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スローライフ 観察日記

スローライフと付いているものは、本編とは基本的に関係ない日常パートです。なるべく沿うように書きますが、多少の食い違いがあるかもしれません。

 男もすなる日記というものを、女もしてみむとてするなり──と、土佐日記の冒頭を入れてみた。理由は、今日からボクは日記をつけることにしたからだ。


 ボクが異世界にて覚醒して──ついでに、冒険者学園に入学してから二ヶ月が経過した。この世界にも梅雨と似たようなものがあるらしく、ここ最近では雨がほぼ毎日のように降っている。


 ルーシアの体にも随分と慣れ、最近ではルームメイトと一緒にお風呂に入ることも増えた。まあ、まだ直視しないよう気を付けているが。


 早朝特訓も続いていて、筋肉痛が酷くない限りは雨が降っていても毎日続けている。魔法の特訓も同様にだ。


 基本属性については既にほぼ完全に取得しているが、やはりイメージのしにくい光や闇といった付与属性、そして時空魔法については、まだまだ改善点が沢山ある。でも、前者に関してはそれなりに使えるようになった。


 とまあ、近況報告はこの辺にしよう。


 実を言うと、最近一人だけ気になる人物がいるのだ。その人物の名は、アニルド・クスカ。ボクのクラスメイトで、一番左の一番前の席に座っているちょっと怖めの少年だ。


 どうして気になっているか、というと、本来貴族の男子というものは、位の高い女子と関係を作るために、アルミリアのような中級以上の貴族の女子に話しかけることが多い。実際、ボクのクラスでも(最初こそ)男子はアルミリアにばかり話しかけていた。


 ただ、そのアニルドは他の男子とは違い、アルミリアに意識こそ向いているものの、それは政略や恋慕といったものではなく、ライバルを見るかのように鋭い視線だった。それこそ、アルミリアの動きを観察するかの如く、だ。


 その理由は今のところ分からない。お互い貴族ということもあり、やはり過去になんらかの関わりがあったのだろうか。


 勿論、この世界に来たばかりで何も分からないボクは、貴族の慣習など全く知らない。例え地球の中世と同じようなものだとしても、全く同じではないだろう。何せ、魔法なんてものがあるのだから。


 というわけで、二人の関係を探るべく、ボクはアニルドを観察することにした。出来れば観察日記として記したかったのだが、何分紙がバカ高いので、とりあえずゴブリンの討伐報酬で貰った金で、材木屋で買った板に書いていくことにする。



 一日目。朝。


 いつも通り体力作りをしていた。この日は三日連続で雨が降り続いていて、地面が本当に泥濘ぬかるんでいて走りにくかった。


 お陰で、一度盛大に転んでしまった。しかも、それがアニルドの部屋の目の前だったのだ。音に気付いたか、アニルドが窓を開けてボクを見てきたものだから、ちょっと焦った。というか、恥ずかしかった。


 かなり寝ぼけ眼だったので、恐らく寝起きだったのだろう。時刻は六時半頃だったから、アニルドの目覚めは六時半としておく。今後、確定要素が揃い次第正確な時間を割り出そう。


 その日のアニルドは、授業こそ真面目に受けていたが、休み時間には席から一歩も動かず(流石にトイレには行っていた)、アルミリアを睨み続けていた。やはり、なにか恨みでもあるのだろうか。


 ただ、アニルドの観察をしていたところ、最近のいつもの如く、魔法の使えるクラスメイト達が集ってきたものだから、その後はあまりデータが取れなかった。人気者は辛いぜ、クソッタレ。


 二日目。今日は休日だ。


 アニルドは外出もせず、ずっと寮にいた。ただ、雨こそ降っていなかったものの、泥濘んだ足場も気にせずに剣を振るっていた。結構努力家なのかもしれない。


 ただ、筋力が心許ないように思った。剣を振るフォームは綺麗だが、切り返しが遅く体幹もかなりブレていた。あれでは、簡単に弾かれて負けてしまうだろう。


 そういえば、アルミリアも魔法が使えなくて剣士志望だったな。もしかして、そういう方面の関係なのだろうか。例えば、ライバルとか。貴族間の交流で、剣術大会みたいなものでもあるのか?


 七日目。日記を始めて一週間だ。今のところ確定しているのは、平日のアニルドの起床時間は六時半、隙あらばアルミリアを見ているのでやはりなんらかの過去がある。そして、意外と努力家。


 授業も終わった放課後、今日は上手く質問組を振り払えたので、自室でアルミリアとお話をする機会を設けることが出来た。というわけで、アニルドとの過去を聞いてみた。


「アルミリアさんって、アニルドさんと何か因縁でもあるんですか?」


「い、因縁ですか? ないと思いますが……でも、領内に住んでるということもあって、貴族としての交流は何度かありますよ。しかしなぜ、そのようなことを聞くのですか? あの方にただならぬ思いでも抱きました?」


「ないですないです。ボク、そういうのあまり興味ないので」


 出来ることなら、可愛い女の子が相手がいい。いや今はそんなことどうでもよくて。


 やはり、貴族としての交流はあったようだ。恐らく、大半がお食事会とかそんなものだろうが。


「どんなことするんですか? 交流って」


「そうですね。領民の方々にお金が回るよう、領内産の食料でちょっとしたお食事会が多いですね。後は……あ、ゲーム大会なんかもありましたよ! これが中々に白熱するんです。カードや盤上のものなど様々なものがあって、得意なものを選んでチーム戦をするのですが、いつも決勝がフェルメウス家とクスカ家で行われて、代表のお父様とクスカ家の当主様で、接戦が行われるのです! そういえば、何度かアニルドさんと対戦したこともありましたね」


 ……いや、流石にゲームで負けて恨んでるってことはないだろう。ないとも言い切れないが、ないと思いたい。


 いつも冷静沈着なアルミリアが、ここまで楽しそうに話すんだ。きっと、凄く楽しいのだろう。……ゲーム大会、ボクも一度でいいからやってみたいな。


 って、ぼっちをここで出す必要はないんだよ! しかし、アルミリアの話ではゲーム大会が一番濃厚そうではある。他にもないのだろうか。


「あっ。すみません、お友達にお食事に誘われていたの、思い出しました。お話は、またの機会にお願いします」


「そうですか。分かりました、またの機会に」


 残念ながら、時間切れだった。あまり多くは聞けなかったが……というか、本当に十分程しか時間をとれなかったが、それでもアルミリアとアニルドの間に関わりがあったということは分かった。収穫はゼロではなかっただろう。


 アルミリアが部屋を出て行った後は、ちょっと部屋でのんびりした後、チルニアとパミーと一緒に夕飯を食べて終わった。アニルドは見かけなかったのだが、何か他の用事でもあったのだろうか。


 ……なんやかんやで、日記を続けて数ヶ月。一時観察をする余裕がなくなったこともあったが、それでもかなりの期間、観察を続けた。


 実技の授業が始まり、アニルドのアルミリアを見る視線が変わったのは、一目で分かった。そして、ボクとの試合でアルミリアがボロ負けして、しばらく、アニルドの表情が暗くなっていたのも、だ。


 結論から言おう。ボクの推測でしかないが、アニルドは、アルミリアの強さに惚れ込んでいたのだろう。貴族間で、なんらかの剣術大会みたいなのがあって、そこでアルミリアの剣技を見た。もしくは負けた。


 それ以来、アルミリアの動きを観察して、自分の強さに繋げようとしていた。


 ただ、ボクにアルミリアが負けたことで、自分の中の最強が揺らいでしまい、これまでの意味を見失いかけていたのだろう。そのせいで、しばらくの間上の空だった。


 というわけで、アニルドの観察日記は一旦終了することにした。板の枚数が凄いことになったから、どうにかしなければ。

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