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約束

 昨夜も過ごした空き地へと移動し、同じように準備をした後。周囲の安全を確認してくる、と適当に理由をつけて、一旦一人になった。本当なら索敵で常に安全は確認しているので、理由としてはめちゃくちゃ弱いのだが。


 ただ、チルニアは兎も角、他のメンバーも了承してくれたので、ありがたく一人にならせてもらった。


 一人になったのには、勿論理由がある。トイレ?違う違う、そんなちゃちなもんじゃないよ。いや、大事だけどさ、トイレも。


 その理由は、ピクシルと話がしたかったからだ。思念で会話してもいいのだが、ピクシルと会話しながら周りに怪しまれないよう気を配る、などと器用なことは、出来なくもないが無駄に疲れる。そういうわけで、こうして一人になった。


「ピクシル、ちょっといい?」


『はいはい、なんですか』


「ピクシルが敬語とは、珍しいね」


『別に、意図はないわよ。あんたもたまにするじゃない』


「そうだね」


 軽口はここでやめにして、表情を真剣なものに変える。ピクシルも、表情故か思考を読み取った故かは分からないが、一応話を聞く姿勢としてボクの肩に座る。会話をする時はこの状態が多いので、これがボク達の会話スタイルだ。多分。


「今夜、皆に黙って行こうと思う」


『本当にいいの? あのアニルドって子が警戒してるわよ。もしかしたら、あんたを追っかけて来るかも』


「うげ、警戒されてんのか。それは参ったな……」


 などと言うが、勿論想定はしていた。このクエストの途中、会話の数はアニルドとのものが一番多かっただろう。それだけ話していれば、アニルドもボクの心情を多少なり読み取っているかもしれない。それに、行くかもしれないという意志は、既にアニルドには言ってある。


 昨日もあの様子だったし、もしかしたら今夜もアニルドは遅くまで起きているだろう。そうなれば、誰にも気付かれずに、とはいかないかもしれない。


「だとしても、ボクは行くつもりだよ。ピクシルにも手伝って欲しい。……まあ、人間のボクですら苦しさを感じる場所だから、無理にとは言わないけど」


『はあ……あんたの自己犠牲も、随分と度が過ぎてるわね。いいわよ、これでも六千年生きてるもの。あのくらいなら、精神に干渉されることもないわ。手伝ってあげる』


「ありがとう! 助かるよ」


『それで、行く目的は何?』


「今のところ、二つある。一つは、冒険者の証の回収。あれがどんなものかは詳しくは知らないけど、多分、一つはあった方がいいと思う。もう一つは、行動パターンの解析。前回は夕方前──大雑把おおざっぱに昼と区分しよう──に行ったけど、その時は活発に活動していた。だから、今日は夜に行ってどう変化するのか見ておきたい」


 もし夜の活動が昼より穏やかであれば、トレントと対峙たいじするのは夜にするべきだ、とギルドに報告ができる。死者を一人でも減らすのなら、必要な情報だろう。


 それに、人と見ても木と見ても、どの道夜はあまり活動的ではないと思える。人としては夜は基本的に睡眠をしている時間だし、木としては夜は光合成がほとんど出来ないから栄養が少ない。だが、もしかしたら魔力で補完出来るかもしれないから、正直望み薄ではある。それに、人間として見ていいものなのかも微妙だ。


 ただ、情報は多いに越したことはない。第二次世界大戦で、日本は情報戦で負けたと言っても過言ではないくらい、情報というものは戦いにおいて大きな存在を持っている。


『じゃあ、私は証回収を手伝えばいいのね』


「そうだね。ボクもやるにはやるけど、多分ピクシルの方が活躍出来ると思う」


『はいはい、分かったわよ。ここであんたに死なれても困るから、手伝ってあげるわ』


「ありがと」


 ピクシルからのヘルプは得られた。あとは、どう今夜そこに向かうかだが。


「アニルドをどうするか……」


 魔法で麻酔を作って眠らせるのもいいが、後で本人に疑われてはこちらの立つ瀬がない。やはり、説得するのが──効率は悪いが──一番いいだろう。


 それに、朝皆が起きる前に戻らなければ、他のメンバーからも糾弾されかねない。一人で勝手に行動して、命まで落としかねないことをしようとしているのだ。文句を言われても無理はない。


「……これは、その時に何とかするか」


 近くにドロウスの反応がある。考え事を一旦取り止めにして、そいつを倒しに行くことにした。


 移動を含め、五分で討伐し終えて、空き地へと戻った。皆、もうクエストがほぼ終わったものと思っているのか、討伐中に比べて少し空気が緩く感じた。気を緩めるのはどうかと思うが、この辺じゃ命の危険がある魔物などそういないし、このパーティーなら何とかなるだろうし、少しなら許すとしよう。ボクが警戒しておけばいいわけだし。


「これから、どうしますか?ドロウスの討伐に向かってもいいかもしれませんが、恐らくクエストとしては既にクリアと考えてもいいかと思いますが」


 アルミリアが戻ってきたボクに問い掛ける。アニルド以外は、敷き布の上で各々《おのおの》楽な姿勢で座っていた。アニルドはやはり狭い空間でこの輪に入るのははばかられたのか、少し離れた木にもたれかかっていた。腕を組んで体重を預けている様は、あたかも中二病がカッコつけてるみたいだ。その概念があるのならばからかったのに、惜しいものだ。


「終わりでもいいけど、まだ日も高いからね。キャンプ……じゃなくて、野営の準備も出来ちゃったし、今すぐにやらなきゃってことはないと思う。ボクとしては──」


「神樹に行きたい──なんて、言わないだろうな」


 アニルドが強い口調で聞いてくる。やはりボクが神樹に行かないか、警戒しているのだろう。一筋縄ではいかなさそうだ。


「言わないよ。皆を危険に巻き込むつもりは無い」


「……そうか」


今の言葉をどう受け取ったのか、それはボクには分からないが、一旦は納得してくれたようだ。


 今の問答で少し空気が重くなってしまった。しかし、仕方のないことだろう。このパーティー内では、神樹のことは言ってしまえば地雷のようなものだ。ボクとアニルド、そしてチルニアにおいて、神樹は今、重く伸し掛るおもりと言っていいだろう。


 空気を切り替えるため、一つ提案してみることにした。


「明日には学園に戻るし、食材はいっぱい残ってるから、今日はパーッと豪華に行こうよ! ボクが、腕によりをかけて作っちゃうよ」


「それは楽しみですね。ルーシアさんの作る料理は、いつ食べても美味しいものばかりですから。チルニアさんも、楽しみましょう」


 ボクの空気を替えようとしている意図を汲んだのか、アルミリアがそうチルニアに話し掛ける。チルニアも、笑顔を浮かべてはいと返事をしたが、その笑顔にはかげりがどうしても見えてしまった。


「俺も手伝う。お前はいつも動きっぱなしだし、今も索敵を続けているんだろう? 料理なら多少の心得はあるから、いくつかは作ろう」


「それは楽しみだ」


「では、私達も何か作りませんか?このような場所での料理など、学園を卒業してしまえば中々経験出来ませんし」


 クスカアルミリアの提案に、チルニアとパミーが頷いた。それもそうか。旅に出るつもりでいるボクやアニルドと違って、この三人はあくまで護身や魔法の技術向上のために入学しただけだ。冒険者のようなことが出来るのも、今のうちだけだろう。


 だとすれば、何かこっちじゃ滅多に食べられないものを作ってみたいな。こういう時はカレーなんだけど、流石にスパイスなしじゃ無理だから、何作るか考えなければ。



「……どうして、ルーシアさんの作るものは、どれもこれも美味しいのですか? このステーキも」


「どうして、と言われても……ボクは単に、普通に調理しただけだから」


 ボクの作ったステーキは、どうやらアルミリアには好評のようだ。いや、周りの様子から見ても、皆から好評らしい。一口食べてみるが、思っていたよりも美味い。


 ボクの作ったものは、ウルフ肉のステーキだ。でも、ただ焼くだけでは味気ないので、香辛料や塩が街中ではそうそうとれないこともあり、香草代わりになりそうな薬草を使って焼いた。


 ウルフ肉は本来、かなり独特な臭いがあり、肉質も固くて脂身が少ないため、お世辞にも美味しいとは言えない。でも、香草のお陰で臭いと味は補えているし、肉の筋を切るように入れた切れ込みと、数分間叩き続けたお陰で硬さも大した問題ではない。


「この味付け、何を使ったのですか? この街の香辛料でも、塩でもなさそうですし……」


「その辺の草」


 そう答えた瞬間、全員の視線が一斉にボクへと向いた。その目は、「なんてもん食わせてんだ」とでも言いたげな鋭さを伴っていて、一瞬死すらも覚悟する程だった。


「冗談だよ、冗談……いや、その辺の草なのは確かだけど。ほら、授業で薬草習ったでしょ? その中から、味付けに使えそうなものをその辺で探して採ったんだよ。毒はないから安心して」


「お、驚かさないでください……」


「ごめんごめん」


 いやー、怖い怖い。一周回って草生えてくるよ。マジワロタ。


「しかしまあ、アニルドも予想以上に料理の腕いいね。この野菜とキノコの炒め物、この唐辛子のアクセントもあって凄く美味いよ」


「トーガラシ……? これはヒーテリスだ。変な名前で呼ぶな」


「……すみません」


 アニルドが作ったのは、所謂いわゆる野菜炒めだ。材料は街で買った野菜、その辺で拾った安全なキノコ、そして唐辛子もといヒーテリス。


 調理過程を見ていると、炒める前に少量の水でキノコから出汁をとり、それを味付けに使っているらしい。大雑把なようで、ちゃんと舌に馴染むのだから、案外繊細に作っている。


「……ルーシアさんの次に美味しいのが、アニルドさんのものというのは、少し癪に障ります」


「はっ。貴族の御令嬢は、舌が肥えてるだけで料理の腕はイマイチなようだな。まあどうせ、嫁いだ後も、その家の料理人が作ったものばかり食べるんだろうから、そんな腕前必要ないか」


「何おう!」


「だって、さっきもお前、調理はほとんどそこの二人に任せてたしな。包丁もろくに使えない奴が料理なんか出来ねえよ」


「ぐぅ……っ!」


 煽るねぇ。優位に立てることが見つかった瞬間これだ。ボク達は苦笑いする他に、何が出来るだろうか。


 でも、実際アニルドの料理の腕はいいし、アルミリアの料理姿は危険すら感じるものがあった。


 包丁を持ってはプルプル震えて、いつ手を傷付けるか分かったものではなかったし、味付けはどうすればいいかとずっと悩み続けて、鍋からお湯が溢れだそうとしていたし。


 ちなみに、ボクとアニルド以外の三人は、簡単なスープを作った。特に難しい、というものでもなく、野菜とアニルドの野菜炒めの残りのキノコ、ボクのステーキの残りの肉を使って作ったものだ。塩がないため、やはり味は薄い。せめて、もう少し出汁とかをとった方がいいと思った。


「……だって、料理なんてほとんどしたことないですし、皆さんのお口に入ると思うと、下手なものは作れないと思って、緊張してしまうのです」


 ……なんだろう。キュンときた。


 あれか、ギャップ萌えというやつだ。アルミリアには甘えることが多いので、こうしてアルミリアが弱音を吐くのが、どうしても新鮮に感じた。あと、言い方がダメだよ、そんな唇を尖らせて上目遣いに言うなんて。ほら、アニルドですら固まってるじゃないか。


「初心者はみんなそんなもんだよ。料理は場数を踏まないと、上達しないから、練習を重ねたら上手くなると思うよ」


「……はい。実家でも、お手伝いさせてもらい、練習を重ねようと思います」


「……でも、レイピアはあんなに使えるのに、包丁はあそこまで使えないとはねえ」


「うっ……」


「ぬああ、ごめん! そんなつもりで言ってないから!」


 アニルドに負けて煽られたのがそんなにも悔しかったのか、アルミリアの顔は悔しさで歪み、瞳の奥にはいつか見返してやろうという気迫が宿っていた。



 夜になり、皆寝静まった頃。ボクは、計画を実行しようとしていた。


 こっそりと眠りの輪から抜け出し──今日もチルニアに抱き着かれて、ちょっと焦った──、装備を整える。


「おい」


 気配は既に感じていた。魔力振動でも、近くにいて眠っていないことも分かっていた。……やはり、アニルドはボクを止めに来た。


「今日も眠れないんだね。子守唄でも歌ってあげようか?」


「俺が寝た後に行くだろ、それだと」


「そうかもね……ここだと皆を起こしちゃう。少し離れよう」


 アニルドにとっては皆が起きた方が都合はいいのだろうが、ボクの提案に賛成してくれた。


 皆から十メートルほど距離をとり、アニルドと向かい合う。その腰には剣が鞘ごと装備されていて、もしかしたら打ち合いになることも辞さないのかもしれない。


「トレントのところに行くつもりか」


「うん。言ったでしょ、ボクはやれることは全部やりたいって。脚はもう治った。もう戦える。だから、ボクは行く」


「だとしてもだ。お前は一度、トレントに脚を切り落とされかけてる。例え動けるようになっていても、トレントに対して恐怖があるはずだ!」


「ああ、そうだね。アニルドの言っていることは、昨日から全部正論だ。ボクには、反論の余地もないよ……でも、何かを守るためには、時に正論すら捻じ伏せなきゃならない時がある。無茶無理無謀と勇気は違うってのは分かってるけど、無茶無理無謀をしなきゃならない時もある。人生、いつも安全ではいられない」


 トレントに対する恐怖も、動けなくなる可能性も、消えたわけではない。むしろ、ボクの内側で虎視眈々と機会を狙っている可能性の方が高いだろう。


 アニルドもきっと、一日の中でボクを止めるための材料を沢山探したのだろう。しかし、例えアニルドが本気で止めようとしても、ボクだって本気で行こうとしている。論理が崩壊していようと、アニルドが納得しなかろうと、ボクは本気だ。引き下がってしまえば、もう足は前に出ないような気がするから。


「アニルド……君は、どうしてそこまでしてボクを止める? 剣を帯びているのは、強行手段に出てでもボクを止める、って意味なんだよね?」


「……ああ、俺は戦ってでもお前を止める。それに、昨日言っただろ。俺は、そばにいる奴がいなくなるのは嫌だって」


「それだけの理由でここまで出来るとしたら、君は余程のお人好しか、エゴの強い人だ。戦ってもアニルドの勝つ余地は微塵みじんもない。ボクが無駄に疲れて、死ぬ確率を上げるだけだ」


「やってみないと分からないだろ。俺だって強くなった。絶対に負けるなんて言いきれないはずだ」


 いや、恐らくボクが勝つだろう。アニルド一人の力は、正直高が知れている。アルミリアと同時に来られたら少し厳しいが、リミッター解除すら出来ないアニルドがボクに勝つなど、万に一つも有り得ない。


 一つ、溜息を吐く。そのままアニルドの横を通るように歩き出す。


「おい待て!」


 アニルドが手を伸ばしてくるが、ボクはそれが腕を掴む前に、素早く動いた。腰に吊るした剣を抜き放ち、アニルドの首筋に宛てがう。少しでも動かせば、アニルドの首から血が流れるのは、確かだろう。


「あまり執拗しつこいいと少し手荒に眠ってもらうよ」


 アニルドが伸ばしかけた手を下ろす。そのまま、進むも退くもせずに、その場で立ち止まる。諦めたのかと思い、剣を鞘に静かに仕舞う。


「……俺、は」


「?」


 アニルドの喉から、掠れるような声が僅かに届いた。歯を強く食いしばり、何か逡巡しゅんじゅんしているようにも思える。そして、何か決意したのか、口が、震える唇が、音を成した。


「俺は、お前に死んでほしくない。お前に、いなくなってほしくないんだよ……」


「それはもう、聞いたよ」


「お前が、初めてだったんだ。俺を見てくれたのを……俺を、アニルド・クスカという貴族じゃなくて、アニルドという一人の人間として見てくれたのを。だから、俺は……俺は、お前のことが、好きだ! ああ好きさ、大好きだ!」


「は? え、なんて……?」


 予想外の言葉が耳に届き、つい聞き返してしまう。いや、何言ったのかは分かるよ。でも、うん?ボクが「好き」だって?


「だから、俺はお前のことが好きだ!」


 違いない。「好き」と言っている。いやいやありえん。ボクのどこに好きになる要素があると言うのだね。ボクがアニルドをアニルドとして、初めて見た?そりゃ、アニルドは一人の友達だもん、仲間だもん、弟子だもん。一人の人間として見るに決まってるさ。


 確かに、ボクは……というか、ルーシアは可愛いよ。顔は超一級だし、身長小さいくせに強いとかギャップ萌えだし。それに、アニルドに対して命を救ったり、妹を助けたり、師匠として鍛えたりと色々してきたけどさ……。


 あれ、おかしいな。好かれる要素がないって証明しようとしたのに、好かれる要素が多いぞ。うん、こんだけ献身的な可愛い女の子なんて、大抵の男子が惚れるな。ボクでも惚れるわ。


「……あーもう! 好きとか言われたら困るだろ! ボクだって好きな人を守りたいって気持ちは分かるさ、すっごく分かるよ! アニルドの今までの反応とか、ボクを支えたいって言ってくれたこととか、もう全部繋がった!」


くっそやべえ、なんで男子に告白されてドキドキしてんだ。ボクは元男子だ、落ち着け、我がガラスのハートよ! 3.141592653598793……ダメだ! ありをりはべりいますがり、ありをりはべりいますがり……無理! 水兵リーベー僕の船、七曲がりシップスクラークか……うん、流石に落ち着こう。お巫山戯ふざけはよそう。


「はあ……大胆な告白、ありがとう。好きと言われて嫌な気持ちにはならないよ……」


「ぅ……ぁ……」


暗くて見えないが、恐らくアニルドの顔は真っ赤だろう。ボクも落ち着いたとはいえ、まだほんのり顔が熱い。


「なら、一つ、約束をしよう。ボクは今からトレントのところに向かう。でも、必ず朝には帰ってくる……そうだな。もし帰ってきたら、お互い余裕のある日に、一日ボクを好きにしていい」


「な、何言って……」


「大丈夫。ボクは強い。それにね、これは内緒なんだけど……ボクには守り神がいるんだよ」


「守り神……?」


「そ、小さな小さな守り神。魔法万能で、ちょっと意地っ張りな守り神がいる。だから、安心して」


 勿論、ピクシルのことである。多分、横でなんか変な顔でもしていることだろう。正体ばらしたわけじゃないんだから、このくらい許して。


「……俺はお前を信じたい。これまではずっと信じてきた……今回も、信じていいのか?」


「ああ、むしろずっと信じてくれていいよ。ボク、ルールに関してはたまに守らないけど、約束だけは絶対に守る」


「……分かった。あいつら三人には、俺がなんとか説明してみる。説得出来るかは分からんが……まあ、できる限りはしてみる」


「ありがとう」


 アニルドのボクに対する気持ちを使ったようで、少し良心が痛むものの、これで気兼ねなく向かうことが出来るだろう。もし皆が起きるまでに帰って来れなくても、アルミリア達には、アニルドから説明してくれるらしいし。


「……絶対、死ぬなよ。死んだら一生恨むからな」


「ボクが死んだら、アニルド追い掛けてきそうだね。うん、アニルドに長生きしてもらうためにも、ちゃんと帰ってくるよ」


 そう言って、アニルドに背を向けた。


「あーあと、お付き合いは無理だからね。そもそもボク、平民だし」


「んな!」


 貴族は恐らく、政略結婚とかのために籍は空けておかなければならないだろう。平民のボクがアニルドの嫁になっては、クスカ家が繁栄できまい。他の兄弟は妹だけらしいし。


 後ろで残念がっているだろうアニルドを想像しながら、ボクは決意を固めた。


 ──必ず、帰ろう。待ってくれてる人が、いっぱいいるんだから。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初に愛斗を優先して出しておけば、もっと良いかと思われます。ルーシアたんを始め、キャラは非常に良いと思っております。 [気になる点] 人が増えてからの視点の切り替わりが激しいかな・・・ […
2019/12/31 08:49 退会済み
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