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木が枯れる

「枯れているって……トレントに押し倒されたんじゃないのか?」


「ええと……トレントが通ったと思われる道の上の木は、全て押し潰されています。でも、トレントの幹の太さでは届かない位置にある木も、葉を全て落として痩せ細っているんです」


 魔術師の報告を聞いて、セルガストが少し考え込む。その間に、ルーシアは人知れず索敵魔法を使用して本当に木が枯れているのか、確認をしていた。


「ギルマス。その人の言っていること、事実です。今ボクも索敵魔法で見たんですけど、トレントの通った道から左右に幹三倍分くらいの範囲にある木は、全部枯れてます」


「……確かお前の索敵魔法は魔力振動だったな。なら、確実性は高いか……一体、何故そんなことになっているんだ」


「迷っていても時間の無駄ですよ、セルガストさん。この中じゃルーシア以上に頭の回る奴はいないだろうから、難しい推察は彼女に任せた方がいい」


「そうだな……分かった。今からは森に入る! 用のあるやつはここで済ませておけよ!」


 セルガストの声が響いた。何人かの冒険者が集団から外れ、しばらくすると戻ってきていた。その間、ルーシアは木が枯れている現象について熟考していた。そして、一つの結論を導き出していた。


「全員集まったな! 行くぞ!」


 セルガストの声で、一行は森の中へと入って行った。


「……ん?」


「どうかしたか?」


 ルーシアが上を見上げて首を傾げていると、レイルがそれを疑問に思ったか話しかけてきた。


「いや……ボクが最後にこの森に入ったのが、大体四、五ヶ月くらい前なんだけどね。前より、明るいんだよ」


「明るいって……でも、この時期にしては葉の数が少ない気もするな。俺らが通った北の森は、もっと暗かったはずだし。どう思う、ユリナ?」


「……この土、ダメな土だよ」


「……食うのかよ」


 ユリリーナが土を口に含んで言い、レイルがそれにツッコむ。確かに、日本じゃ農家やそれに類する関係者の中には、土を口に含んで味で良し悪しが分かる、という人もいるらしい。しかし、ユリリーナがその判断ができるとは思いもしていなかった。


「……私、味覚には自信があるの!」


 苦笑いをするルーシアに向けてこの世界では自慢の意味を持つグッドサインをするユリリーナの姿は、実に滑稽だった。


「……こいつ、美食家だから。味の評価はすげー的確なんだけど、たまに食いたくもないような見た目のものまで食うから、その時は生温かい目で見てやってくれ」


「温かい目と言わない辺り、少しめんどくさがっているのがよーく分かるよ」


 ──でも、これでボクの仮定の信憑性が高まる。……そういや、あの時もアニルドが森の中の明るさが違っているって言ってたっけ。それでトレントに気付くことができた……ここの木は基本的に年中葉が茂ってるもんな


 勿論夏と冬で多少の差はあるが、流石異世界の樹木と言うべきか、冬場になって木の葉をつけていても生きたままなのだ。落葉樹は、冬場の乾燥した空気で水分を持っていかれたり、凍ってしまわないように葉を落とすらしいのだが、この森の木はそんなの関係ねえらしい。実にたくましい。


 おそらく、この世界の多くの生物と同じく、進化の過程に魔力が関わっているのだろうが、ここまでくると魔力とはどれだけの影響力があるのか末恐ろしく思えてくる。


 ──ただ、こうも森の中の土の栄養状態が悪いってことは、魔力だけじゃどうにもならないってことだよな……動きを封じる可能性が出てきたぞ


 しかし、それを行うには多大な犠牲が必要になる可能性もあった。そして、その犠牲はルーシア自身かもしれない。


 森の奥に進むにつれ、最初は木漏れ日と表現しても無理はなかった森の中の明かりは、遂には明かりの方が影よりも面積を増すようになりだし、森の中にいるとは思えなくなってきた。


 森に入ったばかりの頃には何度か魔物と遭遇することもあったが、二十分程森の中を進み続けた頃にはその気配は全く残っていなかった。ネペントはルーシアが根こそぎ倒したので元より現在、ここにはいないが、それ以外の植物型の魔物や動物型の魔物まで見かけなくなっていた。もしかしたら、トレントの発する負の魔力とでも言うべきあの空気感が、その他の魔物にまで影響を与えているのかもしれない。


 その時だった。地面が急に揺れだし、ルーシアはすぐに「屈んで頭を守って!」と声を張り上げていた。その声を聞いた冒険者達は、各々で腕で頭を庇ったり、大盾使いの盾の下に入れてもらったりと様々な方法で身を守った。数秒すると揺れは収まったが、周囲には動揺が広まっていた。


「……今のはなんだ?」


 レイルは近付いた時に体験していないのか、この揺れについて微かに動揺を見せながらも冷静にルーシアに聞いてきた。


「トレントが移動したんだよ。あの巨体だからね、少し根を動かしただけでそれなりに揺れるんだよ」


「……確かにでかいのは見たから分かるが……あとどのくらいなんだ?」


「……あの十五本先の木を越えたら、トレントがいる」


 索敵魔法で即座にトレントの位置を確認し、レイルに伝えると同時にセルガストにも聞こえるように言う。レイルとルーシアの会話に耳を傾けていたセルガストは、ルーシアの言葉に反応してすぐに指示を出した。


「トレントは居場所から木三本離れていれば攻撃を仕掛けてこないらしい! ルーシアに何かあるまで、全員そこから動くな! レイルはルーシアの護衛を最前線で頼んでいいか? この中では実力はお前が一番だ」


「分かった。ユリナ、準備はいいな?」


「魔力充分。いつでもオーケーだよ!」


「よし。ルーシア、お前の準備は出来てるのか?」


「……」


 レイルの呼び掛けに、ルーシアは反応しなかった。それに疑問と不安を覚えたレイルは、もう一度ルーシアに、耳元で少し大声にして呼び掛けた。


「ルーシア! お前の準備は出来たのか!」


「うわあ⁉︎ ……耳元で叫ばないでよ。うん、大丈夫。ボクは元から万端だよ」


「嘘はよくないな。手が震えているぞ」


「む、武者震いだよ!」


 否である。トレントと対峙するのは、これで恐らく三度目だがやはり初めてのあの痛みを、どうしても思い出してしまっていた。さっきから両手は震え、無意識に左足に体重をかけないように立っていた。


 ──今になって……覚悟決めてきただろ、ボク! 今更逃げることなんてできないんだ……根性論は嫌いだけど、今はそんなこと言ってられないだろ! 止まれ……止まれよ!


 コートのポケットに手を突っ込み、強く握った。しかし、それでも震えは止まらなかった。


 すると、コートの布越しに二つの手がルーシアの両手を包んだ。右手は小さな両手で優しく、左手は少し硬くて大きな右手で力強く。


「一人で抱え込むな。俺らが守ってやるから、安心しろ」


「私達、ルーシアより強いんだからね? これでも凶獣殺しなんて呼ばれてるんだよ、一部の地域では」


「……呼ばれたくないな、そんな二つ名……ごめん、落ち着いた。今度こそやれる。もう、怖くないよ」


 ──街のみんなの思いも、ここにいる人達の信頼も……全部まとめてボクが請け負ってやる!


 離れた手の温もりは、まだ残っている。チルニアから買った手袋がルーシアを包んでいる。ミリアに髪を切ってもらって見やすくなった視界を、まっすぐ前に向ける。アルミリアやアニルドにもらった激励の言葉を思い出す。


 ──ボクの今の二つ名は《火炎大蛇》だ……心の炎、燃やしてやる!

なんか、最近投稿全然してなくてすみません……話は考えてるんですけど、書く気力が起きないんです……眠くて頭痛くて……頑張ります

次からは遂にトレントとの戦いが始まります。さあ、語彙力の勝負始まるぞ!

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