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救いを求め、与え

「ボクは、そうは思わない」


 ルーシアが繰り返した。そして、瞳を半分閉じて、優しい口調で続けた。


「幸せだ、不幸だって感じるのは、ボク達が人間だからなんだと思う。人間だから、他の人間がすることに嫌悪して、幸せを感じて、美しいと思って、最後は無くなってしまえって思うんじゃないかな。もし、他の生き物……例えば、そこら辺にいるウサギの魔獣が同じ事をしても、ボク達は何も感じないと思う。思ったとしても、ああ、何かしてるなあくらいじゃないかな。ボクは、この人だからこそ感じることが素晴らしいものだと思うんだ。例え人間が醜くて、存在することが悪なのだとしても……ボクはボクが人間である限り、人として生きている限りこの営みは素晴らしいものだと思い続けると思うんだ」


 ルーシアの言葉に、目の前の青年は何も言わずに聞いている。ルーシアは正直、すぐに反論されると思っていた。だが、もしかしたら違うのかもしれない。彼は、彼らは救いを求めているのかもしれない。今はただ感情のままに人を殺しているけど、人を殺さないで済む何かを探し求めているのかもしれない。


 その証拠か、トレントも先程まで木片を撒き散らしていたのに、今となっては動きが止まっていた。


「確かに、人の中には他人をモノや道具のように思っている人がいるかもしれない。自分が幸せであるための手段でしかないと思っているかもしれない。それでも、多くの人は人を愛し、人に愛され、それを幸せに思っているはずだ。あんたらだってそうなんだろう? 誰かを愛し、誰かに愛され、夢を追い求めていたから殺されたことに恨みを持っているんだろう? あんたらはもう死んで、その願いは叶えられないかもしれない。でも、あんたらのように何かを追い求める人は沢山いる。これまであんたらが殺した人だって、そう言った願いがあったかもしれない。だから、ボクはあんたらにこう言いたい」


 ルーシアはゆっくりと数百の魂が宿る大木へと近付いた。そして、指抜きのグローブを嵌めた手を、そのゴツゴツとした樹皮に当てた。


「今は眠って、残された人の幸せを祈って、あんたらの次の人生を幸せにするために待ってほし──」


『クソが……クソ貴族があああ────ッッ!』


 ルーシアはパッと手を離した。今、ほんの一瞬だったが頭の中に何かが、流れ込んできた気がした。


「……今あなたが見たのは、この木に宿る五百人の中の一人の、最期です」


 青年がルーシアに淡々とした声で説明した。ルーシアはただでさえ疲れ切り、破裂しそうな体を無理して動かしている。脳に至っては、ずっと酷使しっぱなしだ。青年には思っていることを言っているが、もし何かを言い間違えれば後戻りの出来ないことになるかもしれないため、ずっと回し続けていた。そのため、もう既に限界ギリギリだ。


 直接脳に流れ込んでくる、人の死の光景……脳にかかる負荷は、尋常ではないだろう。でも、ルーシアは知りたかった。この木に宿る人がどのように死に、どうしてここまでの恨みを持ったのか……そこに、この人達を幸せにする何かがあるような気がしたから。


『やめなさいルーシア! あんた、もう限界きてるでしょう⁉︎ これ以上無理したら死ぬわよ!』


「……死ぬのがボクだけなら、願ったり叶ったりだよ」


 ルーシアはもう一度木に右手を近付け、そして掌をピッタリと貼り付けた。その瞬間、脳にさまざまな光景が流れ込んできた。その光景は全て……あまりにも残酷だった。


 ルーシアは痛む頭に眉間にシワを寄せ、歯を食いしばり耐える。それでも、右手は木から離さない。


「ありもしない罪。理不尽なまでの税金。救いを求める家族に殺される……この木に宿る人達は、みんな貴族のせいで死んだ人達だ」


 青年の言葉が痛みの情報の隙間に入り込んできた。ルーシアは荒い息の中、掠れる声で、でもしっかりと通る声で訴えかけるように話を続けた。


「……ボクは、この世界を変えるために、ここに来た。人が苦しむものを、無くして……みんなが、幸せになれる世界に、したいと思って、今も頑張ってるんだ。まだまだ、道のりは遠いよ……でもね、何年かかっても……死ぬ直前になったとしても、ボクは諦めない。誰もが、死ぬときに幸せだったって、言えるようにしたい……苦しいことは、沢山あるかもしれない……今だって、すごく苦しいよ。君達の、苦しい最期をいくつも見て、心も、体も苦しいよ……でも、こんなことが起こらないために、ボクは戦う。それが、ボクの願いだから。あんたらが、こんな世界だったら生きたいって世界に、変えて見せるから……あんたらが、守りたい人を守れて、叶えたい夢を叶えられる世界に、してみせるから! だから、今は……生きていた頃、幸せだった思い出に、包まれて……あの世に行って欲しい。終わる時は、幸せでいて欲しいんだ。だから……」


 ルーシアがズルズルと膝を折って座り込んだ。小さな鼻から、血がすうっと伝う。それをコートで拭って、ルーシアは続けた。


「だから、後は……ボクに任せて、くれないかな……あんたらは、人の苦しみをなくすために、人を殺しているんだろう? ……なら、ボクが、幸せにするって方法で、人から苦しみを、無くすからさ……誰かを愛していた時を、誰かに愛されていた時を、夢を追い求めていた日々を思い出して……しあわせな気持ちで、今は旅立って、くれないかな」


 ルーシアの目からは既に光が失せている。脳はとっくに限界を迎え、さっきの鼻血もきっとそのせいで流れたのだろう。しかし、ルーシアにそんなことを考える余力はなかった。


 そんな時だった。誰の声か分からないが、後ろから「何だ、この光……」という声が聞こえてきたのだ。


『魂が、天に、還っていく……』


 これはピクシルの声だとなんとなく分かった。そして、小さな安心を感じていた。


 ルーシアの脳に流れ込む映像の中に、少しずつ幸せな光景が見え出した。幸せな家庭の光景、夢を追い求めて冒険をする姿など、それらはすごく、美しく見えた。光り輝いて見えた。


 そして、ルーシアの脳に新たなものが流れ込み出した。それは、いくつもの「ありがとう」という感謝の声だった。


「……ゴメンネ。ボク、ナニモ、デキナクテ」


 言葉になったかは分からない。ルーシアはそう言い残して、左へと体を傾けた。そして、受け身をとることもなく地面へと倒れ伏した。


「……私も、あなたを信じてみることにしましょう。私はこの国の四代前の国王……になるはずであった、シンサイド・スームド・ハレステナと申します。今この国は、我が弟の家系により成り立っているようです……どうか、我が愚弟の犯した罪を、あなたの手で正しき道へと戻してはもらえないでしょうか?」


 その声に、ルーシアは返答はできない。既に、体は動かなかった。しかし、その言葉はしっかりと聞いていた。


「あなたは、かの物語(、、、、)に出てくる姫のようなお方だ。きっと、世界を救ってくれるだろう……では、私はこれで、逝かせてもらいます」


 そして、青年の姿が消え、一つの光が空へと昇って行った。光に満ち溢れていたルーシアの周囲は、もう既にもとの暗がりに戻っていた。


 ──物語の、姫……なんだろう、それ……


 ルーシアの意識が、完全に途絶えた。

すんません、マジで書く気力が最近起きなくて……何日振り? 覚えてないな。もっとペース上げで書きたいけど、またテストがあって……

感想お待ちしています。今回でトレント戦(戦いだろうか?)が終わって、次からは新たな話へと入っていきます。

ここ最近、親戚が一度に亡くなってるので、ルーシアの言っていることは作者の気持ちの代弁とでも思ってくれていいですよ……

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