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妖精の誕生

『妖精が誕生したのは、約一万年前のこと。私が生まれたのが六千八百年前で、それまでには十五精生まれてるわ』


「十五精?」


『妖精や精霊は、一精、二精って数えるのよ。人間が一人二人って数えるのと同じ』


「へぇ……ていうか、ピクシルの前に十五……精生まれてたってことは、ピクシルは十六精目ってこと? かなり早くからいるんだね」


『そうね。妖精の村じゃ、今では二番目の存在だから!』


「追い出されたけどね」


『あれは……別にいいでしょ!』


 ルーシアはピクシルの追い出されたというあの話は、最近では嘘だと思っている。それに、今の話がそれを後押ししている。本来、二番目の存在がそう簡単に村を追い出されるとは思えないのだ。それに、ピクシルにはルーシアにさえ言えない目的がある。そのためにルーシアに嘘を吐いている……そんな気がしていた。


『村にはまだ一番の村長がいるから大丈夫よ。私より前の妖精はとっくに十四精は逝っちゃったけど。だから、今は私がナンバーツー。あ、ちなみに、私には二精の娘がいるから』


「なんだ人妻か。しかも中古か」


『いや、妖精にそういう概念ないから。妖精の子供はね、二精の妖精が魔力をぶつけ合うことで誕生するの。でも、その成功率はそこまで高くないから、残念だけど妖精の数はなかなか増えないのよ。今となっちゃ村には百精くらいはいると思うんだけど、それまではなかなかどうして大変だったのよ』


 ──魔力をぶつけ合う……


 ルーシアは頭の中で小さな妖精二精が、ボール状の魔力をぶつけ合う様子を思い描いた。実際のところは分からないのだが、ルーシアはその光景が微笑ま面白く感じたもので、ぷっと吹き出してしまった。


『まあ、あながち間違ってないから』


「間違ってないんだ……ちょっと見てみたいかも」


『妖精の村に行ったら、見せてあげるわよ。生命の誕生をその目で見るといいわ』


「人間と比べて健全だからありがたいよ」


『そうね。圧倒的に健全だと思うわ』


「でも、信じ難いなあ……魔力に魂が宿るのって、なんか想像つかない」


『あんたの記憶から見れば人間だって色んな物質が集まってできてるんだから、大差ないわよ。炭素だの水素だのといった物質から成り立つ人間とかの生物、魔力という物質から成り立つ妖精や精霊。どう? 変わる?』


「うん……まあ、そう考えてみれば変わらないかもね。どっちも不思議な存在だ」


 ピクシルが「でしょ?」ともう一度聞き返してくるのを、ルーシアは「うん」と頷き返した。ルーシアも、昔からそう考える度に不思議な感覚に囚われていた。炭素と言えば、ダイヤモンドや鉛筆などの黒鉛だってそうだ。厳密に言えば同素体として違うのだが、炭素として考えれば同じだ。それと同じものから成り立つのに、こうして感情や意志というものがあるのだ。そう考えると、本当に不思議な感じがする。


「……でも、妖精同士が魔力をぶつけるから妖精が生まれるんなら、どうやって初代の妖精は生まれたの?」


『約一万年前。世界には、二体のリュウがいた。蛇のような姿をした龍と、四足で歩く竜が。その二体はこの世界で、一二を争うほどの魔力器官を所有し、さらには魔力親和度も高かった。蛇の龍はこの世界の東を、四足の竜はこの世界の西を拠点としていたが、ある時その配下の魔獣たちが争いを引き起こし、その二体のリュウは望まぬ争いを始めてしまった。その最中、二体の魔法がぶつかり合った中で妖精が誕生し、その妖精のリュウすら凌ぐ力にその争いは収束した……これは、妖精の間で言い伝えられている妖精誕生の話よ。実際のことは、私もよく知らないの。初代の妖精は早くに亡くなってその空気中に霧散した魔力から、二代目三代目が生まれたって話だから』


「リュウ、か……」


『ええ。蛇の龍はあんたが使ったあの魔法と同じような姿よ。四足の竜は、今じゃドラゴンと呼ばれている存在ね』


「そのリュウはどうなったの?」


『ホント、あんたって気になることはとことん聞くわね……』


「聞かない方が良さそうなのは聞いてないでしょ」


『それもそうだけど……言ったでしょ。これは言い伝えられている話で、実際の事は分からないの。妖精は忘れる事はないけど、その話が事実じゃなければ覚えていても意味はないもの』


「忘れないって、まじ?」


『忘れないわよ。だって、人間とか他の生き物と違って、脳なんていうめんどくさい構造持ってないもの。見たもの聞いたこと、全部残ってるわよ、六千八百年分』


「……じゃあ、ボク達が出会った日から今日までの食事内容、全部言える?」


『言えるわよ。まず一日目が──』


 そして、ルーシアは街に戻るまでの間ピクシルの言うことが正しいのか確かめるため、三年分の食事内容を聞いていくこととなった。ピクシルのメニュー羅列が始まって数分後、ルーシアはこう思った。


 ──ボクが覚えてないから、検証も何もないんだよなあ……


 ただ、時間潰しにはなった。



 街に戻ったルーシアは、ギルドへと向かっていた。街の中央にあるギルドには、どのみち少し距離がある。ルーシアは少し商業街を覗きながら進んだ。時間的には夕方なので、夕飯の買い出しが既に終わっていて並べられている商品はそこまで多くはない。


 この街は内陸の方にあるので、海産物はほとんどない。南の方では農業地区となっているらしく、野菜類はかなりの種類があるし、街自体そこまで大きくないのでどれも瑞々しい。


「すみませーん、これひとつ」


「あいよ。クエスト帰りか? 嬢ちゃんにはこの街を救ってもらった恩義があるからな。これも持ってけ、売れ残りのサービスだ」


「いや、恩義なんて……ありがたく頂戴します」


 ルーシアがトマトを購入すると、店のおっちゃんがサービスをしてくれた。しかも、それがこの街ではなかなか見かけないために、この世界に来てから一度も食べたことなかったトウモロコシだったものだから、つい受け取ってしまった。


「でも、モロコスなんてこの街じゃ取れないよね?」


 この世界ではトウモロコシのことはモロコスと呼ばれているらしく、ルーシアも色々と本を読み漁っているおかげで、その辺のことはそれなりに知識として頭に入っていた。本は学園にあった図書室で借りたものだ。


「実は最近栽培にうちの息子が成功してな。だから、こうして売ったんだが……この街にいる奴ら、誰もこれを食ったことがなくてほとんど売れなかったんだよ」


「なるほどねえ……そりゃ、モロコスなんてこの大陸の北の方でしか作られないし、そこからこの街まで馬車で送ってちゃ、その間に鮮度落ちるもんね」


 ルーシアが収納魔法から銅貨二枚を取り出しておっちゃんに渡し、トマトにかぶりつく。この世界ではトトと呼ばれているトマトだが、皮の一瞬の抵抗を破るとプチっといい音が鳴り、そのあとはほろほろと崩れるように食べることができる。この街のものは酸味が弱く、どちらかというと果物のような印象がある。ジェルが嫌いという人も多いが、この世界のトマトにはジェルがなく、全体的に果実──言うなれば、イチゴやそういったものと似たような感じなのだ。


「うん、美味い。んー、モロコスの定番といえば、茹でるのがよくあるかな。よっと」


 ルーシアが魔法でお湯を作り出し、そこにモロコスを投入する。モロコスは生でも充分食べれるのだが、やはりこうして茹でた方が甘味が増すのだ。


 数分待ってみると、モロコスからは湯気が立ち上がり、甘い匂いがルーシアの嗅覚と胃袋を刺激した。


「はぐ……これは……」


「どうだ……?」


「うん……」


「お、おい……?」


「…………まいっ!」


「ためかよ!」


「いや、これ美味いよ! この街で出来たにしては、上出来じゃないかな! すごく甘いし、新鮮で、文句の付けようがないよ!」


「そ、……そりゃそうだろ! うちの息子が作ったんだ、美味くて当然だ!」


 ルーシアはそのモロコスを食べ進め、その後結局、二本購入して宿()へと向かった。ミリアにモロコスを使った料理を教えて作ってもらい、それを堪能してから風呂に入って森を歩き回った疲れを癒し──


「ギルド行くの忘れてたああぁぁ────っ!」


 髪を洗っていたミリアがビクッと肩を震わせていた。

久々に投稿です! テスト終わりましたいろんな意味で!

コロナで学校休みになって時間あるので、毎日投稿できるよう頑張ります。

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