勇者の無力化 6
使い慣れた元の体より20センチも身長が高くてガタイがいいと、隠密行動には向かないな。
デライト商会の警備は今日も厳重。殿下がご滞在か。
もう毎日泊まってるんじゃないの。王宮に戻らなくても問題無さそうだよね。城からの迎えも来ないらしいし、捜しにも来ないらしい。
そんな風にいらない子扱いするなら、欲しい人にあげちゃってもいいよねー。
日は昇ったけど、勇者様は起きてるかなー。
勇者が泊まる宿の前で待機。
「クリストファー様の護衛⁉」
おそらく昨日出逢ったクリストファーを求めて飛び出して来たであろう勇者が、ビックリ顔で急停止する。
「お待ちしてました。サラ様」
シェードの顔と声で紳士的対応と理知的な微笑を浮かべてみる。
「クリストファー様は、一緒じゃないの?」
探るような勇者の声音に困り顔を造り、声を潜めた。
「クリストファー様のことでお話、と言うかお願いがございます。大きな声では話せぬ内容ですので・・・」
「分かったわ。付いて来て」
サラちゃん、そんなに下水道が好きなのかな。
連れて来られた下水道で、静かになるまで魔物を一掃してから、促されて私は話し始めた。
「実は、昨日サラ様がお会いになったクリストファー・デライトは、従兄様の名を借りてお忍びで城下を散策する我が主の仮の姿でございます」
「え? どういうこと?」
サラちゃんの目がキラーンと光る。肉食女子の目だ。
「我が主は、この国の第八王子、フェルナンド殿下」
あーあ、込み上げる喜びを抑え切れない顔してるなぁ。
王子じゃなくても惚れちゃった相手が実は本当に王子様でした、なんてシチュエーションは、王子好き女子にはタマラナイものなのだろうか。
王子の身分が無くなったら執着薄れちゃうのかなぁ。
「単刀直入にお訊きします。サラ様は我が主と結ばれることを望みますか?」
「ハイ! もちろん!」
間髪入れず、いい返事だ。
「殿下が王子の身分を捨てたとしても?」
「え?」
動きが止まった。でも、迷ってるって言うより考えてる感じ。
「身分を捨てる理由を教えて下さい」
ああ、ちゃんと聞いて考えてくれる気があるんだな。よかった。
「殿下は王子でいると、ずっとお寂しいのです」
伝えるのは、少しの事実を混ぜた、少女趣味なおとぎ話。
「フェルナンド殿下には、たくさんのご兄弟がおられます。ご生母様が平民である殿下の王宮での扱いは、見ていて辛いものがございます。誰にも必要とされず、愛された記憶も無い」
耐えるようにグッと眉を寄せると、サラちゃんが息を飲むのが分かった。
「殿下は、ご生母様のご実家であるデライト商会にお忍びで滞在なさることが多いのですが、王宮へ戻る時間が迫るといつも憂うお顔をされます。私では殿下をお助け出来ませんか、どうぞ何でも望みを仰ってください。そう申し上げたところ、昨日ようやくお答えをいただきました」
真剣に聞き入っているサラちゃんに視線を合わせ、拳を握って涙は零さず泣き笑いの表情を浮かべる。
「世界にたった一人でいい。僕だけを求めて一生離さないでいてくれる愛が欲しい。殿下は、涙ながらにそう仰ったのです」
釣られて泣き笑いの表情になり、涙も流しちゃうサラちゃん。
声を微かに震わせて、ゆっくりと手を彼女に差し出す。
「殿下はあなたの愛が欲しいのです。サラ様」
サラちゃんの涙腺崩壊。
「しかし、立場の弱い殿下は、王子である限り、婚姻の相手を自分で選ぶことはできません。どうせ誰にも必要とされない身、全てを捨てて愛する人に攫って欲しい! そう願っているのです」
サラちゃん号泣。
「サラ様は殿下を安心してお任せできるだけの強さをお持ちです。強さこそあなたの魅力。どうか、フェルナンド様を、サラ様だけの王子にしていただけませんか」
「するーっ! 私だけの王子にして一生守るーっ‼」
よし。こっちはOK。
「では、私が手引きいたしますので、どうか宿屋でお待ちくださいませ」
「分かった。私も色々準備しておく」
何の準備かな。少しゾワッとしたけど。
えぐえぐとしゃくり上げながら涙を拭うサラちゃんに、ちょっと不穏なものを感じながらも、私は下水道を後にした。




