新しい戦い方
「クエスト、どれがいいかな」
金には困っていないが、戦闘経験を積むためにルーシアはギルドへと来ていた。時間も余裕はある。それに、剣と魔法を組み合わせた戦い方を模索しようとも思っていた。
ルーシアは、剣自体はそこまで強いわけではない。確かに、学園では一位に君臨するくらいに腕は立つし、前世でも剣道の上位八位くらいになら勝つこともできる。しかし、かといってこの世界で剣だけで戦って無双できるか、と考えると、そうとは限らない。レイルとの勝負だって、魔法がなければ恐らく負けていただろう。それこそ、ほんの数秒で決着が付いていたかもしれない。
だから、ルーシアは剣の腕にはなるべく頼らず、魔法が無制限に使えるというアドバンテージを使うことにした。ならば後方支援でいいのではないか、と思うかもしれないが、ルーシアは基本ソロで戦うつもりでいるし、そもそも剣の腕だけでもその辺の冒険者よりは腕が立つのだ。だから、前線で戦う方がいいのだ。
「んー……正直、空中線とかになると厳しいよな……地上ならまだしも、空中で無防備になったら攻撃を躱すのも一苦労だし……」
いくらルーシアと言えど、空気を蹴るなどというイかれた真似はできない。しかし、魔法で空気を押し固めれば可能かもしれない。
「……空気圧縮か。試してみるのもアリだな。よし、ついでにこのクエストやってしまおう」
ルーシアが手に取ったのは、森の一角に住まうハイオークの討伐だ。オークは日本のラノベでもよくあったように、女性を襲って子孫を残そうとする万年発情期な奴らだ。そのため、その周囲には女性冒険者が近寄りたがらず、ギルドとしては大きな害を被っているのだと。それに、そのハイオークというのがかなりの強さで、主力を失ったこの街の冒険者では、かなり危険だという。
ルーシアがこのクエストの依頼を受付に持って行くと、受付嬢の表情が明るくなると同時に、ルーシアへの心配か曇った。
「あの、このクエストはかなり厳しいものとなると思います。大丈夫ですか?」
「危険だったら逃げるので、大丈夫です」
「分かりました。期限はありませんので、気を付けて行ってらっしゃい」
「分かりました、行ってきます」
武器屋で買った左腕の防具の締まり具合を調節し、腰に剣が下がっていることを確認。準備が整ったところでルーシアはギルドを後にし、トレントと激戦を繰り広げた東の森へと向かった。
外壁からしばらく続く平原を一時間かけて歩き、森へと入る。オークの居場所は依頼書に地図が描かれており、それを頼りに進む。今神樹がある位置から北へと進み、そこから少し東に進んだところに小さな洞窟がある。そして、ハイオークはそこに潜んでいるらしい。
今まで数人の女性冒険者が行方不明になったらしく、その全員が東の森にクエストで向かったらしい。男性冒険者も一緒にいた方もいたらしいが、その男性冒険者は街に帰ってきたものの、ハイオークにボロボロになるまで嬲られ遂には恐怖のあまり、冒険者稼業を引退したらしい。
「あとちょっとか。今のうちに空気圧縮、試してみるかな」
何もない場所の空気を一か所に纏めるイメージだ。そして、それを薄い円盤状に形を変えさせてそこに飛び乗ってみる。
「お、おお……い、行けるか、これ……」
地面が透けて見える、というところが僅かに恐怖心を抱かせる。そして、その恐怖心がイメージを崩させて、
「うわぁ!」
空気圧縮で作り上げた円盤は消滅し、ルーシアは地面へと尻餅をついた。
「いてぇ……やっぱ、慣れないことでするのはやめた方がいいな……ここはやっぱり、妥当な感じで行くか」
次は、空気中の水分を凝縮し氷へと形を変換させる。イメージでこの氷を操ることはできるが、ルーシアはさっきの経験からこのまま上に乗っても失敗する可能性があると判断し、今度は氷の下から強風を当てることで、落下させないことにした。
「よっと。おお、ボクの体重に合わせて風の強さを調節すれば、さっきのより安定するかも……うわっ!」
そして、足が滑って地面へと背中から落ちた。姿勢的には、ジャーマンスープレックスを喰らったような形だろうか。
「……いっそ土でいいや」
そして、この氷の時と同じ要領で今度は土で試してみる。空気中の塵を集めて岩盤へと形成、それを下からの風で支えてそこに跳び乗る。
「うん。岩盤をしっかり固めておけば、崩れる心配もないし滑ることもない……これで行くか。後は、これを足場に空中移動とかできるかな……!」
ルーシアは岩盤の角度を風の当てる強さで調整し、それを足場に上へと跳んだ。そして、それを連続して枝をかわしながら、六枚の岩盤を使用して木の上へと出ることができた。
「あれが件の洞窟か。なるほど、良い隠れ家になりそうだな、魔物にとっては」
落下の衝撃を全身を使って和らげながら、ルーシアは地面に着地した。コートや髪についた葉を払い落とし、洞窟へと足を向けた。
いつ襲われても良いよう、右手を剣の柄に当てながら進む。そして、唐突に鼻を何かの臭いが刺激した。そう、言い表すならば。
「……これが、イカくさいというやつか。マジでイカくさいな」
愛斗自身は童貞のまま死んだため、この臭いを経験することはなかったが、まさかこんな形で経験するとは思いもしなかった。しかし、その鼻を刺激する臭いの中に獣の臭いもあり、その臭いは恐らくハイオークのものだろう。
「……囚われた人が生きてる可能性もあるから、ここで魔法をぶっ放すのはやめておくか」
──それに、さっき試したやつが使えるかどうかも試したいし
ルーシアは遂に森を抜け、洞窟の前へと姿を見せた。次の瞬間、ルーシア目掛けて棍棒が振り下ろされた。左に跳んで躱したルーシアだったが、あとコンマ数秒遅れていれば右腕がやられていたかもしれない。つまり、このオークは殺すのではなく、抵抗の手段をなくそうとしたのだ。
「魔物のくせに、頭回るじゃねーか」
そして、再びルーシア目掛けて飛び掛かってくる。それを後ろへと飛びすさり躱すが、オークはそれを追いかけるかのように跳び上がる。ここでやっとその姿を捉えた。平たい鼻にその脇に生える曲がった牙、筋骨たくましい身体はまさにオークといったものだろう。身長は恐らく二メートルは超えるだろうか。ハイオークという上位種というだけあって、デカさも予想以上だ。
しかも、その巨体でありながら軽くリミッターを外して三メートル近く跳んだルーシアに届くのだ。
──さっそく使う時が来たな……!
ルーシアは背後に斜め四十五度に傾けた岩盤を作り出し、それを足場にオークの背後目掛けて跳んだ。直後、オークの棍棒がその岩盤を打ち砕く。そして、更に岩盤を作り出したルーシアは剣を抜きながらその岩盤に足をつけ、オークの背中目掛けて跳び込み、勢いそのままに剣をオークに突き刺した。
オークの硬い筋肉に一瞬抵抗を感じたが、やはり切れ味重視な剣かつ勢いのある刺突に耐えることはできず、剣は刃の半分をオークの体内へとめり込ませた。オークからブゴオオォ! と悲鳴じみた声が聞こえてくるが、ルーシアはそれもお構いなしに剣を捻り、オークの背中を足場に剣を垂直に切り上げる。そして、背中から飛び降りて地面へと着地する。
背後でズオオ──ン……と音を立ててオークが落下する。しかし、ズゴゴと音を立てて立ち上がるからには、まだ倒れていないのだろう。
「悪いけど、死んでもらうよ。君の存在は、みんなの幸せに必要ない」
ルーシアは剣に魔力を纏わせ、地面を蹴った。左下からの切り上げでオークの左腕を切り落とし、手首を切り返して首を切り落とす。オークの前方で着地し、振り向きざまにオークの右脇腹から左肩へかけて剣を振るった。まあ、高さ的に足りないのでもう少し下の位置を切ったが。
オークの腕が落ち、それから筋肉から力が抜けて後ろへと倒れた。その際地響きがするほどだったのだから、余程重いのだろう。
「オーク肉って意外と高値で売れたっけ。魔力使いっぱなしで疲れるけど、せっかくだし収納魔法に入れて持って帰るか。血抜きはしておこ」
ルーシアはオークの血抜きをし、それを収納魔法へと片付けた。
しばらく投稿しないかもしれません。テスト前でワークが溜まってて……




