短剣作成
翌日、ルーシアは再び武器屋へと来ていた。店主に店の奥に来るように言われたので、今日も着いて行く。昨日使った部屋より更に奥、所謂鍛冶場というところだ。耐火レンガで造られた炉に、金床やハーディーログと呼ばれるらしいハンマーを引っかける金属のフックがついた丸太などがある。
「魔法で火、付けてもらえるか?」
「そこは手作業じゃないんだ……」
「楽できるのにしないのはバカのやることだ。火の調節は俺がするから安心しろ」
「はーい。よっと」
雰囲気作りにルーシアが指をパチンと鳴らすと、炉の中の石炭が燃え始める。魔道具の送風機があるらしく、すぐに炎は強くなった。
「あっつ!」
「そのコート脱いでおけ。ぶっ倒れるぞ」
「あーい……」
店主は飛び散る火花から守るためか、長袖を着ているがルーシアは長袖でとても我慢できそうになかった。コートを脱いで昨日の部屋に置いてきて、更に裾を二の腕半ばまでまくる。これでも暑いのだから、正直ここで脱いでしまいたいくらいだ。
「魔力は俺が金属を叩いている間に送ってくれればいい。一回冷えるまでに流し込まないと、中まで染み込まないから注意しろよ」
「分かりやした、親方!」
「あまりふざけてると怪我するぞ……」
「風魔法で防壁張ってるんで、大丈夫ですぜ親方」
「はいはい……じゃあ、始めるぞ」
本来は金属の表面を磨いて酸化してる部分を削り取るそうなのだが、今回は既に終えているようだ。
「いつもは型に流し込むだけだが、お前さんの剣と同じ切れ味にするには、かなりめんどくさい工程が必要だからな……」
「作り方知ってるの?」
「話くらいはな。俺の知ってるやり方だと片刃になるが、構わんか?」
「むしろそっちの方がいい」
片刃は無理と思っていたが、まさかこんな形で手に入れれることになるとは。
店主が火箸を使って金属を炉の中に入れ、石炭に覆われるように押し込む。しばらくすると、その金属を取り出し、金床に置いた。その金属は番組などで何度も見た赤熱した真っ赤から白に近い色合いの状態だ。
「叩くから、魔力送れ」
ルーシアが頷くと、店主がハンマーを振り下ろし始めた。カーン、カーンと音が響く。
──魔力送るのって、そういうイメージでいいんだよね?
『そうね。この前の白い服のあの子のやつを真似ればいいわ』
──了解
魔力を金属へと送るイメージ。特別なことはしないで、ただその通りのイメージをする。すると、イメージ通りに魔力が金属へと送られ、吸い込まれて行く。
店主が十五回ほど金属を叩くと、もう一度炉へと戻した。それに合わせて、ルーシアも魔力を送るのを止める。
「もう帰ってもいいが、どうする?」
「んー、もうちょい見てようかな。ギルドも行かなきゃだけど、明日でもいいし」
「好きにしてくれ」
──ボクの出番超少ねえ
『そういうもんよ。魔力系の武器は、魔力が多過ぎてもダメって言われるらしいから。どうも、魔力が放出されて、意図せず魔法が放たれるなんてこともあるらしいわよ。中には敢えて魔力をオーバーして入れて、魔剣なんていうものを作ってる人もいるらしいけど』
ピクシルの説明を聞きながら、ルーシアは再び始まった金属打ちを見守る。火箸で挟んだ金属を縦横にと向きを変えながら叩いて行く。炉に入れ、叩くの作業が続き少しずつ形になって行き始めた──ところで、ルーシアは暑さに耐えかねて武器屋を後にした。
「あっつい! あんなところに何時間もいてられるか!」
『水分取りなさいよ』
魔法で水を作り出し、それを口に含んで飲み込む。何度かそれを繰り返し、服も乾いてきて少し楽になった。流石に暑くてコートは手に持っている。
「ふう……武器が出来るまであと二日は欲しいって言ってたし……ギルドに行くかな。その前に宿で風呂入ろ……」
♢
宿に戻って軽く身体を流したルーシアは、街の中央部にあるギルドへと向かった。トレントとの決戦から数日過ぎたので、そろそろルーシアの冒険者ランクも決まるはずだ。
ギルドに着き、木製の扉を押し開くと、冒険者のいくつかの目がルーシアに向いた。一瞬気圧されそうになったが、すぐに堂々と受付へ向かった。
「ええと、特に用はないんですけど……報酬とかランクとか、その辺の何かあります?」
「あ、ギルド長を呼びますので、少々お待ちください!」
受付嬢が受付から飛び出し、ギルド長室へと向かった。一分ほどすると戻ってきて、「すぐにいらっしゃるので」とルーシアに伝えてきた。それならとルーシアは、クエストの一覧を見に掲示板へと近付いた。
クエストは本来、この街の誰かが依頼金と共に依頼を出す。それがギルドの決まりとなっている。そして、その依頼は羊皮紙などの紙に書かれて、こうして掲示板に貼り出されるのだ。元々、すなわちギルドのできる前は依頼者本人がこうして掲示板のようなものへと貼り付けていたようだが、依頼達成の報酬が正確に払われないなどの問題もあったようだ。そのため、今の形となったらしい。
ピクシルからその辺りのことを聞きながら待っていると、低い声に名前を呼ばれた。
「お、ギルマス来た」
「もう大丈夫なのか?」
「はい。一日寝て、昨日はゆっくりしたので体調は万全です。それで、ランク決まったんですか?」
「ああ。トレントの報酬はもう少し待ってもらえると助かる。それで、お前のランクなんだがな……」
「何か問題でも?」
「問題というか……まあいい、ここで発表する。冒険者ルーシアのランクは──」
周囲の冒険者の視線がセルガストとルーシアに注がれる。ほんの少し緊張していて、ルーシアもゴクリと唾を一度飲み込んだ。
「Zランクだ」
……場を静寂が包んだ。
「……ぜっと?」
実際はこの世界の言語のの一番最後の文字なのだが、ここではZとさせてもらう。
冒険者のランクには七段階あり、お手伝い要員のFランクから英雄のSランクまである。しかし、そこのどこにもZなどというランクはない。
「えふ、いー、でぃー、しー、びー、えー、えす……いや、ぜっとってないですよね?」
一番最後の文字ということで、なんらかの絶望感を感じたルーシアが覇気のない声で聞き返す。セルガストも少し頭を抱えているようだ。
「……実はだな。お前のランクを決めるために、この国のギルド全てにお前の情報を送ったのだ。そしたら、お前をランクなどというものに収めて制限するのはもったいない、という意見で満場一致してな。そこで、特別待遇ということで急遽Zランクが増設されたというわけだ」
「……つまり、Fランクにも及ばない雑魚、と認識された訳ではないんですね?」
「ああ。むしろ、期待の新星と言ったところだ」
「な、なんだあ……ビックリした……」
周囲の冒険者は初めて聞くランクに疑問の声がいくつも上がっていた。しかし、この前のトレントの戦い、そしてレイルとの試合の効果もあってか、ルーシアの特別待遇に不満を持つ者は今のところいなかったようだ。
「ギルマス! こんなちっこいのが特別待遇ってどういうことですか! どう見ても俺より弱っちくてガキじゃないですか!」
……いや、いた。少し長めの髪を後ろで束ねた、まだルーシアと二つ三つしか歳の離れていなさそうな少年だ。ルーシアよりは十五センチほど身長が高い。
「……ギルドの決定だ。口出しするな」
「でも!」
「そんなに納得いかないなら、ボクと決闘しますか?」
ルーシアが提案すると、その少年はルーシアへと向き直った。そして、自信に満ちた顔で言い放った。
「ああ、いいぜ! 打ちのめしてやるよ!」
セルガストは頭を抱えて溜息を吐き、他の冒険者は「あいつバカだなー」「終わったな、あいつ」などと言っている。
「……奥に修練場がある。そこで木剣での試合とする」
日本刀と西洋剣の作り方動画で見たけど、かなり違うんだね……そりゎ日本刀の方が切れ味良くなるよ。




