悪魔と契約した悪役令嬢
悪魔と契約した悪役令嬢
私は、悪魔と契約しましたの。
初めまして、ご機嫌よう。私、イーリアス・マグダレア・クラークと申します。公爵令嬢です。突然ですが、私、悪役令嬢なようなのです。
順を追って説明しますと、まず、私は所謂異世界転生というものをしたようなのです。前世で年老いた方々への慰問などの良い行いをしてきた結果、好きな世界に転生する権利を得られたのです。そしてこの世界で目が覚めました。大好きな乙女ゲームの世界。しかし、私はヒロインではなく悪役令嬢に転生していたのです。それも、前世の記憶を失って。
そして、今。学園生活…すなわち乙女ゲームの舞台が始まる直前になってそのことを思い出したのです。
正直戸惑ってしまいました。私は前世の記憶が戻ってももう前世の自分ではなく、イーリアス・マグダレア・クラークですし、皆から愛されてすくすくと健やかに成長できたのです。家族にも婚約者にも何も不満はありませんでした。…でも、私、前世の記憶が戻ってしまったせいで知ってしまいましたの。あれだけ可愛がってくれた兄が、そして婚約者が、ヒロインさんに堕ちた後、ヒロインさんを虐めた私を蛇蝎の如く嫌うこと。それを知った両親は私を見捨てること。いえ、分かっています。虐めなんてするのが悪いのです。でも、それでも、私、もう誰にも期待は致しませんわ。いえ、期待出来ませんわ。なんだか、あの乙女ゲームでの自分の最期を知ると、むしろ今まで可愛がられていたのが悍ましくすら感じますわ。良くて身分剥奪の上国外追放。悪くて死刑。家族にも友人にも見捨てられ、ヒロインさんに全てを奪われる。あなた方の愛は、所詮そんなものだったのですわ。もしかしたら、虐めなんてしなければそんな結末にはならないのかもしれませんわ。でも、今更仲良しごっこなんてごめんですわ。
だから、私考えましたの。
ー乙女ゲームのラストで契約するはずの、悪魔と契約してしまえばいいのですわ!
正直、これでも、私の両親にも、私のお友達にも、私の婚約者にも、私は全身全霊で愛を捧げてきましたわ。でも、もういいですわ。もう、期待しません。もう、私は悪魔と契約してこの貴族社会から逃げますわ。対価は死後の私の魂。あの悪魔は、イーリアス・マグダレア・クラークの魂に執着しますから、きっとそれでなんとかなりますわ。悪魔と契約して、それだけの対価を払えば平民として生きていくには十分過ぎる衣食住の保証はされるはず。
ということで早速、十五歳の誕生日。悪魔を召喚し契約した私は、屋敷から飛び出し隣国のど田舎に引っ越しました。質素で慎ましやかながら、お気に入りの愛らしい家具やお気に入りの愛らしい服、お気に入りのしっかりとした頑丈な、それでいて愛らしいお家に囲まれて幸せに暮らしておりますの。
ー…
平民生活に馴染んで早三年。新たなお友達もたくさん出来ましたわ。それも人間のお友達だけではなく、動物のお友達や妖精さんともお友達になれましたの!ただ、私と契約した悪魔、レオンは面白くなさそうですわ。この悪魔、独占欲の塊ですの。そして、私の恋人ですのよ!レオンの私への執着は、どうやら恋心だったみたいですの。私が平民となると、自分も平民の男に化けて、私と同居…というか、同棲し始めましたの。ちょっと強引な所はありますけれど、気安く優しくかっこいい、力持ちで私を大切にしてくれる素敵な悪魔。言うことなしですわ。
「イリー、何か考え事?」
「レオン!うふふ。レオンの恋人になれた幸せを噛み締めていましたの」
「ふふ。それは嬉しいな」
かっ…かわいい!照れて頬を染めながらもはにかむレオンはとっても可愛いですわ!悪魔とは思えませんわ!レオンは人柄も良く、かっこよくて、まさに理想の恋人ですわ!
「俺もイリーと恋人になれて幸せだよ」
「ふふ、来月の結婚式が楽しみね」
「うん、とっても。君のことは俺が命をかけて幸せにするからね」
「ふふ。悪魔が命をかけてなんて、不実ですわね。でも嬉しいですわ、ありがとうございます。私、とても幸せですわ」
やっぱりこの悪魔と契約して正解でしたわ。今、とっても幸せですもの。
…そして風の噂によると、ヒロインさんは学園に入学し、物語は幕を開けたようです。ですがヒロインさんの皆様からの評価は愛らしいご令嬢ではなく変わったご令嬢でしたわ。なぜなら、折にふれ攻略対象の皆様に言い寄っているからですの。婚約者がいる方ばかりなのにね。その上多数の殿方に言い寄るなんて、逆ハーレムルート狙いだったのかしら。そんなの現実では無理なのにね。そしてもちろん、ヒロインさんのその浅ましさはすぐに噂になりましたわ。それどころか、何股もかけていたため攻略対象者の方々からも蛇蝎の如く嫌われているようですわ。学園にも居辛くなって、困っているそうですの。
攻略対象者の方々とその婚約者様方はちょっといざこざはありましたが、最終的に丸く収まってらぶらぶいちゃいちゃのご様子ですわ。
私の元婚約者?私の元家族?私を血眼になって探していたらしいですけれど、最近諦めたそうですわ。やっぱり所詮その程度の愛でしたのね。まあ今更どうでもいいですわね。せいぜいそのまま、あなた方だけで幸せになってくださいな。
まあ、色々ありますけれど、逆ハーレムなんて最悪なものを築こうとされたヒロインさんはざまぁな結末になりましたし、攻略対象者の方々もその婚約者様方も幸せになれましたしハッピーエンドではないでしょうか?
私もレオンと一緒になれてとても幸せですわ。
周りを見限ったならそれ相応の行動を。それも一つの選択肢ですわ。
悪魔は不実だけど、イーリアスにはぞっこん