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したくない秘策

 トレントから距離をとったまま、数分が経過した。森に入る前にも行ったが、ここからの動きを再確認するためだ。


 セルガストを中心に確認が行われる。その間も森の中は幾度となく揺れ、トレントが街へと近付いているということが嫌でも分かった。


「……以上だ。反論や提案のある奴はいるか!」


 冒険者は誰も手を挙げない。もちろんだ。反論も提案もないからこうして黙ってついてきているのだから。そもそも、セルガストの言う案に賛同していなければ、ルーシアがここから消えろと言った時に去ったはずだ。


「よし……それじゃあ、ルーシア。頼んだぞ。お前が要だ」


「分かりました……何とか、成仏させます」


「危険そうだったらすぐに飛び出す。安心してくれ」


「頼りにしてるよ」


 セルガストとレイルに頷き掛け、ルーシアはゆっくりと歩いてトレントの前へと姿を見せた。大きく息を吸い込み、トレントに訴えかけるべく声を張り上げる。


「聞こえてるか! トレントの中にいる人達!」


 トレントの移動が止まり、嫌な空気が漂った。頭が痛くなり、一歩後退りそうになる。しかし、歯を食いしばり堪える。仁王立ちになり、もう一度息を吸い込む。


「ボクはルーシアだ! あんたらを成仏させるためにここに来た! 話し合いができるならそうしたい!」


 ニンゲン、コロス……


 脳を揺さぶられたかのようにそんな声が聞こえた。ルーシアを認知したのか、トレントから無数の声で同じ言葉を繰り返し聞こえてきた。しかしそれでも後退らない。


「話を聞い──」


 ルーシアは大きく右に跳んだ。二度三度と転がりながら、回転の勢いもそのままに立ち上がる。その直前、ルーシアが元いた場所にトレントの枝が振り下ろされていた。


 枝からトレントへと視線を戻したルーシアは、再び続ける。


「ボクがしたいのは話し合いだ! 殺し合いはしたくない! だから、聞いてくれ!」


 そして、再びごおおぉぉ……という上空から空気を裂く音が聞こえてきた。もう一度横に跳ぶべく膝を曲げるが、枝はルーシアを挟んで左右の地面を叩いた。直後、ルーシアの背後で斬り離された枝が落下してきた。


「続けろ! 枝は俺が斬る!」


 レイルだった。二本の剣を構えて、トレントの前に立つ。レイルの剣には魔力が向けられていて、その出所を辿るとそこにはレイルへと手を突き出したユリリーナの姿があった。つまり、魔力を剣に纏わせているのだ。


 ルーシアも《フレイムソード》といった、魔法を剣に纏わせることはしたことがあるが、魔力自体を纏わせたことはなかった。しかし、現象や物質へと変換された魔力よりも、魔力本来の方が効果があることもある。それが、武器に魔力を纏わせる、つまり現在ユリリーナとレイルが行なっているこれだ。


 魔力は世の理を書き換えることのできる物質、という話だが、物質に馴染ませることもできれば、魔力自体を実体として武器にすることもできる。レイルとユリリーナのそれは、魔力を剣に纏わせる後者の方法だ。前者の方法は、武器作成の際にしか行うことができないのだが、その方法で作られた武器は「魔力剣」や「魔法剣」などといった名前で呼ばれ、その武器の斬れ味や耐久度は尋常じゃなく高い。


 ──これじゃあレイルにターゲットが向く……でも、攻撃を躱しながらじゃ会話を続けることができない……言葉が途中で途切れてしまう。やっぱり、アレをするしかないのか……


 森の土の痩せ度合いや、トレントの周囲の木が枯れている現象から、ルーシアはトレントの動きを封じる方法を一つ思い付いていた。それとついでに、トレントの人への恨みも晴らせたら、と思っているが……


「……あと少しだけ、話しかけよう」


 大きく息を吸い込み、声を張り上げる。トレントが振り下ろした枝がルーシアの両サイドで地面を叩いた直後、ルーシアのよく通る声が森の中を駆け抜けた。


「あんたらがどうして死んだのか、どうして人を恨んでいるのかは知らない! でも、恨むってことはあんたらが死ぬ時に、愛する人が、守りたいものが、叶えたい夢があったからだろう⁉︎ なら、今あんたらがやっていることはあんたらがされたことと同じだ! 同じ思いをする人が増えても、意味がないだろう⁉︎」


 話しかける間も、レイルが斬り落としたトレントの枝がルーシアの周囲に落下してくる。レイルも狙ってしているのか、ルーシアが動く必要のない位置にばかり枝を落としているため、ルーシアは言葉を途切れさせる必要はない。


「あんたらは全てを失う苦しみを、痛みを知っているはずだ! なのになんでその思いをそのあんたらがさせるんだ! 人を殺すのはやめてくれ! 恨みや妬みから生まれるものなんて何もない! 失われる一方だ! 落ち着いて考えてくれ! あんたらが人間として生きてきた魂なら考えることができるだろう! 聞いてくれよ!」


 歯噛みする。声はやはり届いていないようだ。ルーシアの心に強い負荷がかかる。痛む頭、掴まれるように苦しい心臓、喉に嗚咽が込み上げてくる。苦しくて、目に涙が滲みそうになる。


 ──やっぱり、攻撃の意思がある限り無理なのか? あの方法しか、ないのか? ……やるしか、ないのか


 その方法は、すごく痛いだろう。すごく苦しいだろう。死んだ方がマシだと思えるかもしれない。でも、そうしないと他の人に、後ろでルーシアに何かがあった時のために構えている冒険者達にターゲットが行くかもしれない。


 ──……あの人達の苦しみは、こんなものじゃないはずだ。耐えて見せる、なんとしても……!


「レイル、下がって!」


「バカ言うな! お前、死ぬつもりか⁉︎」


「そのつもりはない! でも、こうしないといつまで経っても終わらない!」


「くっ……」


 レイルが振り下ろされる枝を斬り落とし、ルーシアより後ろにバックステップで下がった。


「何か考えがあるみたいだが、無理はするなよ!」


「分かってる」


 ──無理するな……ね。ごめんね、レイル。今からするのは、もしかしたら心が壊れるくらい、無理で無茶なこと


「ピクシル」


『おっかないこと思い付くわね。どうなっても知らないわよ? まあ、私もあなたに死なれちゃ困るから、最大限は助力するけど』


「ありがと。神経まではやらなくていい。だから、骨と肉が離れないよう、持続的に回復魔法、お願い」


『まかせなさい。あんたのお陰で、人体の構造とかだいぶ分かったから、問題ないわ』


 ピクシルがルーシアに魔力操作で姿を見せ、ルーシアの頭上に浮かぶ。瞳を閉じて両腕を横に開きぶつぶつと何かを呟いている。


「……ありがと」


 ルーシアは小さくピクシルに礼を言い、大きく息を吸った。標的であるレイルを見失ったトレントは今度は再びルーシアへとタゲを移し、攻撃をせんとバキバキ鳴らしながら枝を動かす。ルーシアの目にはトレントの周囲の空気中の魔力が大きく動き、そして──周囲の木が少しずつ痩せているのも視認していた。


「ボクはルーシア! ランクのない新人冒険者! 逃げも隠れもしない、殺すなら殺してみろ! それであんたらの気が済むなら、いくらでも好きにするがいいさ! もう一度言う、ボクは逃げない! 攻撃も躱さないし、防御もしない、すべて受けてやる! さあ、人間であるボクをタコ殴りにして満足しろ! そしてとっとと成仏しやがれ!」


 ──ごめんよ、ルーシア……ここで、もし、死んだら、ボクは君の命を勝手に使ってしまうことになる……こんなことしかできない弱いボクを、どうか許して欲しい


 枝の形が変動する音か、バキバキという音と空気を切り裂くブオオォォ……という音が耳うるさいほどに聞こえた。でも、ルーシアは動かない。


 トレントの枝が地面を叩き、地面を大きく揺らし──血が舞った。

やばい、投稿がすげえ遅い……待ってる方、すみません……あの、内容はちゃんと頭に入ってるので、投稿が止まるなんてことはないです! この作品、なんとか最後まで書きたいので! めちゃくちゃ長いけど! ラノベだと三十巻超えそうだけど! 頑張りたいので! お願いします見捨てないでええ!

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