないからそう睨むな。

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