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調査クエスト

 翌朝──


 ルーシアは昨日行きそびれた──実際は行き忘れただが──ギルドへと向かっていた。特にお咎めとかはないだろうが、やはり昨日行かなかったことで何かを言われないか少し心配であった。


 唾を飲み込み、意を決して扉を開ける。蝶番がキイィと音を立てて扉が開き、冒険者の視線がいくつもルーシアへと向いた。そして、すぐにそれは外れていく。受付嬢へと近付くが、ルーシアに向けて笑顔を向けるばかりで特に怒った様子はない。


「ええと、クエストの完了を……」


「達成したんですね。お疲れ様でした」


「は、はい。あの、ええと……昨日報告しなかったのは……」


「ああ、昨日のうちに帰っていたのですね。期限のあるクエストでもありませんし、報告が一日遅れたくらい、なんともありませんよ。ただ、このクエストはそれなりに難しいものではあるので、期待の星であるあなたに何かあったのではないか、と心配はしましたが」


「す、すみませんでした……ハイオークの討伐は完了しました。オークの肉が売れるんじゃないかって思って持って帰ってます。あと、これ。八人分の証です」


 ルーシアがコートのポケットから冒険者の証八つを取り出すと、受付嬢の顔が僅かばかり曇った。やはり、顔見知りの人が唐突にいなくなるというのは、悲しいものなのだろう。


「承りました。これらは遺族の下へと送らせていただきます。こちら、ハイオーク討伐クエストの達成報酬と、冒険者の証回収への追加報酬です。素材や食材の買取は、奥の部屋で承っていますので、後々そちらでお願いします」


「分かりました。その、ええと……ボクは死にませんから!」


 報酬の入った麻袋を受け取りながらルーシアが言うと、受付嬢は一瞬驚いたような顔を見せてすぐに笑顔へとシフトした。


「当然です。死なれては困りますからね」


「じゃあ、ボクはオークを売ってきます」


「はい。せいぜい高く売り捌いてきてください」


 「分かりました」と返して、ルーシアは受付の隣にある、この前試合を行った修練場とは逆の扉へと入った。どうやら、左側の扉からは修練場と受付嬢の休憩室があり、右側の扉は今回世話になる素材や食材の買取をしているらしい。


 部屋の中はかなり広く、ここならばそこそこなサイズの魔物でもそのまま入りそうだった。奥に受付があり、そこには白髪と黒髪が同比率で前髪が片目を隠したお爺さんが座っていた。


「素材か。食材か」


「え、ええと、食材です」


 ──な、なんか怖いなあ


 ドスの効いた低音で話しかけられて、少しびびったルーシアだったが、すぐに立て直して収納魔法からハイオークの死体を取り出す。


「売るのはハイオークです」


「ほう……収納魔法か。鮮度も落ちとらんし、血抜きも上出来……ふむ。じゃが、こやつは少し筋肉が締まり過ぎとるな。肉としては扱えん」


「え、じゃあ……」


「安心せい。食えんくとも他の使い道はある」


「ああ、出汁とか」


「そう言うことじゃ。ハイオークは良く味が出る。此奴からも良い出汁が出るだろうな……小金貨三枚で買い取ろう」


「分かりました」


 ──腕残ってるし、ミリアに預けて何か作ってもらおうかな……いや、手間が酷いから今は収納の奥にしまっておくか。街を出た時に使おう


 ルーシアはそんなことを考えながら、お爺さんから小金貨三枚を受け取りその部屋を後にした。そのあとの後始末はどうするのか気になったが、手伝うと言い出してみてもいらんと返されたので、まあそのうち見る機会もあるだろうと諦めた。


 ルーシアが小金貨三枚をクエストの報酬の麻袋にしまい、収納魔法にしまいながら受付の前を通ると、


「あの、ルーシアさん!」


 受付嬢に名前を呼ばれたので、ルーシアはもう一度受付の前に立った。すると、受付嬢がカウンターの下から一枚の羊皮紙を取り出した。それは、ギルドの壁にある掲示板に貼られているクエスト依頼書と同じものだ。


「ええと……?」


 なんとなく展開を予想しながらもルーシアが首を傾げると、受付嬢は勢いよく頭を下げながらガツンとカウンターへ額をぶつけた。


「うわあ! だ、大丈夫ですか……?」


「いつつ……あ、あの、このクエスト、受けてもらえませんか……?」


 額を押さえ涙目になりながら、受付嬢がルーシアに聞いてきた。ここまで必死になって頼んでくるのだから、余程のクエストなのだろうと思い、ルーシアはその羊皮紙に目を通した。その内容は、以下のようなものだった。


『依頼《行方不明者の捜索と原因の調査》

 ここ数日に渡って数人の人が行方不明になっており、家族から捜索の依頼がいくつも届いています。冒険者各位、手の空いている時でいいので調査を行ってもらいたいです。


報酬  小金貨八枚


依頼者   ギルド』


「これって、ギルドから出されたやつですよね?」


「はい。実は、そこにも書かれている通り行方不明者が何人か出ていまして……警団に捜索依頼が出ているのですが、見つからないようで。それで、ギルドに捜索の手伝いを頼みに来た、ということなんです」


「ふむ……ちなみに、行方不明者の特徴とかはあります?」


「話では、全員が魔法を使うことができる、ということでした」


「魔法か……冒険者がいなくなってるの?」


「いえ、魔法を使える方は冒険者、一般人問わず行方不明になっています」


 ──冒険者一般人問わず、か……狙っているのは魔法が使える人ってこと? でも、そりゃまたなんで……いや、それが調査の依頼か


「やっぱり、これって誘拐の可能性が高いですよね?」


「はい。こちらでもその方向性で色々と調査しているのですが……」


「未だ発見に至らず、か……」


「はい……」


「……分かりました。ボクの方でもちょっと調査してみます。何か分かったら報告するので」


「お願いします」


 ルーシアはその誘拐事件のことについて考えながらギルドを後にした。


 短剣が完成するのは明日のことであるためこれからやることもなく、ルーシアはこの誘拐事件について推察を重ねながら宿へと戻った。ある程度考えが纏まったところで、ピクシルと仮定をいくつか出してみた。


「やっぱり、狙いは魔法が使える人だと思う」


『そうでしょうね。でも、魔法が使える人を拐って何にするつもりなのかしら』


「ボクの予想では、魔法が使えない人が憂さ晴らしに魔法使いを拐って殺したり、奴隷にしたりしている。それか、裏でなんらかの魔法使いを使ったことを企む人がいて、そのために魔法使いを集めている……この辺りだと思う」


『なるほどねえ……前者だと話は楽ね』


「でも、その程度のことで拐われた人が簡単に見つからない、っていうのは中々にないんじゃないかな。個人の頭じゃ、やっぱり限界があると思うんだ」


『と、すると、後者が濃厚ってこと?』


「ボクの推察だけどね……でも、どういう目的で拐っているのかは全く分からない。それこそ、催眠魔法でも使って魔法使い部隊を作り、どこかの国にでも戦争を仕掛けるのかってくらいしか思いつかない……」


『……意外とそれがあってそうなんだけど』


「いやまあ、ボクも考えた中ではこれが一番なんだよ。他にも、魔法使いを使って楽に生活をしよう、とか、魔法使いで魔物を遠くから狩まくって一儲けしよう、とかも思い付いたけど、そんなことのために誘拐するなら雇った方がまだ良さそうだし……」


『それを思いつくあんたもあんたよ……』


 ベッドに寝転んで唸るルーシアと、ベッドの淵に腰掛けて呆れながら足をプラプラさせている実体ピクシルは、面倒くさいクエストを受けたな、と同時に溜息を吐いた。


 実際のところ、ルーシアには誘拐した人を隠す場所にはいくつか心当たりがある。町外れの使われていないボロ家や、農業区の穀物類の収納庫の地下や、学園にある使われていない教室など、その数は十数ヶ所あった。このうちのいくつかは、愛斗が目覚める前のルーシアが特訓な最中、街の人との交流のために色々散策している中で見つけたものだ。


「……明日は、短剣を受け取ってしばらくは慣れるまでクエストかな。道中で思い当たるところがあったら、調べてみることにしよう」


『今日はどうするの?』


「そうだなあ〜……よっと。昨日のおっちゃんのモロコス売りを手伝ってくる」

特に書くことが思いつきませんでした。

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