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スレビス盗賊団

「ピクシル、魔力振動で探せる!?」


『ええ。でも、その二人が誘拐されたって保証はあるの? もしかしたら何か他の用事で遅れているだけかもよ?』


「それなら嬉しいな。でも、可能性がある今、絶対は存在しないよ」


『それもそうね。あんたなら、姿形で分かるでしょう、やってみなさい』


 どのみちアニルドの妹を探す必要があるし、もしかしたらいいタイミングではあったのかもしれない。


 もし、あの時アルミリア達に着いて行っていれば、フルドムに止められずに行けたのかもしれない。アルミリア達が捕まっているのだとすれば、防げたかもしれない。でも、それはもう無い物ねだりだ。後の祭りだ。


 今は、ボクが出来ることをしよう。


 一メートルほど滑りながら走る勢いを殺し、立ち止まる。意識を集中して、空間の魔力とボクの中にある魔力の振動を連結させる。呼吸を整えて、捜索範囲を街全体まで拡げる。


「だめだ、いない!」


 街中の地上には、アルミリアとチルニアの姿はなかった。つまりこれは、アルミリア達が街の中にはおらず、別の場所に居るという事になる。あの二人が用もなく外に出るとは思えない。


『地下も見てみなさい。商業区の方に人の気配があったわ』


 ピクシルが知らせてくる。どうやら、地上はボクに任せて、地下を捜索していたらしい。


 魔力振動を地中の魔力にも伝える。ただ、地中の魔力は土の粒との間にあるから、かなりの集中力を要した。頭の中心から危険だと痛みが訴える。しかし、ここでやめたらボクがここまで来た意味が無くなる。


 それに、今二人が……アニルドの妹も含めると三人は、状態はどうであれ恐怖を感じる事態に陥っている。油断していたのかもしれないが、あのアルミリアが囚われたんだ、容易な敵ではないだろう。


「……いた」


 ピクシルの言う通り、街の東側にある商業区の一角に、地下に空洞があった。そこに、人の存在が三十ほどある。視界をその空間に移動させ確認してみると、複数の男に金髪の少女が二人、黒髪の少女が一人気絶させられて囲まれていた。うち二人の顔は見間違えるはずもない、アルミリアとチルニアだ。残り一人にも、アニルドの雰囲気が僅かに感じ取れる。


「ぐっ……!」


 魔力振動を止めた瞬間、視界が歪むほど頭の中が痛くなる。膝から崩れ落ち、両手を地面に着いて荒い呼吸を繰り返す。嫌な汗が噴き出し、頬を伝って鼻先や顎から地面に落ちた。


『無茶しない方がいいわよ! あんた、これ以上は頭がもたないわよ!?』


「……関係ない。ボクは、まだ動ける。やるべき事を果たすまで、倒れない……!」


 力を振り絞り立ち上がる。目を閉じて脳への情報量を一時的に制限して、深呼吸を数度繰り返す。少し頭痛が収まってきた。


 目を開く。まだ視界は霞んで見えるが、さっきよりはマシになった。


 地下空間のあった場所を再度頭の中に思い浮かべ、東へ向けて街を横断している大通りを駆け抜ける。


 商業区に入り、少しスピードを落とす。夕飯時を少し過ぎているが、まだ買い物客はそれなりにいる。全力で走っていてぶつかっては、怪我では済まない。


 そして、地下空間に繋がる階段の傍へと辿り着く。ただ、階段らしきものは見当たらない。


「……ここ、ちょっと高さが違うな。扉があるのか」


 さすが十年間生き延びている犯罪組織だけあって、用意周到なものだ。犯罪を犯す前か後かは分からないが、ちゃんと隠れ家を用意している。


 右手を前に伸ばし、その先に空気を圧縮する。近くに人がいないことを確認して、前方へと圧縮した空気を放つ。例えるなら、空気砲というやつだ。


 爆風が吹き付け、身体が後ろへと押されるがなんとか持ち堪える。土が吹き飛ばされた場所には、金属で作られた扉があった。しかし、取っ手がなく開ける方法が分からない。触った感じ、押しドアではなさそうだ。


 引きドアか……いや、スライドか。ここに穴があるな。ここに何か棒でも突き立てて……


 蓋の周囲を見回すと、少し離れたところが僅かに高くなっていた。予想通り、スライド式で間違いなさそうだ。ただ、直径三センチほどの穴に入る棒を持っていない。剣先でも行けそうな気がするが、傷がついても困る。


「仕方ないか」


 右腕の袖を捲りあげ、手の開閉を繰り返す。そして、ある程度関節が温まったところで、扉を跨ぎ、穴に中指を突っ込む。さすが十一歳の小さくて細い指だ、この小さい穴にもすっぽりとはまった。


「だらああっ!」


 歯を食いしばり、足と手に力を込める。少しずつガガガと音を立てて扉はスライドを始め、五センチほど隙間ができた瞬間だった。急激に、扉の抵抗が無くなった。


「ふぎゃ!?」


 スポンと指が抜け、ズサっと足が滑り、ズドンと階段へと尻餅をついた。そのまましばらく転がり、風魔法でクッションを作って止めるまで、転がり落ち続けた。


「ぃぃぃ……」


 下には敵がいる。頭を打たないのと声を出さないことに全集中を向けて、姿勢を立て直す。


 頭を打たなくてよかった。もし打っていれば、脳震盪のうしんとうを起こして、気絶したまま敵陣まで転がり落ちていたかもしれない。これでは飛んで火に入る夏の虫だ。


 服に付いた土を払い落とし、顔や髪のものも払う。腰に剣があることを確認して、光魔法で暗い階段の中を照らす。


「……うし、行くか」


 なるべく音を立てぬよう、かかとから足を下ろしてゆっくりと階段を降りる。


 数分間、階段は続いた。魔力振動を使って敵の配置と、アルミリア達の位置を確認する。魔力武器を持っている人間はいないが、一人だけかなりハイレベルの魔力器官を持つ者がいる。一番奥にいる人物だ。多分、スレビス盗賊団のボスか。


 さて、どうしようか。魔法で一瞬で全滅にしてもいいけど、もし残党がいればアルミリア達が危険だ。できれば、三人の安全を確保してから、戦うか逃げるかを選択したいものだが。


 それに、ここは地下だ。火魔法の爆発なんか使えば、アルミリア達に被害が出る上に、地上との間の土壁にダメージが入って崩れかねない。水魔法も、ここはそこまで水捌けがいい土ではないから、やり過ぎるとでっかい貯水槽になってしまう。


 やるとしたら、土魔法か風魔法だな……あと、爆発のない火魔法。粉塵爆発なんて起きたら困るから、できれば最終手段にしたいけど。


 残り八段ほどの階段を、一気に飛び降りる。ザザっと音を立てて着地した瞬間に、幾つもの視線がボクに集中した。


「何だ!?」


 その言葉が飛んだ瞬間、ボクは中二病の如く手を目に当てて、カッコ痛いポーズをとる。そして、日本人ならば知らぬ者はほぼいないだろうかの有名なセリフを声高々と連ねる。


「なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け! 世界の破壊うわぁ!?」


 しかし、まだ序盤も序盤だと言うのに、一人の男が石を投げてきたものだから中断せざるを得なかった。


「まだ途中だぞ! 最後まで言わせるのがお約束だろ!」


「んなお約束なんか知るかよ!」


 せっかくの名乗りを邪魔されて、ガルルルと犬のような唸り声を上げる。そんな事をしているうちに、最奥にいた人物が歩み寄ってきた。


「何だ、お前は」


「さっき名乗ろうとして遮られたので、名乗る気が失せました」


「その事については謝ろう。こちらも、お楽しみがもう少しで気が立っていてね。ここを作るのに手間取ってしまったものだから」


 ボスらしき男は、思っていたよりも冷静な人物のようだ。しかし、この冷静さはどこから来るものか……自身の強さか、それとも悪事を自分の道だと信ずるが故のものか。


「ボクはルーシア。そこに気絶させられている三人の関係者だよ」


「どうやってここを見つけた。簡単には見つからないと思うが?」


「全くだよ。街中の道のど真ん中に階段作って、それをスライド式の蓋で覆った上に、高さが均一になるように土を被せるとか、どこまで本気で犯罪をやってるんだか。噂に聞いたけど、スレビス盗賊団ってのは、すごいもんだね。そりゃ、警団も見つけられないわけだ」


「そういや、外じゃそんな呼び名をされていたな……まったく、誰が言い始めたのか分からないものだ」


 ボクとしては、奴隷を表す英単語であるslave(スレイヴ)が思い浮かぶが、この世界では奴隷を表す単語は別のものだ。どういう由来なのか気になるが、まあ今は気にしないでおこう。


「どうして誘拐を繰り返す。しかも、少女ばかりを」


「簡単な話だ。裏商業で高く売れるからに決まっているだろう。それに、好きに遊んで躾けて、それから売る。こんなに都合のいい存在があると思うか?」


「……狂ってるよ。人の命を何だと思っている。少女は……この世界にいる人達は、お前のために生きているんじゃない、自分達の、大事な人の幸せのために生きている! お前みたいな奴が、そんな美しい営みを邪魔するな!」


 男は、はなはだ心外とでも言いたそうな表情を浮かべて、ボクを見下した。


「何を言う。俺は力を持っている。力の無い()は力のある俺に従えて、俺の役に立てて幸せだろう。弱者は強者の物でしかない。俺は俺のために力を使っている。それの、何が狂っていると言うんだ?」


「力の使い方は自由さ。ああ、それは否定しない……」


 だって、ボクも前世はそうだったから。自分の力を、自分の使いたい事のために使った。


「……でも。でも、それを人を苦しませるために、悲しませるために使うことは間違っている! 弱者も強者も変わらない、人間だ! しいたげていい理由なんか、どこにもない!」


 声を荒らげる。許せなかった。命を冒涜する奴が。自己のために他者をおとしめる奴が。今にも斬り掛かりそうで、燃やし尽くしてしまいそうで、暴走しようとする心を抑えることがやっとだ。


 しかし、男は一向に澄ました表情を浮かべてボクを見下ろしている。握る拳に力が篭もる。きっとあいつは、ボクのことも商品に見えているんだろう。ボクの命なんか、あろうがなかろうが関係ないんだろう。だって、あいつにとってボクは物だから。


「返して欲しければ力で奪え。世界は力のある者だけが強者であり、生き残れるのだ。その剣を抜け。俺の配下を倒してみろ、俺を倒してみろ。そうすれば、お前はその大事な奴らを取り返せるぞ?」


「……仕方ないか。今すぐ投降すれば、命だけは赦すけど、その気はないよね」


「勿論だとも」


「……じゃあ、これ以上被害が拡がる前に、お前らはここで消す!」


 しゃいいぃ────ん……と甲高い音を立てて、剣を抜く。そして、肺いっぱいに空気を吸い込んで叫ぶ。


「《火炎大蛇》ルーシア、参る!」

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