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新しい武器

 朝食を食べ終えたルーシアは、少し早いと思いながらも武器屋へと出向いていた。武器屋のおっちゃんは今日できると言っていたし、あの人はそうそう約束を破るような人ではないのでルーシアは躊躇いもなく歩みを進めていた。


 昨日の夜はすぐに寝てしまったために、昨夜からずっとモヤモヤは残ったままだ。それも結局思い出せず、他ごとに集中できないために一時的に忘れるように今は努めている。


「クローズド……まあ、そりゃまだ開いてないか。今大体七時くらいだし」


「こんな朝っぱらから来おって」


「なんだおっちゃん、起きてたのか」


「まあな……ちょっと、問題が発生した。お前は早くから来ると踏んで早めに起きておったんじゃ」


「問題?」


「問題と言っていいのか分からんが……前例のない事態、と言うのが一番正しいか」


「ふむ……」


 とにかく入れ、と急かされたので、ルーシアはおっちゃんに続いて店へと入った。店自体が開くのはまだ後なので、クローズドの看板はそのままだ。


 売り場を通り、奥へと向かう。そして、最初ルーシアの剣をどのようにするか話し合った部屋へと入り、前回と同様の席に座った。


「それで、前例のない事態って?」


「これを見ろ。お前の魔力を込めて俺が打った、ご注文の短剣だ」


「こ、これは……!」


 純白の刀身に赤い紋様が浮かび上がっている。打つ前の金属は銀色だったため、このように純白になることはあり得ない筈だ。つまり、これは……


「……魔剣化した?」


「俺も、最初はそう思った。だが、何度振ってみても魔法が発動せんのだ。試し斬りで木材を切ってみたが、斬れ味は勿論普通の剣よりはいい。だが、魔剣のように魔法が発動することはなかった」


「……ボクが振ったら発動したりする?」


「剣が持ち主を判断するとは思えんのだがな……」


 ルーシアがその短剣を受け取り、おっちゃんに奥の部屋は少し頑丈な造りをしてるからそこで試してみろ、と言われたので奥の部屋へと入る。そこでしっかりと構えて袈裟懸けに振り下ろしてみるが、


「……何も、起きないな……」


「魔剣になったと思ったが……これは、魔剣ではないのか? となると、なぜこのような現象が……」


「……ゲームの剣みたいだなあ」


「……なんだって?」


「あ、いや……ほ、本で読んだだけなんだけどさ! 魔剣じゃないけど、特殊な効果のある剣があるらしいんだ。攻撃力を上げたり、魔法の効果を増大したりって言う……それらの武器もこんな感じで刀身の色が銀以外だったり、それこそこんな風に紋様があったりするんだ」


 前世の記憶にあるゲームやアニメに出てきた剣などの武器は、初期装備の「ショートソード」や「ブロンズソード」のようなものを除き、それこそゲームが中盤になればこう言った装飾の多い武器なんかが多く出てきた。ルーシア的には、この短剣もそれとよく似たもののように感じた。


「特殊な効果か……俺はそんな武器の存在は聞いたことがないな。本当に存在するのか?」


「さ、さあ……ボクも本で読んだだけだから、もしかしたら創作なのかもしれないけど……」


 ──でも、この見た目でなんの効果もないただ切れ味の良い剣、ってことはないと思うんだけどなあ……


 異世界──しかも世の理を書き換える物質である魔力を込めた剣だ。ただの剣である方がありえない。


「でも、何も思い付かないんだよなあ……まあ、剣として使えるならこれは貰うよ。何か分かったら伝える」


「そうしてくれると俺としても助かる。もしお前の言うような、魔剣には届かないが特殊な効果のある武器なんてものが存在するなら、それこそその大量生産を図れば大儲けだからな」


「金に目が絡んだ亡者め」


 おっちゃんの言葉に苦笑いしながらツッコミを入れる。


「で、いくら?」


「白金貨三枚だな」


「……冗談はよせよー!」


「冗談だと思うか?」


 ルーシアは笑顔のまま凍りついた。今持ち合わせている金額は金貨十枚だけだ。それでも充分大金なのだが、それでも圧倒的に足りなかった。ルーシアが涙目の上目遣いで尋ねる。


「……ローンにできる?」


「冗談じゃい」


「ぶっ殺すぞクソじじい」


「金貨一枚でいい」


「普通の剣なら銀貨いくのでいい方だと思うんだけど」


「そりゃ、その剣はそこらにある剣とは違う製法で作ったし、魔力を込める剣は加工が難しいんじゃ。本当なら金貨三枚にしたいとこ──」


「どうぞ」


 おっちゃんが言い終わる前に、ルーシアは神速とも言うべき速度で麻袋から金貨を一枚取り出し、おっちゃんの手に乗せた。あまりの速さに、おっちゃんも目を見開いて「お、おう」とたじろぐ。


「にしても、綺麗な色してるね、これ」


 その他の色の混じりは一切ない完全な純白に、鮮やかな赤のラインが走っている。どこか、この色の組み合わせに見覚えがあるような気がして──


「お前の髪と目の色でも反映してるんじゃないか」


「おお、それだ」


 ルーシアの感覚はどうやら、今おっちゃんが言ったことと一致していたようだ。おっちゃんの言葉にピンときて、同意の言葉を返す。


「ほれ、これが鞘じゃ。剣帯も一応用意しておる。どうやら、新しい剣帯をあの高級服屋で作ってもらっているようだから、その間貸し出すだけだと思っておけ。その後返しに来いよ」


「優しいじゃん、おっちゃん」


「ふん。勝手に言っとれ」


 ルーシアがからかうが、残念ながらおっちゃんは取り合ってくれなかったため、ルーシアは諦めて短剣を鞘にしまい、二重になるが剣帯を腰に取り付けて、短剣の収まった鞘を挿す。抜け落ちないのを確認して、ルーシアはおっちゃんの後を追って売り場へと戻った。


 ものの数十分で終わったため、まだ店が開く時間ではない。だから、おっちゃんはもう少しゆっくりするつもりのようだ。朝食もまだだったのか、黒くて堅そうなパンを二つ取り出していた。


「……それ、食べれるの?」


「堅いが慣れればそれなりに美味い。近くのパン屋で銅貨一枚で売っておる」


「へえ……日持ちしそうだし、遠出する時とか買ってみようかな」


「今日はこれからクエストか」


「うん。こいつを使い慣らしておきたいからね」


 ルーシアが短剣を叩きながら言う。おっちゃんはふんと鼻を鳴らし、黒いパンに齧り付いた。二秒かけてパンを噛みちぎり、今度は三十秒以上かけてパンを噛み、飲み込んだ。


「……人に食事を見せる趣味はない。とっとと行け」


「へーい……ありがとね、この剣」


「金は貰った。礼を言われる筋合いはない」


 その無愛想な堅物感がどことなく様になっているような気がして、ルーシアはおっちゃんに微笑みを向けてから店を出た。


「次はギルドに行ってクエストを探すか。短剣を使うならどんなのがいいんだろ……」


『大型の魔物はどう? 短剣なら、細かい動きで敵を撹乱しながらダメージを蓄積させていくのがいいんじゃない?』


「なるほど、一理あるな……でも、この剣があるとちょっと邪魔なんだよなあ……かと言って、ないと流石に不安だし……」


 三年前から、ルーシアは常に剣を手元に置いている。そのため、いつからか傍にこれがないと多少ではあるが不安を感じることがあった。


『……ま、好きにすればいいと思うわよ。あんた、その剣で戦いながらパターン替えでその短剣を使うつもりなんでしょう? だったら、最初からその練習した方がいいかもしれないわね』


「そうだね。よし、それじゃあてきとうに強そうなの選んで特訓に行くか! あと、捜査も忘れないようにしないと」


『そのことなんだけど……』

ゲームものではないので、武器に名前などは付けません、今のところは。そもそも、苦手なんだよなあ、そういうネーミングが……

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