ショットガンよこせ
「森のくまさん、って曲あるじゃない?」
「今度は童謡にまでケチを付けるのか……」
「失敬な。考察と呼びなさい」
「世間では深読みと言うんだよ。あと歌詞は出すんじゃないぞ。念のため」
「大丈夫よ。さて何故あの曲で出てくるのは、熊なのかしら。森の動物ならいくらでもいるのに、どうしてあえて熊?」
「そりゃあ、危険な動物の方が歌詞とマッチするからじゃないのか? 元はアメリカの民謡で、銃がうんぬんってくだりがあるんだし」
「確かに悪くはない読みね。けど危険な動物なら他にもいるはずよ。狼とか鹿とか猪とか。そんな中からわざわざ熊をチョイスしたのはどうしてかしら」
「……作詞した人の家の近所に森や熊がいたからとか?」
「ちっ、つまんない考察ね」
「舌打ちするな。じゃあお前はどう考えてるんだよ」
「そうね。熊が何らかの比喩で、だから他の動物ではダメだ、と考えるのが真っ当な切り口だけど。今回は、まず熊の代わりに他の動物を当てはめてみましょうか」
「歌詞が載せられないからシチュエーションの想像だけになるけどな」
「さて、どうかしら。違和感はある?」
「鹿だと多少メルヘンチックかなって以外は、そんなにないかな。どれも危なそうな状況ってことは共通してると思う。あくまで歌詞の字面だけならね」
「私もそう思うわ。それでも熊でなければならない……とすると、他の動物との違いはやはり巨大さではないかしら」
「まあそう言われると確かに。鹿や猪も大きいけど、熊はそれ以上だし」
「巨大な物ってきちんと全貌を認識するまでに時間がかかるわ。“私”はそんな大きな熊に出くわして、はたと立ち止まる。“私”は恐怖を自覚するまで間があり『逃げ出した方がいいんじゃない?』と熊に言われる夢想をする。そして逃げ出す。シンプルに読んでしまうとこんな感じじゃないかしら」
「夢想をしたかどうかは想像だけどね」
「狼や猪でも同じ状況は作れるけど、彼らは出会った瞬間からすでに恐怖を覚える場面の方が多いんじゃないかしら。唸り声上げたり、走ってきたり」
「呆気に取られる時間より恐怖が湧き立つ方が早いと。歌詞でもいったん目線を合わせてるし、これも熊じゃないと成り立たないのかもな」
「そう。だからこの曲は熊と出会う。熊でなければならない。間違ってもリ○ックマとかくま○ンとか○ーさんであってはいけない」
「危険だからやめろ。しかし珍しくだいぶまともに考察したな」
「え、こんな妄言を真面目に見る人がいるの?」
「台無しだよ」




