勇者の無力化 7
シェードを留守番させた部屋に戻り、「本物のクリストファー」に変身して相応しい服を着た。
クリストファーが現在娼館に籠もっていることは確認済みだ。
「今度はその姿かよ。何を始める気だ?」
「勇者に話をつけてきた。フェルナンドを勇者に引き渡してこの国から逃がす」
「あ⁉ 何言ってんだテメェ‼」
「勇者はフェルナンドという自分だけの王子様を手に入れて満足するから、同じ問題は起こさない。フェルナンドに執着している間は他の事象に興味も持たないだろう」
顔を顰めて暫し黙ったシェードだが、低い声で問うてきた。
「フェルナンドは、それを望んでいるのか?」
「そんなの知らないよ」
「テメェっ‼」
掴まれた襟首を外して距離を取る。
「一々頭に血を上らせるな。ガキか。本物のフェルナンドがこの国にいたら偽物が活躍できないんだよ」
「・・・っふざけるなよ・・・」
現時点で初対面から最高の殺気だけど、まだまだ光の威圧にすら程遠いな。
「じゃあ、お前はフェルナンドが寂しいまま王宮で馬鹿にされつつ飼い殺されて、マーガレットは後宮に監禁されたままで、この先もロリコン法に泣かされる人々が悲劇の連鎖を生んで行けばいいと思ってるの?」
「なっ・・・」
絶句するシェード。
ややあって唾をごくりと飲み込んでから声を絞り出した。
「それは、極論だろ」
「何もしなければ確実な未来だ」
「だが、もっといい手があるかもしれねぇだろ‼」
「あのさ、シェード。人族の寿命は短いんだよ?」
今度こそ、言葉を失ったようだ。
沈黙が下りても、シェードは何も語らない。
「迷っていられるのも、決断を先延ばしにしていられるのも、寿命の長い者の特権であり傲慢だ」
最良の手を常に自分が完遂させてるとは思わない。
けれど自分がしたいことができる時に、気になってるくせに何もせずに見てるだけなのは最悪の悪手だ。
そんなの、後で絶対に気持ち悪いじゃないか。
「テメェのが傲慢じゃねぇか」
「らしいでしょ」
「クソッタレ! で、俺は何をさせられるんだ?」
「付いて来い」
ニヤリと口端の片側だけを上げ、クリストファーの姿を隠すためにフード付きのマントを羽織ると、私はシェードを従えて部屋を出た。
道すがら説明し、シェードには宿屋に勇者を迎えに行ってもらう。
私はクリストファー・デライトの姿を晒して馬付きで馬車を買い、街を囲む城壁の近くに待機させた。
クリストファーとして「忘れ物を取りに」デライト商会に堂々と入り、メイドにフェルナンドの居場所を訊ねて外に連れ出すのは、拍子抜けするほど簡単だった。
クリストファーがフェルナンドをコッソリ連れ出すのは、珍しくもない風景だったんだな。
指示通りに勇者を連れて来たシェードと、買った馬車の傍で落ち合い、勇者の両手をぎゅっと握った。
「俺の大切な弟分を頼んだ。幸せにしてやってくれ」
「ハイ。一生離しません!」
ん。何か、異様に熱と力が籠もっているな。
ま、冷めてるよりいいか。
次いでフェルナンドの肩に手を置く。
「後の事は何も心配するな。お前は自分が幸せになることだけを考えればいい」
何が起きているのか訳が分からない顔のフェルナンド。そうだろうとも。その混乱のまま出発してしまえ!
「御者は雇っていないが、平気か?」
「任せてください!」
勇者に問うと力強い返事。なら、いいか。
フェルナンドを馬車に押し込む。入る時には全員分の身分証が必要だが、出る時には代表一人の身分証を見せればいい。
混乱して騒ぐことも出来ないフェルナンドを隠したまま、国を出てしまえば後は勇者の戦闘力でどうにでもなる。
「彼は必ず私が幸せにします!」
あれ? 御者台に座る前に、どうして馬車の外から鎖錠をかけたんだろう。
「一生逃しませんから安心してください!」
え? 逃さない? え?
「では、サヨナラです‼」
あっという間に門番に身分証を提示して門の向こうに見えなくなったな。
「なんか、ヤバくねぇか?」
「幸せにするって言ってたし、コレはこれでいいんじゃない?」
「適当だなぁ。らしいけどよ」
シェードを見張りに立たせ、物陰でフェルナンドに変身と着替え。
服装は商家の若様風のお忍び衣装だけど、今回はウエストポーチから「本物のフェルナンドが持つ王子の証」を取り出して身につけている。
「本物の殿下は、ンな物騒なツラしねぇよ」
暗がりから出てきた私を眺めてシェードが喉を鳴らして笑う。
「王宮に侵入なんて、とても楽しそうだからねぇ」
フェルナンドには似合わない、好戦的な笑顔で舌なめずり。
「侵入じゃなくて殴り込みだろ。付き合ってやる」
「今回はマテしないで存分にこき使うよ」
「そいつぁ楽しみだ」




