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剣帯の確認

 色々あった後、ルーシアとチルニアは部屋の中で向かい合って座っていた。ほんのり頬を紅く染めたルーシアはベッドに、どことなくスッキリしているチルニアはルーシアの用意した椅子に座っている。


「で、剣帯なんだけど……形的にはこんな感じでいい?」


 チルニアが持ってきていた、運良く濡れていなかった麻袋から革製の少し形の特殊なベルトを取り出す。具体的に形を表すならば、一本の長い腰に巻く用のベルトから、片方は短く、もう片方は長く共に少し角度をつけて取り付けられた上向きの、袈裟懸けのベルトが付いている。


 留め具の部分は地球で使われているものと同じもので、じょうとツク棒より成り立っている。長方形、または正方形の部分が尾錠、ベルトに空いた穴に通す部分がツク棒だ。


「ちょっと付けてみていい?」


「いいよ」


 チルニアから剣帯を受け取ったルーシアは、まず腰の剣帯を取り付ける。剣先と呼ばれるベルトの先を尾錠に通し、自分の腰回りに合う小穴にツク棒を通し、ていかくへと剣先を通して固定する。ちなみに、腕時計のベルトにある動く方はゆうかくと呼ばれている。


 次に背中側に垂れている長い方の袈裟懸けの剣帯を前へと垂ら──そうとして、上手くできなかった。


「……チルニア、ヘルプ」


「ぷくく……は、はぁい」


 小さく吹き出していたようだが、ルーシアも見る立場ならば恐らく笑いを堪えるだろうために、今回は見逃した。


 チルニアに背中側の剣先を前へと垂らしてもらい、それも腰の剣帯と同様に装着する。


 それぞれの剣帯や接合部分を引っ張ってみるが、しっかりと補強、固定されていて簡単には千切れそうになかった。


「うん、いい感じ。装備するときは先にこれを垂らしておくべきかな……」


 先程の失敗から学んだルーシアは、長い方のベルトを抓みながら呟いた。さっきの光景を思い出したか、チルニアが後ろでまた腹を抱えているが、見なかったことにした。


「はあ、笑った」


 チルニアが目尻に浮かんだ涙を人差し指で掬い取りながら、ルーシアの方へと視線を戻した。


「じゃあ、剣を取り付けるところ決めよっか」


「うん」


 チルニアの提案は最初からの目的だったため、ルーシアはタンスに立て掛けておいた剣とその上に置いてある短剣を手に取る。


「想像としてはどんな感じなの?」


「ええと、こうかな」


 ルーシアは直剣を背中に斜めに、短剣を腰の後ろに剣先を落とすようにしてチルニアへと示す。チルニアは「そのままキープね」と言って、ルーシアの周囲を一回歩いて回る。


「ふむふむ。うん、大体分かった。でも、短剣はコートで隠すんだよね?」


「そうだよ」


「うーん……ルーシアの腰……というか、全体的に細いからなあ。さっき確認したところだと、幅は大体あたしの手一つ半……」


 お互いに元の位置に腰を下ろしながら、チルニアは右手の親指と小指を合わせたり離したりを何度か繰り返す。


 さっき、というのは、風呂場でのことだろう。なんの意図もないと思ったら、それなりに色々とやっていたらしい。まあ、ルーシア当人からすればただの辱めを受けただけだったが。


 実際のところ、チルニアの手はそれなりに大きく限界まで開くとおよそ二十センチ。ルーシアの腰幅は三十センチ程度ということになる。それに対して短剣は、刀身だけでも六十センチ近くあり、柄まで合わせると七十センチは下らないだろう。つまり、それだけの長さをルーシアの細い腰で隠す必要があった。


「うーん……これは、相当角度つけなきゃだね……抜きやすさを考慮すると、かなりバランスが難しいかも……」


「じゃあ、取り付けるところを補強して、ベルトを捻ればいいんじゃない? そうすれば少しは抜きやすいだろうし」


「うーん。まあ、それが妥当かな。短剣使っている人も、大体そんなところだろうし」


 チルニアは腕を組んで「捻っても取れないようにするなら、補強はこれくらいかな……」と呟きながら、恐らく帰ってからするであろうベルトの補強について考えていた。


「よし、大体想像できた。それで、最終調整はいつにする?」


「そうだなあ……まあ、明日一度店に行くよ。そこでとりあえず、こっちの分は終わらせておこう」


 ルーシアが直剣の方に手を置きながら言うと、チルニアも分かったと言って頷いた。


 話もある程度終わったため、ルーシアは立ち上がって剣を元の位置に戻す。そして、ルーシアは少し気になっていたことを聞いてみる。


「そういえば、コートの出来はどう? 順調?」


「……フッフッフ」


 チルニアが自信ありげに含み笑いをする。それを見てルーシアは「え、なに?」と困惑するが、チルニアはすぐにその答えを言った。しかも、両手を腰に当てて凄く自慢気に。


「実は、もうほとんど出来上がってるんだよね!」


「え! マジで⁉︎」


 ──いや待て。チルニアがここに来た時最初にコートが出来たからって言ってたな……


 と、辿り着いてよかったのか分からない結論に至ったルーシアだったが、そのことは忘れることにして純粋な気持ちでチルニアの話を聞くことにした。色々あったせいでその辺りの細かいことは忘れていたのだ。


「うん! 実はさー、お客さんがいない時やお店閉めた後とかに少しずつ作っていくつもりでいたんだよ、ルーシアが最初オーダーメイド宣言したときは。でも、ルーシアがトレントの討伐に向けて頑張っている間何もしないでいると気になってさ、夜も中々眠れなくて……それで、クエスト実習からいつも黒のコート着てたから、多分似たようなんじゃないかって思って、ルーシアなら革選ぶかもって予想して、黒の革でコート作り始めててさ」


 ──もしかしてボクって、分かりやすい?


 ルーシアがそんな心配をする中、チルニアは話を続ける。


「お母さんには無駄作りだよって言われたんだけど、違ったら完成させて商品として売れば良かったから、なんとなく作り続けてたんだ」


 ちなみに、無駄作りというのはこの世界のことわざのようなもので、日本の諺風に言うならば『捕らぬ狸の皮算用』だ。


「そしたら予想通りの注文してくるから、驚いたなあ。その時にはもうコート自体は半分以上完成してたんだよ。ただ作ってるうちに楽しくなって、夜も寝ずにやってたからなあ……一昨日ある程度完成して、昨日は久しぶりに早めに寝たんだ」


 ルーシアは思った、チルニアは一度熱中すると飽きるまでとことんやるタイプだ、と。


 ──つまり、深夜テンションで一気に作ったってことか……少し嫌な予感がするけど、今は無視しておこう


 深夜テンションにいい思い出がないルーシアは、少し恐怖を抱きながらもなんとかスルーすることに成功した。


「でも、助かるよ、早めに完成するんだったら。明日、完成してるんだったらそのまま買おうかな」


「じゃあ、今日も張り切っちゃうよー!」


「あんまり無理しないで……」


「と言っても、後はフードにボタン付けたら完成なんだけどね」


 それだったら無理はしないか、と勝手に思い込んでルーシアは安堵の溜息を吐いた。


「それじゃ、明日お店に来てね。あたしは今から帰って、残りの仕上げをしちゃうよー!」


「頑張って。コート、楽しみにしてるよ」


「チルニアさんに、まっかせなさーい!」


 前世で見たとあるカフェのアニメを思い出しながら、ルーシアは小さく手を振ってチルニアを見送った。


 部屋が静かになった直後、ルーシアは少し試したいことがあり、その場に立ち上がった。そして──


「ふぐぐぐ……」


 右手を上から、左手を下から背中に回し届くかどうか確かめる。しかし、その手は思ったよりも後ろに回らず、指先の間には三センチ近い隙間があった。


「は、ハハ……」


 試しに逆にしてみると、こちらは難なく届いた。


 ──たまにあるよなー、こういう片方は届かないのに逆だと届くの


 などと思いながら、ルーシアはもう一度先に試した方に挑戦する。こういうのは自分が柔らかいと思うことが大事で、ルーシアは自分は柔らかいと自己暗示をかけながらしばらく試していた。そして遂に、ルーシアの右手と左手は背中で握手をした。


「やった……っ!」


「……何やってんの」


「……ふぇ?」


 ルーシアが背中越しに見たのは、扉を開けて部屋の中を覗いて少し引いているミリアの姿だった。


「チルニアちゃんが帰って夕飯出来たって呼ぼうと思ったら、部屋から何か変な声が聞こえてくるし、妹は何かよく分からないことしてるし……」


「え、ええと……」


 ルーシアは気恥ずかしさに顔を赤くし、冷や汗を垂らしながらどう答えるべきかその場で頭を高速に回転させた。


 ──ヨガです。いやいや、伝わらない言語使ってもダメだろ! 新しい体操だよ。教えてなんて言われたら何も言えねえ!


 その結果、


「か、肩の可動域を広くする運動、カナ……」


 ミリアから目を外しながらルーシアはそう答えるのだった。そして、ミリアからの返答は、


「ふーん」


 ルーシア、撃沈。


『しばらくはこれをいじりネタに使おうかしら』


 ──やめてくれぇ……

修正終わりました。一気に三つ投稿するので、後書きはこの話にだけ書きます。遅くなりすみません

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