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生臭坊主の無力化 2

「お前の目撃者は自分で消せる発言はハッタリじゃなかったんだな」

「まーねー」


 折角武器を装備してみたのに使う必要が無かったなぁ。

 気絶してる8人は、彼らが持参した拘束具を有効活用させてもらおう。

 よーし、動かせるのは口だけになったな。


「ちょっと待て、何を取り出してんだよ」

「無傷で気絶させたのは尋問で痛めつけるためだよ?」

「お前をちょっとでも優しくなったと思った俺が馬鹿だった・・・」


 光に教わった鞭術を試す時が来た。

 まずは、バケツ一杯の水をブッかけて目覚まし。そして派手な音をさせて地面を打つ。

 自分の置かれた状況が分からない誘拐犯達がビクリと身を竦めたら、怯える程度に優しく威圧。


「お前ら、この子猫に何をしたんだ?」


 先に打つのは顔から遠い足。衣服に覆われてるから打たれた箇所がどうなっているのか本人にも分からないが、痺れる痛みがあるはず。

 8人を順番に打っていく。

 洗脳されてるにしても、どういう命令をされているのか、その命令の強制力はどの程度のものなのか測っておきたい。


「子供を縛り上げて暴行を加えて平気だなんて、お前ら何処の犯罪組織なのさ」

「違う! これは人助けだ!」


 お、喋り始めた。

 子供を縛り上げて暴行を加えるのが犯罪行為だってことは分かってるのか。こいつらは理性を飛ばす洗脳はされてないんだな。


「どこが人助けだよ。相手が人族じゃないから何をしても許されると思ったのか?」

「そうじゃない! 獣人族の幼体に多い悪霊憑きの病にかかってるから保護するよう依頼を受けたんだ!」

「依頼? 誰に?」

「依頼人をバラすほど落ちぶれちゃいねぇぜ」


 手の甲の皮膚を裂く程度に打つ。


「あぁ、見えるところに傷を残すなら仲間の女にやった方が効果があるか?」

「やめろ!」


 女性2人の顔目掛けて振り下ろしていた鞭の軌道を直前で変え、片方の女性の首に巻き付けた。


「俺はいくら打たれても構わない。彼女たちは婚姻を控えているんだ。やめてくれ」

「そういう自己犠牲はイラナイ。欲しいのは情報」


 軽く鞭を引くと女性の苦しげな呻き声が上がった。加減してるから死にはしないし後遺症も残らないんだけど、やられてる方はそうは思わないだろうなぁ。


「俺を睨むけどさぁ、大人が集団で子供を追い回して拘束して殴る蹴るしたんでしょう? それが正しいと本気で思ってるなら、その正しいことを依頼した正しい人を明かせないっておかしくない?」


 動揺してるな。そういう余地はあるのか。洗脳と言っても、即効性のある暗示のようなものなんだろうか。


「まぁ、依頼人が神父ってことは知ってるんだけど」

「え?」


 あぁ、善男善女だねぇ。簡単に引っ掛かっちゃたよ。


「力の神の神父が人族以外の子供を強引に集めてるのは知ってる。俺が知りたいのは、お前らが神父の本当の目的を知っていて協力しているのかだ」

「本当の目的?」


 動揺の度合いが増す。

 もう少し揺さぶるか。


「お前らさぁ、性的暴行加える為に他種族の子供攫って来いって依頼だったら受けた?」

「そんなわけないだろう‼」

「バカにするな‼」

「この下衆が‼」


 おぉ、口々に罵られている。その辺の良識は残るような洗脳なんだな。


「じゃあ何の為に手荒なマネして攫ってるんだ?」

「悪霊憑きの獣人族の子供は成体になる前に眼球を摘出しないと家族を殺して死んでしまうんだよ! 親は悪霊憑きの子供に操られているから子供を大人しく引き渡さない。だから子供が一人の時を狙って保護する必要があるんだ!」


 リーダーっぽい男が真摯な表情で力説する。他のメンバーも、至極真面目な顔だ。


「お前ら、その荒唐無稽な話、本気で信じちゃってるの?」

「成体になる前に保護しないと悲劇が起きるのに放っておくなんて、貴様には他者を思い遣る気持ちが無いのか⁉」


 あぁ、確かに洗脳されてるよなぁ。

 本気で知能が低い顔をした人はいないのに、こんな稚拙なストーリーを疑わずに正しいと思い込まされている。


「お前らは他者を思い遣る気持ちで子供の目玉を抉り出すの?」


 ちゃんと鼻白んだな。そこら辺は麻痺してないのか。


「だが、そうしなければ悲劇が・・・」

「それ、裏付け取ったのか? 獣人族の子供が悪霊憑きになる話、他でも聞いたことがあるか? 悪霊憑きの治療法が眼球摘出だと依頼人以外の奴に聞いたことは? 書物でもいい。知識として持っていたか? 全く聞いたことのない話なのに裏取りも調査も無しで依頼に入ったのか? お前らいつもそんな仕事の仕方してんの?」


 畳み掛けると全員が顔色を無くしていく。


「人族の子供が悪霊憑きになってるから親元から誘拐して目玉を抉り出すって言われたら、お前ら依頼受けたの?」


 ひゅっ、と息を飲み込む音がした。

 ガタガタと震え出す彼らを見下ろして、更に言葉を続ける。


「他種族なら、人族の神父様の正しい善意を受けて喜ぶと思ったわけだ? お前らは他種族の他者まで思い遣る気持ちのある優しーい人族様だもんなぁ」


 すごく辛そうだな。私に痛めつけて欲しそうだから、鞭を首から外して仕舞う。


「お前ら、同じこと仙境で言えるの?」


 何人かが目を見開いて私を見上げる。


「言えないよな。人助けだの思い遣りだの言っても、ここでは人族の方が圧倒的多数だからやったんだろ。仙境でやったら確実に全員殺されるような依頼だからな。仲間が大事なら出来ない」

「正しい行いをして、仲間の婚礼資金を稼げると思っていたんだ」


 絞り出すようにリーダーぽい男が言う。


「誰が正しいのか何が正しいのか分からない。だが、故郷の弟妹が同じ目に遭わされたらと考えると、気が狂いそうだ」


 そういう想像力を奪うのが洗脳か。元の資質によっては実行犯も相当な被害者になるな。

 正気に戻ってから洗脳中にヤラカシた内容を思い出したら自責の念で自殺でもしそうだ。そうじゃなくても、ヤラカシの度合いによって人生が狂うな。


「他に保護した悪霊憑きは何人だ?」

「俺達が保護したのは一人もいない」


 他にも洗脳された実行犯がいたら既に神父の手に落ちてるかもしれないのか。


「保護したら何処に連れて行くんだ?」

「・・・・・・使われていない旧礼拝堂」


 葛藤はありそうだけど、話す内容に嘘は無いだろう。

 迷う暇は無いな。先を急ごう。


「拘束を解いたら二度と神父に会わずに故郷に帰れ」

「俺達を逃がすのか? 貴様の目的は一体・・・」

「お前らに依頼した神父こそ悪霊憑きだ。お前らは奴に操られて無理矢理非道な行いをやらされそうになっていた。一週間もすれば悪霊の影響も消える。奴に会えばまた操られる。とにかく遠くへ行け」


 洗脳された手駒にウロチョロされると邪魔だから適当なことを言う。

 こいつらの悪霊憑きに関する知識レベルの低さなら、これで十分あしらえるだろう。


「シェード、旧礼拝堂の方向は?」


 全員の拘束を外すと、胡乱な眼差しでシェードが指した方向へ走り出す。

 これ以上実行犯の面倒は見きれない。足は一時的に痺れただけの筈だし、装備も取り上げていない。あとは自分達のやりたいようにするだろう。


「お前、やっぱチョット優しくなったな」

「無駄口叩いてないで子猫を落とさず付いて来い」

「子猫って呼ぶな。ボクは柊。もうすぐ成体になる二十歳だ」


 獣人族の名前は植物から貰うんだっけ。

 良かったね、シェード。同い年のお友達が出来そうだよ。


「俺はイアン。成人だけど年齢不詳」

「変な奴ぅ」


 何か言いたげなシェードを黙殺して、見張りのいない都市の城壁をそのまま駆け上って内側に下りた。

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