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妖精と精霊

「……流石に誰も生きてはいないか」


 この臭い洞穴に入る気には流石にならず、索敵魔法で捕われたであろう女性達の生存確認をしたが、中にいる八人の人体は全て生命活動を停止していた。冒険者の証であろう石も八つあるため、おそらく八人とも冒険者だったのだろう。


 つむじ風の魔法でその八つの冒険者の証を回収し、水魔法で洗浄してコートのポケットにしまった。


「どうか安らかに眠ってください……」


 手を合わせて目を閉じる、すなわち合掌をしてからルーシアはその場を去った。


 森の中を地図で確認しながら進むこと二十分。ルーシアは例の神樹へと来ていた。周囲の木は枯れ果て、その神樹はその中心にでっかく、しかしどこか寂しそうに立っていた。根は張っているのだが、周囲の土や木は枯れ果てて栄養がないため、もしかしたらこの木は枯れるかもしれない。


「五百を超える人に恨みを持った魂……か。一つの木に集まるなんて、普通ありえるの?」


『十や二十なら今まで見たことあるわ。でも、百を超えるなんてことは今までないわよ……正直言うと、この前のは不測の事態だったわ。あんた、死んじゃうと思ったもの』


「ボクも死ぬと思った……心配してくれたの?」


『べ、別にあんたの心配をしたわけじゃないわよ。これは、私の目的を達成するためで……』


 ピクシルが言葉を切った。ピクシルの目的──今まで気にならなかったわけではないが、どうも聞かなかった事柄である。ピクシルは様々なことを隠しているような気がしていたルーシアだが、今日までそのことに触れることはなかった。触れる暇がなかったのかもしれない。あまりにも、充実していて。


「……ピクシルのもく──」


『それで! ここに来たのは、何か目的でもあるんでしょ⁉︎』


「……うん。ボク、戦闘の後意識失ってたから、黙祷してなかったからね」


『……黙祷って?』


 実際、この世界には黙祷や葬式などといったものはない。当然だ。この世界には仏教もキリスト教も神道もないのだから、地球や日本にあった文化など、同じものがある時点でレアケースなのだ。


「死んだ人に祈ること。どうか安らかに眠ってください、来世が良いものになりますように、って」


『ふーん。あんたのいた世界のもの?』


「……ボク、ピクシルにそのこと話したっけ?」


『話したわよ。それに、あんたの思考から推測くらい容易よ。あんた、毎回毎回私が心や思考を読めるの、忘れてない?』


「……完全に失念してたよ」


『あんたって、頭がいいのかバカなのか、よく分からないわね』


「ボクは頭が良くてバカなんだよ。さて、黙祷も終わったし帰ろうかな」


 ルーシアの謎理論にピクシルが恐らく溜息を吐きながら──魔力として見える姿は溜息を吐いていたが、音声として魔力が送られていなかったから実際のことは微妙である──、ルーシアの頭上をついてきた。


「そう言えば聞いたことなかったけど、妖精の実態って何なの?」


 露骨に話を逸らしていたことからピクシルが目的を話すのは今ではないと悟ったルーシアは、どのみち街までかなりの時間がかかることもあり最近気になっていたことを聞いてみた。実際、妖精というものはルーシア自身あまり知らないのだ。ピクシルとは既に三年近く一緒にいるにも拘らず。


『話したことなかったかしら?』


「魔力は親和性の回で妖精と精霊は魔力から成り立ってるってことは聞いた」


『何よ、その回って』


「んー、話の区切りというか、サブタイトルというか?」


『訳わかんないわよ……確かに、その時にそう言ったわね』


 この話を聞いたのはまだルーシアが一次学年の頃だ。まだ魔法の原理を知ったばかりのルーシアがピクシルから聞いたことだ。魔力の行使には魔力器官を介し、魔法の威力や持続力にも基本的には魔力器官が関係してくる。しかし、それ以外にも魔法の効果を左右するものが存在する。それが、魔力と行使者の親和度だ。ギャルゲの親密度のように一緒に過ごせば上がる、というものでもなく、残念ながらそれは生まれつき決まっているものだ。


 親和度という名前の通り、魔力の干渉力に関わってくる。つまり、魔法の行使までの時間短縮や現象化、物質化の効率上昇などの効果があるのだが、妖精や精霊が魔法に適しているのは、存在自体が魔力であるためなのだそうだ。魔力器官は存在せず、ほとんどそのまま魔力を行使するため、使用の限度も存在しない。ちなみに、ルーシアは魔力親和度も凄く高いそうだ。王宮魔術師にもいて数人程度の才能とのこと。


『まず、魔法の発動について簡単に説明するわ。このことはあんたにも詳しく話してないから。魔法というものわね、生物の魔力器官を通って外に生物の思念を持って放出される際、特殊な膜に覆われているの。そして、思念が膜を破ることで魔法として発動するのよ』


「膜……」


 ピクシルの話を頭の中でイメージしてみる。発動者を人として、魔力器官から膜に包まれた魔力が外へと放出される。そして、人の頭の中では炎のイメージが成されていて、そのイメージは魔力に送られて蓄積され、その量が限度を超えた瞬間膜が破れて炎が現れる。このイメージで合っているのかは微妙だが、大方こんなところだと予想した。


「それが、妖精や精霊となんの関係があるの?」


『魔法が発動したら、魔力は霧散して何処かに行っちゃうでしょ? でも、私達妖精やその下位互換の精霊は魔力の集合体として魂を持っている』


「……つまり、ピクシル達はその膜に覆われている……ってこと?」


『そ。その膜がなかったら、私達は元から存在しないのよ……』


 ピクシルの顔がどこか寂しそうに陰った。しかし、それもすぐに消えたがその一瞬のうちにルーシアはそれが何を指すのか、なんとなく予想がついた。


 ──魔力を覆う膜がないと、妖精や精霊は存在できない……でも、魔法を使うときみたいに膜は破れるってことだよな。じゃあ、もしその膜が破れたらピクシル達は死ぬってことになる


 そこまで予想のついたルーシアだったが、そのことをピクシルに聞くことは躊躇われた。今の表情が何を指すのか、そこまでは悟れなかったからだ。


『この膜も最強じゃないから、時間が経てば脆くなるしたまに魔法攻撃で破れることもあるけどね。妖精や精霊の寿命は、膜の耐久力と同じってことよ』


「じゃあ、妖精や精霊が生まれるのって、魔法を使おうとして発動しなかったとき……ってことになるの?」


『察しがいいじゃない。流石、一応自称天才なだけはあるわね』


「あはは……」


 ピクシルのことだから、ルーシアの前世のことくらいはとっくに知っているだろう。だから、ルーシア──愛斗が天才と呼ばれた所以くらい分かっている。


『妖精と精霊は、根本的なところは同じなの。だって、構造が一緒だもの。でも、その違いは生まれにあるの。精霊の場合、人間のような低級の魔術生物が魔法を失敗した際に生まれるの。炎属性の魔法を使おうとすれば火の精霊サラマンダー、水属性の魔法を使おうとすれば、水の精霊ウンディーネって感じに、使用魔法で精霊の種族が決まるのよ』


「そういや今まで気にしてこなかったけど、属性で使える使えないってあるの?」


『基本的にないわよ』


「ないの⁉︎」


 ピクシルが「ないわよ」とリピートする。ルーシアはこの世界に来る際、「強すぎない全属性の魔法を使える」という条件で転生した。しかし、ピクシル曰く魔法の属性に使える使えないはない、という。


『実際のところは全くないってことはないわ。でも、魔法はその人のイメージ次第だから、その現象が想像できてさえいれば、得手不得手はほとんどないのと同じよ』


「……じゃあ、ボクは無駄な願いをしたってことなのか」


 ハハハ……と力のない笑いが溢れる。きっと、漫画やアニメならば目からハイライトが消されているだろう。たった一度のみ確実に叶えることのできる願いが、無意味に終わったのだから。


『続けていい?』


「あ、はい、どうぞ」


 力のない声でピクシルに返答する。ピクシルは中々復活しないルーシアに溜息を吐きながら、話を先に進めた。


『次に、妖精が誕生するところから始めるわね──』

ワークが終わらん……ならこんなことするなって? これは勉強で溜まったフラストレーションの発散なのさ!

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