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ダイエット器具

 宿に戻って昼食をとり、しばらくのんびりしていると部屋にミリアが入ってきた。


「どうかした?」


「コート、どんなのかなあって思って。あと、いつもこの時間はこの部屋の掃除してるから」


「そうなんだ」


 確かに昼食の後に宿にいることはあまりなかった気がする。いつもルーシアが宿に帰った時にはベッドメイキングが済まされているのは知っていたが、この時間にミリアがやっていたことは初めて知った。


「ねえ、コート見せて」


「はい」


 箒を壁に立て掛けて、ミリアがルーシアの隣に座ってきた。ルーシアはすぐ横に置いていたコートを手に取り、ミリアに手渡す。


 ミリアがバサッと音を立ててコートを広げる。そして、「ほぉ……」と感嘆の声を上げた。


「何というか、女の子っぽさはないね」


「求めてないからね、ボクは」


「ふーん……」


 ──なんだろう、今の反応……


 ミリアが一瞬物思いに更けるような反応を見せたことに困惑したルーシアだったが、ミリアが「いいんじゃないかな、カッコいいし」とコートを返してきたので、それ以上考えないことにした。


「今日もどこか行くの?」


「うん。今日はちょっと、パミーのいる細工屋に行こうかなって思ってる」


「へえ、なんで?」


「……さっき、チルニアに太った? って聞かれて、痩せるのに使えそうなものを探しに行く」


「あー、確かに。シアちょっと太ったかも」


「……ホントに太ってるのか」


 ミリアが苦笑混じりに言う中、ルーシアは頭を抱える。実際のところ、学園時代に比べて、朝のランニングや実技トレーニングの量も減少している上、クエストもそこまで多く受けてないため、エネルギー消費量で考えると減少しているのは確かだった。そして、ルーシアの顔が少し丸くなっているのも、事実だった。


「……じゃあ、ボクは出るよ。絶対にもとのスレンダーに……!」


「元から全体的に小さいから、あんまり変わらないと思うけどねえ。気を付けてね」


「うん」


 ルーシアはミリアからコートを返してもらい、それを着て剣も装備して宿を出た。ただ、ルーシアが痩せたいと思っている理由は一つではなかった。確かに、太りたくないと言う気持ちはあるが、恐らくもう一つの理由の方が大きい。


 それは、愛斗のルーシアの可愛さを損いたくない、というエゴだ。


 宿を出たルーシアは、魔力で姿を見せたピクシルを肩の上に乗せてパミーの店へと歩みを進める。


「パミーと会うの、久しぶりだなあ。元気にしてるかなあ……」


 ──元気にしてるかなあ、か……前世じゃ、一度もこんなこと考えたことなかったな。母さんとユイは、元気にしてるかな……


 ルーシアはそう頭の中で呟いて、空を見上げた。三年が経った。この世界で目が覚めて、前世のことを思い出したのは、目覚めたばかりの時と、トレントの捜索の時夢に見たあの時の二度だけだ。一度目の時は死ぬ直前から死後のことのみだったため、家族のことは考えもしなかったが……二度目のあの森の中で見た夢は、家族こそ少ししか出て来なかったが、前世のことを深く思い出したと言えばあの時だろう。


 愛斗の家族は、幼い頃に事故で亡くなった父を除いて、事故で下半身麻痺になった母親と八つ離れた妹の結衣ゆえの、三人家族だ。妹の呼びはユエなのだが、いつのことか、愛斗はユイと呼ぶようになって、いつの間にか定着していた。もしかしたら、生まれてすぐのことだったかもしれないが。


 ただ、そんなことも思い出せないくらい、愛斗は家族から目を背けていたのかも知れない。母親のため、と作った装置も自分が逃げる場所を作る為に権利を売り払ったのだ。例えそれが母親を救ったのだとしても……それはもう、愛斗が作ったものではない。


 ──……もう、二度と会えないのかもな。こんなに、遠くまで来ちゃったし……向こうも、元々「僕」とは距離を置いていたし……


 自分一人で重苦しい空気になったルーシアは、首を横に振り両手で両頬をパシンと叩いて、「よしっ」と気合を入れ直した。


「行こうか、懐かしの友の元へ!」


『やってて恥ずかしくないのかしら』


 ──……恥ずかしくなんかないわい!


 ほんのりと頬を紅く染めたのは、恐らくバレていたのだろう。ピクシルはもうこの二人……いや、一人と一精の間ではいつものやりとりとも言えるように、呆れていた。


 パミーの実家である細工屋は、街の北西の外壁近くにある。街の北西の方は、昔何かの事件があったらしく今ではあまり住む人もいないらしい。そのため、土地に関する値段は街の中でも極端に安いのだが、何せ事件があった場所だ。誰も住みたがらず、パミーの実家以外にその周辺に住んでいる人はごく僅かだと言われている。


 しかも、その数少ない人達が周辺の土地の整備をするわけでもないので、街の中では数少ない緑のある場所ともなっている。かつての名残か、庭だったらしい場所に生えていた木が何本かあり、パミーの家は森の中に佇んでいるよう、とも言えると学園時代に聞いたことがあった。


「確かに、草ボーボーだな」


 話に聞いていた通り、周辺はルーシアの膝の高さまである草が生い茂っていた。死ぬ直前の数年間山の中で過ごしていたルーシアにとっては、緑はどことなく安心感を持つようになっていたため、この場所はどことなく居心地が良かった。


「あの家……いや、小屋? いや、家……」


『どっちでもいいから行きましょうよ』


 恐らくパミーの家であろう建物は、パミー曰く四人家族が住んでいるらしいがそれにしては小さいように思えた。


 木造の建物で、塗装はされておらず完全に木目を露わにしている。


 建物に入らず、家の一番近くの木へと近付く。こうやって建物の近くに木が生えているのは、愛斗として意識が目覚めて以来、学園以外では初めてだった。何せ、街の中にはほとんど木が生えておらず、ある緑と言えば苔や草、あとは農業区の野菜などだけだ。


「おっきいな、この木」


 周囲に生えている木と比べても、少し大きい。そして、よく見ると木の枝先に桃色の花がいくつか咲いていた。他の箇所にも、同色の蕾が膨らんでいる。


「……桜、かな。花が咲くときには葉っぱはついてないはずなんだけど……」


 流石異世界、その辺りのことも地球のものとは違うらしい。


「その木、大きいでしょ? もうちょっとすると、ピンクの花がいっぱい咲くんだ」


「パミー、久しぶり!」


「久しぶり。元気にしてた?」


一時いっとき死にかけてたけど、今は元気だよ」


 姿を見せたのは、少し髪の伸びた、前髪を三つ編みにして横に流しているパミーだった。装いは少し違うが、そのお姉さんのような雰囲気は別れた時と変わらない。


「急に来てどうしたの? 窓から見えたから来てみたけど」


「ちょっと用事があって。あ、そう言えばこの剣帯の金属部分、パミーのとこでやってくれたんだよね?」


「うん。お父さんに頼んで、私にやらせてもらったんだ。私の初仕事!」


「そっか、パミーの初めてもらっちゃったか」


「うん、ルーシアにあげちゃった。話なら中で聞くよ。お茶用意するから、椅子に座って待ってて」


「はーい」


 パミーが小屋のような家に入っていくので、ルーシアもその後ろをついていく。「お邪魔しまーす」と言って中に入ると、カウンターにはパミーとよく似た顔立ちの女性が退屈そうにカウンター上の何かを指先で弄っている。すると、ルーシアに気付いたのかぱぁっと笑顔を見せて、ルーシアに近付いてきた。


「いらっしゃいませ! 今日は何かの依頼ですか?」


「え、あの……」


 かなりグイグイくるものだから、パミーの親とは思えなかった。


「はあー、お客さんなんていつぶりだろう……」


 ──な、なんだろうこの、その場の勢いで行く感じ。どこかの誰かとよく似ているような……


「もうお母さん。あまり迷惑かけちゃダメだよ」


「もしかして、パミーのお友達?」


「そう。話は私が聞くから、お母さんはゆっくりしてて」


「えー……後でこの子のこと、教えてね!」


「はいはい」


 何故かパミーの方がお母さんのように思えてきた。パミーのお母さんが奥へと姿を消すと、パミーがお茶の乗った盆を机に置き、ルーシアの向かいの椅子に座った。


「ごめんねぇ、うちの親が」


「何というか……あの親からパミーが生まれたとは思えないね。どちらかと言うとチルニアの方がしっくり来るような……」


「ホントね。たまに来てくれるお客様にも、パミーちゃんの方がお母さんみたいだねってよく言われるの」


「そりゃ言われるでしょうね」


 パミーがルーシアの目の前まで移動させたお茶を、ズズッと一口飲んで人心地つく。ぬるめのお茶の苦味が口の中にふわりと広がり、少し懐かしい感覚を感じた。すると、窓の方からチリリンと音が聞こえてきた。


「……風鈴?」


「ああ、あれ。あれはウイベル。風が吹くとああやってチリリンって鳴るんだ。お父さんがお母さんに綺麗な音の鳴るものが欲しいって頼まれて作ったの」


「……風流だなあ」


 前世の田舎のおばあちゃん家を思い出した。幼い頃に何度か行っただけなのだが、この光景を見るとそれがすっと思い出せた。


 そして、家の中を見回してみて思った。作りにどことなく見覚えがあったのだ。


「……これ、日本の古い建築方法と一緒だ」


 街の中は煉瓦造りのものが多い中、この造りをした建物を見るのは初めてだった。


 簡単に造りを表すならば、柱とはりぬきによって繋ぐものだ。古い建物をテレビなどで見たことがあれば、多少は想像がつくだろう。


「ニホン?」


「ああ、なんでもない。ここって元からあったの?」


「ううん、お父さんが一から建てたの。お父さん、ルーシアと同じ村の出身で、その村ではこの建築様式が普通だったんだって」


 恐らく、村が襲われる前に街へと出てきていた人なのだろう。愛斗の意識が目覚めたのはこの街に来てからのことな上、少女のルーシアは建築に興味を持っていなかったため、記憶に浅くしか残っていないのだ。そのため、村の建築方式が日本の伝統建築と同じものだとは考えもしなかった。


「金属を使わなくていいから、錆びなくていいんだって。私には、全然分からないんだけど」


 苦笑いしながらパミーが言った。木造だとシロアリなどの問題があるだろうが、確かに持久性の面では煉瓦や金属を使って作ったものより勝るだろう。燃えやすいが。


「それで、今日はどうしたの? トレントを倒した報告とかじゃないんでしょ?」


「うん。さっきも言った通り、用事があって来たんだ」


 ルーシアはここに来た目的を告げた。


「実は……日常生活を送りながら痩せることのできる道具とかないかなと思って。チルニアとリアに太ったって言われて」


「……確かに、ちょっと太ってるようにも見える」


「うぐ……っ」


 パミーがルーシアの顔をじっと見ながら言うと、ルーシアはその言葉にダメージを受けていた。


「ダイエットに使えるものかあ……どんなのがいい、とかある?」


「ええと……装備してても違和感がなくて、重量があるものかな。こう、一、二キロくらいの腕輪とか……」


「一、二……キロ?」


「あ、ええと! こ、この短剣くらいの重さ!」


 この世界には単位がほとんどないため、重量や距離を言い表すのが難しい。そのため、ルーシアはなるべく分かりやすく表すのだが、今回は久々に話すと言うこともあり油断してしまったのだ。すぐに短剣を渡して誤魔化すが、パミーがこれに乗ってくれなければめんどくさいことになるのは違いなく──


「うーん……それだったら、今作れるかも。二時間くらい時間もらえたら、今作ってみるよ?」


「お、お願いします……!」


 なんとか誤魔化せたようで、短剣をルーシアに返したパミーが奥へと姿を消すのを見て、ルーシアは深く胸を撫で下ろした。


 焦ったことにより上昇した脈拍を抑えるために一口お茶を啜る。ふぅと息を吐き出すと、多少は落ち着いた。


「日本、か……最近、前世のことを考え機会、ちょっと増えたなあ」


『あんたの重苦しい前世?』


「その言い方はやめてほしいんだけど。確かにいいことなんて全然なかったけどさ……」


 事故で父親を亡くし、母親は下半身が麻痺する。そして愛斗自身は異常な才能を持っていたせいで人間関係がまともにできず、勉強に明け暮れやがては大学を一年で卒業する。生きる理由なんて、十七年の人生で何度考えたか分からない。それでも、訳も分からず生き続けて──そして、今は死んで異世界に来ている。


「……ホント、ボクの生は狂いっぱなしだな」


 お茶を溢さないように気を付けながら、机に突っ伏す。


 この世界でも安定できるのか分からない。全ての人を幸せにするなどという目標を掲げている今、恐らく厳しい道のりが待っているのは確かだろう。魔王が存在しないだけ、マシなのかもしれない。


 そして、ルーシアはいつの間にか微睡み始め、そのまま眠りについた。



「ふんふーん、ふふふん」


 少しずつ音がクリアになってくる。聞いたことのない曲だが、楽しくなるような曲調のように感じる。


「あ、起きた」


 ルーシアは机に突っ伏していた体を起こし、僅かにぼやける視界を戻すために目を擦る。視界が定まってくると、正面にいつの間にかパミーが座っていた。眠りにつく前のことをゆっくりと思い出す。


「……ふぇ、寝てた⁉︎」


「ぐっすりだったよ。久々にルーシアの寝顔見たなあ」


 ルーシアはほんのりと頬を赤く染め、俯きがちにパミーの顔を覗く。


「……イビキとか、かいてなかったよね? というか、どのくらい寝てたんだ……」


「ルーシア昔から寝てる間は生きてるか心配になるくらい静かだから大丈夫だよ。それと、頼まれたもの作るのに二時間かかって、ここに戻ってからも一時間くらい経つから、ルーシアが私がいなくなってすぐに寝たのなら三時間だと思うよ」


「さん……」


 ルーシアは昼寝をすることが滅多になかったため、三時間も寝ていたということに少し、いやかなりの衝撃を受けた。


 ルーシアが今日の夜寝れるかを心配していると、パミーが「出来た!」と言ってルーシアの前に何かを二つ置いた。


「大体同じ重さになってると思うよ」


 それは、同じ見た目の腕輪のようなものだった。いや、ルーシアはパミーに一キロ程度の腕輪を作って欲しいと頼んだのだ。この自立している腕輪は、恐らくその要望を元に作ったものなのだろう。


 昼寝の衝撃で目の覚めた頭でそこまで記憶を辿ったルーシアは、辿々しくなりながらもお礼を言い、その二つの腕輪を取り付けてみる。白を基調とした腕輪はおよそ一キロ、それより少し重い程度にどちらもなっており、筋力をつけるのにはちょうど良さそうだった。手首の可動を邪魔することもなく、でも幅が広いために服が膨らんで目立つ、なんてこともほとんどなさそうだ。


「どうかな?」


「……うん、こりゃいいや。邪魔にならないし、重さも理想通り」


「それならよかった。二つ目はルーシアが寝てる間に勢いで作ったから、重さがどうかなって思ってたけど、大丈夫そう?」


「パミーもたまに大雑把になるよね……うん、全然大丈夫」


 ルーシアが竹刀を両手で持ち素振りをするようなモーションを見せると、パミーは良かったと言って、人心地着いていた。


「布はチルニアのところで昔買った服のリサイクルだから、強度としては問題ないと思うよ」


「パミー、裁縫も出来たんだね」


「うちは細工屋だからね。お父さんが大体は作るけど、裁縫が必要になったら私やお母さんでするの。だから、ここの女は裁縫得意なんだよ。まあ、チルニアのところに比べたら劣っちゃうけど」


 パミーがはにかみながら言う。だが、腕輪の出来栄えは充分だった。細かい波縫いなど、相当な集中力を要するであろうに途中で雑になることもなく、最後までこの細かさを貫いている。


「それじゃあ、これもらおうかな。幾ら?」


「金貨五枚かなー」


「嘘つけ!」


「あ、バレた?」


「むしろなぜバレないと思った……」


 パミーは面白そうにアハハと笑っているが、ルーシアとしてはもしツッコまなければ本当に払わされそうなので、たまったものではない。


「銀貨二枚でいいよ」


「はい、ちょうど」


「まいどー。もう帰る?」


「うん。三時間も寝てたし、そろそろいい時間になりそうだから。そうそう」


 ルーシアは今受けているクエストのことを思い出し、パミーに忠告しておくことにする。


「最近誘拐事件が多発してるから、気を付けてね。行方不明者の特徴は……あれ、なんだっけ」


 ──ピクシル、覚えてる?


『……おかしいわね。覚えてないわ』


 妖精は忘れないんじゃなかったのかよ、と心の中で文句を言いながら、ルーシアは右手を顎に添える考える時の癖をしながら思い出そうと、眉間にシワを寄せた。


「……思い出せない」


「ルーシア?」


「え? あ、ごめん。とにかく! 誘拐には気を付けてね」


「う、うん。ルーシアもね。その犯人を追ってるんでしょうし、危険だと思ったら自分を大切にしてね?」


「もちろん。じゃあ、また暇なときとか用があったら来るよ」


「うん、楽しみにしてる」


 ルーシアはとっくに冷め切ったお茶を飲み干して、小屋とも家とも捉えることのできる店から外へと出た。


 入り口から少し離れて、もう一度懐かしい造りの建物を眺めていると、入り口の柱に何か彫った跡があった。近付いてよく見てみると、そこにはこの世界の文字でパミーと書かれていて、その横には数字も書かれていた。下から上に行くほど数字は大きいものになっていく。


「うわあ!」


「うおっと」


 何故か出てきたパミーが、ルーシアと柱の間に割り込む。そして、いつもは冷静なパミーが顔を赤らめて、絶対に柱は見せないとばかりに防御を固めた。


「よ、よりによってなんでこっちを見るのぉ……」


「……ああ、なるほど」


 木造の家に住む、もしくは祖父母が木造の家に住んでいる人には身に覚えがあるかも知れない。柱に身長を刻むやつだ。反対側の柱には、チルニアとテリータと書かれていた。


「チルニアまで彫ってるのかあ。本当に仲良いんだな」


「ああ、昔の身長見られるとか、恥ずかしい……」


 これは恐らく、小さい頃の自分の写真を見られて恥ずかしくなるやつと同じだろう。パミーは、過去の自分に自信が持てないようだった。もしくは、思い出したくもない過去でもあるのかもしれない。今こそお姉ちゃんのようだが、幼い頃はチルニアと弟のテリータを引っ張って森の中を探索していた、とか。


「そう言えば、弟くんは?」


「今は外の友達のとこに行ってる……さっき見たことは忘れてね! 絶対!」


「えー、どうしよ──」


「我らを取り巻く水の元素よ」


「忘れた! てか何があったか分からない! 何を忘れるんだったかなあ!」


 チルニアとの合体魔法のうち氷の蔦の詠唱を始めたものだから、ルーシアは即座に忘れたことにした。


「じゃ、じゃあ帰るね! ダイエット器具、ありがとねー!」


 ルーシアは急いでその場を後にした。


「あーびっくりした……」


 パミーが出てきたのは、恐らくルーシアが家から離れていく音がしなかったため、あの身長を彫った跡が見つかったのか気になったからだろう。周囲は草でおおわれており、歩けばそれなりに音が鳴るため、簡単に分かるのだろう。


「これはちょうどいいな。素振りの時に付けておけば、外した時に振る速度上がってそう」


 パミー作の腕輪を見ながら呟き、その日から、風呂に入る時以外はなるべくずっと付けていよう、と心の中で決めた。

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