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救えたが……

 詠唱が続く。次いで、ルーシアの意識も徐々に遠のいていく。この人型の何かが剣をずらしたり抜いたりしなかったのが、僅かばかりの幸運か。出血の速度は思ったよりも遅い。しかし、ゼロではないために少しずつ死が近付いていた。


 そして、何かの詠唱が止まった。ルーシアは死を覚悟した。今の詠唱は魔法だと推測しているルーシアは、詠唱が済んだ今、生き残ることは不可能だと理解した。


 ──しかし。


 魔法が飛んでくることはなかった。


 代わりに、ルーシアの周囲に七つの頭部が落ちてきた。ゴトッと七回連続した音に続き、何かの体が次々と膝から崩れ落ちた。


 直後、ルーシアから剣が抜ける。同時に治療していたのか、ルーシアの下に拡がっていた血溜まりは消滅し、剣の刺さっていた箇所は修復されていた。


『死んでないでしょうね』


 脳に直接響く声。ルーシアは理解した、ピクシルが助けてくれたことを。


 安心感を抱きながら、ルーシアは立ち上がり空中に浮かぶ剣の柄を握る。


 ──ありがと、ピクシル。ボクは大丈夫。チルニアは無事?


『ええ、なんとか。そこのヒョロヒョロを早くなんとかして、連れて帰りましょう』


 ──ああ!


「な、なんで死んでない⁉︎ なんで動ける⁉︎」


 ピクシル曰くヒョロヒョロこと白衣の男は、ルーシアに奇異なものを見るかのような視線を向ける。周囲に倒れている頭と身体が分離した何かは、完全に活動を停止し、切り口からどす黒い血液をドロドロと流していた。


 男に刺された麻痺の効果も、どうやらピクシルが解除してくれているらしい。多少の違和感は残るが、あんな戦力もなさそうな男を相手するなら、十分だろう。


「ボクは神の加護を受けているからね。ちょっと時間は掛かるけど、そのくらいなんともないんだよ」


 実際は妖精の加護であるが、まあ、人間にとって超常生物であるのだから、妖精も神も大して変わらないだろう、と決めつけ、ルーシアは適当に嘘をでっち上げた。ただ、この世界でも神は崇められる存在だそうで、効果は絶大だ。


「神の、加護……⁉︎ なんで、そんな奴がここにいるんだ! そんなの、聞いてないぞ!」


「いや、知らないよそっちの事情とか」


 それにそもそも神の加護など受けていないのだ。この男が王宮手配の人物なのだとして、王宮が神の加護を受けている者を把握しているのだとしても、そんな話を聞く機会はあるまい。


「くそっ……なら、もう一度!」


 男が机の上を漁りだす。そして、ルーシアに背を向けた。やはり、こと戦闘においては初心者なようだ。


 ルーシアは隙だらけの男の背後にコンマ数秒で駆け寄り、喉元に刃を宛てがう。「ひっ」と悲鳴を上げるのを聞いて、抵抗はされないだろうと思いながらも、ルーシアは念の為警戒して左手首を掴む。


「……そ、そんなことをしてていいのか? 君の友達は今も苦しんで……」


「とっくに魔法は解除してあるよ。あんたは頭はいいようだけど、瞬間的な対応力が低過ぎる。一人の護衛も付けずにこんなことをしてたのが失敗だったね」


「ぐっ……」


 ルーシアもピクシルがいなければ既に死んでいただろうが、それは言っても後の祭りだ。使えるものを全て使う……勝たなければならない時は、例え卑怯だとしてもやれること全てをやる。それがルーシア、もとい愛斗のやり方だった。勿論、受験や入試でカンニングを推奨する訳ではないが。そして、愛斗もそんなことはしていないが。


「何のためにこんなことをしているのか、誰の差し金か……ギルドで洗いざらい吐いてもらうよ」


 ルーシア一人の権力で、事実を話すとは思えない。だから、ここは全てを聞きたい気持ちを抑えて、……否、ここで殺してしまいたい気持ちを抑えて、ギルドに任せることにした。国ですら手を出すことの難しいギルドだ、その権力を持ってすれば、この男も流石に全てを話すだろう。


 ルーシアは歯を食いしばりながらその決断を下した。



 動けないよう完全に拘束した男をギルドに預け、事情聴取にて男の言うことが真実か、思考を読み取れるピクシルに見抜いてもらうべくギルドに置いてきたルーシアは、辛そうな顔のまま眠っているチルニアを連れて、呉服店ケルシニルに向かった。


 チルニアの姿を見たチルニアの母親は、安心の表情を浮かべた。酷だとは思ったが、ルーシアはチルニアが元の状態で目を覚ますか分からないことを伝えると、チルニアの母親は口元を押さえて涙を流していた。


 まだ正午近くではあるが、母親の様子から今日は店を閉めることにして、ルーシアはチルニアを部屋まで運んだ。母親に許可を貰い、しばらくの間チルニアのそばにいることになった。


 ──もし本当にあの男が国の差し金なら、この国のトップは何を考えているんだ……魔力器官の強化ってことは、多分目的は魔導兵士でも作ろうとしたんだろうけど……いくらなんでも、やり方が酷過ぎる


 ルーシアは、チルニアの顔を眺めながら今回の事件のことを推測する。日本という平和な国における倫理観と魔物退治や争いのよく起こるこの世界の倫理観では差があるだろうが、これはあまりにも酷かった。この世界の者でも、これは間違っていると言うだろう。


 かのトレント討伐の時に短いながら言葉を交わしたシンサイドが言っていた。今の王族は、王座を継ぐはずだったシンサイドを殺した弟の子孫が継いでいると。それが真実であれば、その愚王の愚策がこれなのだろう。まさに、愚王の所業と言うべきか……


 ルーシアは昼食をチルニアの母親に貰い、夕方までチルニアのそばに居続けた。しかし、チルニアは目を覚ますことはなく、ルーシアはあることをするためにチルニアの下を離れて、宿へと戻った。


 ミリアに事件は解決したと伝え、夕食を即座に食べたルーシアは部屋に篭り、翌朝まで徹夜で作業をした。


 そして、その作業で作ったあるモノを持って、ケルシニルに向かった。そのあるモノとは、点滴だ。勿論、食事も何もできないチルニアの延命のためだ。あくまでこの世界で手に入る素材から作ったものだから、日本と全く同じとは言えないが、前世の記憶と魔法という超技術を駆使して作ったそれは、十分な出来だった。


 チルニアの母親は、点滴をチルニアが今のまま生き続けるための装置だと説明すると、快く受け入れてくれた。これも、ルーシアの功績とチルニアから向けられていた信頼あってこそだろう。点滴のないこの世界では、未知の技術なのだから。


 その日もチルニアは目を覚さなかった。……そして、翌朝。事情聴取を終えたとピクシルが報告しに来た。曰く、男は真実を語ったそうだ。ルーシアは話を聞くべく、ギルドへと向かった。

いかんな、久々に書くせいで話がまとまらん……投稿が遅くてすみません

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