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再会

『愛斗くん』


 誰かが僕を呼んでいる。


『愛斗くん』


 でも、どうしてルーシアって呼ばれないんだろう?


『愛斗くん』


 ああ、そうか……僕は、また、死んだのかな。だから、愛斗としての意識だから、愛斗と呼ばれて……


『目を覚まして、愛斗くん』


 だとしたら、この声はあの神様的な存在のうちの一人だろうか……


「目を覚ましてって言ってるでしょ!」


「うわわっ!」


 突如声が鮮明になり、襟を掴まれて揺すられた。頭がぐわんぐわんと前後に揺さぶられて、それが止まったときにはしばらく目を覚ましていた。


「うぅ……まだクラクラする……ん?」


 声が違う……ルーシアの声じゃない? 低いけど、男子にしては高めの声……手も、ルーシアと比べると大きくて、少しゴツゴツしてるか……?


「もう、目を覚ましてって言ってるのに全然起きないんだもん!」


「……はぇ?」


 視界を上げるとそこには、そこが光源とでも思えるように輝く白髪を腰まで伸ばし、少し垂れた目尻の隣には炎のように真っ赤な紅目が存在している。少し寄せられた眉間の下に視線を下ろすと、アニメキャラのような綺麗な弧を描いた日本人と比べると少し高い鼻筋があり、その更に下には薄ピンクの愛らしい小さな口がある。


 全体的には小ぢんまりとした体付きで、歳的には十歳くらいの少女……そして、僕としてはもう見慣れてしまったけど、少し違和感を感じる姿。


「……ルーシア?」


「寝ぼけてるの?」


「……いや、待て。というか、なんで僕は元の姿に……? やっぱり死んだのか……?」


「生きてるよ。今はただ寝てるだけ。ここはまあなんというか、夢みたいなところかな?」


 見回してみるが、ルーシア以外に存在するものは何もない。ブラックホールの中に僕とルーシアだけが取り残された、とでも言えばいいだろうか。暗闇の中には二人しかいない。


「……なんでルーシアと僕が会話してるの? 僕達って二人で一つになったはずじゃ……」


「そんなのなれるわけないでしょ」


 ルーシアが呆れたように言う。確かに、言われてみればそうだ。二つの同一個体の意識が合わさると言うならまだしも、僕とルーシアは全くの別個体だ。記憶が一つになったから一つになったと勘違いしていたが、やはり違う感性を持つ二つの意識が合わされば、混乱してどうなってしまうか分かったものではないだろう。


「ここ最近までは私、愛斗くんの意識の中で眠ってた感じだったんだけど、急に私としての意識が目覚めちゃって。理由は分からないんだけど。でも、愛斗くんの体が眠っている間はこうして会話できるみたいなんだ」


「ちょ、ちょっと待て。今ルーシアが使ってる言語って……」


「えへへ。懐かしいでしょ? 日本語」


「な、なんで……」


 ルーシアがはにかむような笑顔を向けてくるが、僕としてはルーシアが日本語を話すという事態に頭がこんがらがっている。いや、その前にルーシアと会話をしているこの状態を理解する事に僅かながら理解が遅れている。


「愛斗くん、私の記憶全部持ってるんでしょ? だから、私も愛斗くんの記憶全部持ってるの」


「あ、ああ、そういうことか……」


 確かに言われてみれば、僕がこの世界の言語を使えるのはルーシアの記憶が全て僕の記憶と合わさっているからだ。それに、魔法の使い方についても、ピクシルに習う前にルーシアの使用経験があったからこそあのゴブリン戦で《天獄炎龍》を使えたのだ。


 そして、少しずつこの状況を理解することができだした。簡単に言えば、元よりこのルーシアの中には僕とルーシアの二つの意識が存在し、今のところは僕の意識が主だって活動していた。その間ルーシアの意識は眠っていたが、最近になって僕と会話できるまで覚醒してきて、ルーシアの体が眠っている間、すなわちレム睡眠の間は僕との会話ができる、と言う事になるだろう。レム睡眠については説明は割愛する、ググってくれ。


「僕からルーシアに話しかけることはできないのか?」


「無理みたい。今は愛斗くんの意識が眠っている間しか私活動できないから。そこで無理やり愛斗くんの意識を起こしているって感じかな」


「僕休眠できてる⁉︎」


「大丈夫。起こすのは四回目のレム睡眠の時にするから」


「あ、ああ、そう……」


 睡眠の周期は確か一時間半に一周だから、およそ六時間はまともに寝ることができていると言う事になるか……前世じゃ睡眠時間一時間もよくあったし、大丈夫か。


「あ、あれ、なんか、意識が薄く……」


「もうそんな時間かあ……お目覚めの時間だね。また明日、話そうね」


「え、あ、ちょ……」



「待って!」


「うわっ、何?」


「え、あ、ごめ、寝ぼけてた……」


 どうやら、本当に目覚めたらしい。ボクが今いるのはミリアが働いている宿の一室で、部屋の掃除でもしているのか、箒を持ったミリアが部屋にいた。


 開いている木製の窓の隙間からは、赤い陽光が差し込んでいる。どうやら、今は夕方あたりらしかった。


 しかし、トレントとの戦闘を始めたのが昼間のはずだから、もしかしたら気を失って数時間しか経っていないのではないだろうか。戦闘自体は一時間程度だった気がする。


「……ねえ、リア。ボク、どのくらい寝てた?」


「ん? んー……三日くらい?」


「み、三日⁉︎」


 体を触ってみるが、特に違和感はなかった。そもそも、点滴の存在しないこの世界で三日も飲まず食わずで寝っぱなしなら、おそらくここまで意識ははっきりしていないだろう。その考えに至ったボクは、嘘をついたであろうミリアに向けて疑いの目を向けた。


「冗談。本当は一日だよ」


「それでも一日は寝てたんだ……」


「土塗れだったから、服は洗ってるし、お風呂にも入れておいたよ。あと、お風呂の際に豊胸マッサージもしておいたから。ここのおばさんに聞いたんだ」


「そ、そう言うのいいから! せ、戦闘の時に邪魔になるし!」


 慌てて胸の前で体を抱くようにして腕を交差させる。その時、不意に目覚める前のルーシアの姿が脳裏にチラついた。


「じゃあ、もう少しで夕飯だから、出来たら呼ぶね」


「あ、うん。待ってる」


 ミリアが部屋を出て、ボクは腕を下ろした。


 ──ボクとしては小さい方が好きだし、戦闘中に邪魔になるって言うのもあるけど……ルーシアは、大きくしたいのかな、胸


 ルーシアなら──そう考えることが今までなかったわけではない。だが、ここまで真剣になることはなかった気がする。そして、その考えが更にルーシアとボクが一つになっていなかった、という証拠になるような気もした。何故なら、もしボクとルーシアの意識が一つになっていれば、ボクがルーシアならば、なんて考えることはないはずだからだ。


「でも、なんで……急にルーシアが目覚めたのかな。これが、不吉な予兆とかじゃなかったらいいけど……」


 そんなネガティブな考えを頭を振って一度振り落とそうとした。しかし、そう簡単に振り落とせるわけもなかった。


 溜息を一つ吐いて、少し寝汗で濡れた服を着替えようとベッドから降り、何着分かの服が入っているタンスへと近寄り、手を伸ばした。

結局投稿安定してない……あと眠い。眠気除去法教えてください! カフェインと寝ると顔洗う以外で!

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