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始まりの日

 世の中には理不尽なほど才能を抱えた人物が、ごく稀に存在する。


 それは学問において、運動において、料理において、などなど、人によって変わってくる。


 しかし、それだけでは終わらない人も、少なからず存在した。


 そう、全てにおいて才能を抱えた者、ハイスペックとも、パーフェクトとも言われる人物だ。


 そしてここにも一人、有り余る才能を抱えた者がいた。


 信条しんじょう愛斗まなとと名付けられた少年は、中学以下での飛び級が認められていない日本にいながら、特例として飛び級をするほどの才能を抱えていた。


 十三歳で大学に入り、一年後には卒業課題を終えて卒業。百メートル走は万全の状態でなら九秒台を出すこともある。そして、身長は百八十と日本では高く、顔立ちも中性的で整っていた。


 ごく普通な家庭で生まれたにも拘らず、彼は尋常ではないスペックを誇っていたのだ。テレビの取材を受けたのも、一度や二度ではない。


 しかし、そんな彼にも悩みはあった。いや、そんな彼だからこそ、だろうか。


 周囲の人間は自分が話しかけるのはおこがましいとでも思ったのか、愛斗はいつも一人だった。ノートを貸して、と頼まれたことすらなかった。


「僕は一人だ。誰にも頼らず、誰にも頼られず……そんな人生なんだ」


 彼はそう言い残して、世間から姿を消した。彼は、家族ともすら連絡を断ち切った。


 それから三年経ち、ほとんどの人がそんな彼の存在さえも忘れた頃。


 愛斗はどことも知れぬ山奥で、様々なものを作っていた。


「よし、出来た。重力操作装置」


 目の前に鎮座する巨大な装置に備え付けられたパネルを操作する。


「効果範囲がこの工場内で、重力軽減っと。これで、擬似宇宙空間なんて簡単に再現できるね。スイッチオーン!」


 勢いよく電源ボタンである緑のボタンを押す。しかし、体が浮き上がるどころか、服がなびくことすらない。


「あれ、不良品? いやでも、ちゃんと設計通りに作ったはずだし……操作も設定通りにした。じゃあ、なんで……」


 設計図を置いた、愛斗のすぐそばに置かれた机の上を見る。そしてそこには、一つのネジが置かれていて……そしてそのネジは、装置の冷却機能に関わるものだった。


「やっべ」


 散髪がめんどくさくなって伸ばしっぱなしの髪のせいで見落としていたのだろうか。様々な機械を作ってきて、初めての失態だった。そしておそらく、最期の失態となるのだろう。


 機械表面に使ったアルミパネルが徐々に赤く染まる。周囲の気温は既に三十五度をオーバーしており、このままでは転移装置を使うにも時間がない。それに、こんな山中では大惨事になりうる。


「やばいって、アイスボンバーどこ置いたっけ!?」


 大量に積まれた試作品を押しのけながら、こういう時のために作っておいた瞬間冷却装置を探す。その間にも気温は徐々に上がっていっている。


「これじゃない、これでも……あった!」


 しかし、引っ張っても抜き取れない。何かがつっかえているのだろうか。


「なんでこんな時にぃ!?」


 強引に引っ張る。使っている合金はかなり頑丈なものを使っているから、多少の無理な圧力ではなんともないはずだ。


 気温が五十度を超えた。愛斗の顔は紅潮し、汗がダラダラと流れている。あと一分もすれば、脱水症状で愛斗は御陀仏だろう。


 しかし、それよりも前に装置の限界が来たらしい。ピキッと音が聞こえたと思った瞬間、世界は白に包まれた。


 信条愛斗は、人知れず、世界から姿を消したのだった。そう、跡形もなく。



 ──悲鳴が聞こえる。僕は一体何をしてたんだっけ。頭が痛い。誰かに殴られたのかな。何かを握っている。棒状のもの……なんだろ。身体中が熱い。まるで、火に炙られているようで……


「逃げて、ルーシア──ッ!」


 手に持っていた棒を振るった。無意識だった。でも、何かを感じた。ゾッとするような、何かを。


 目の前で何かが倒れる音がした。何を振るったのだろう。


 ……いや、そうだ、思い出した。僕は、死んで、生きてるんだ。



「ようこそ、狭間の世界へ」


 低いけど、聞き取れないほどではない声。力強さがあるけど、包み込む優しさも感じる。


「あなたは、亡くなられました。ここは、あなた方の言う天界のような世界です」


 重いまぶたを持ち上げる。あまりの白さに一瞬目を再び閉じてしまいそうになったが、なんとか堪える。


「やっぱり、死んだのか」


 僕は慌てることもなく、静かに立ち上がった。


 どうやら寝台のようなものに寝かされていたらしく、石のようなもので出来ているのか、妙に体が痛む。ベッドにすることをオススメしようか。いや、どうせここは精神世界だろう。この痛みも、僕が勝手に脳内で引き起こしたものに過ぎない。面倒だ、放っておこう。


 少し離れたところに人が立っていて、若い頃はさぞイケメンだったであろう顔に渋さが入った、どのみちイケメンな人だ。おそらく、さっきの声もこの人だろう。いや、神と言うべきか。


「で、どうなった、あの後は」


「原因不明ですが、あの山は火事になることもなく、謎の発光現象ということで片付けられることになります」


「未来形ってことは、まだ実際にはそれが起きてなくて、あんたら神的存在の未来予知能力みたいなもので分かったってとこか……多分、あれだな」


 山が火事にならなかったことには、一つ思い当たる節があった。ついさっきまで完全に忘れていたし、そのせいで山火事になるやもという推測から焦りが加速したのだが。


 アイスボンバーとともに作った、被害減少用装置《アイソレーションフィールド》のおかげだろう。言ってしまえば耐熱加工した金属で作った壁だが、役に立った、というより、役に立つようだ。


「それで、僕はどうなるんだ。魂の記憶を消去して人生ゼロからやり直しか? 天国でご気楽な生活をするのか? 地獄で延々と働かされるのか?」


「お望みならば、選んでいただいても構いません……しかし、その目だと他にもあるとお思いなのでは?」


「目じゃなくて思考を読んでんだろ……日本人としちゃ、しかもまだ中二病が抜け切れてない状態の僕からしたら、憧れずにはいられない……そう、異世界」


「勿論、選択可能ですよ。近未来的世界、現代的世界、中世的世界、旧石器的世界など、時代だけで見ても幾つでも」


「まあ、やっぱり中世的世界ってのが大道なんだろうけど……魔王とかはいるのか?」


「いる世界もあれば、いない世界もあります」


「ふぅん……」


 考える時の癖、右手を顎に添えて、左手で右肘を支えるポーズをとる。実際、無意識だ。


「……逆に、あんたら神ですら手放ざるを得ない、なんて世界はあるのか?」


「勿論、複数存在します……そのような世界は、基本転生されるのを拒む方が多いのです」


「いいね、面白そうだ……あんたらが手放したってことは、僕がそこで何をしようが関係ない、ってことだよな?」


「はい、私たちは干渉致しませんので」


「よしきた、そこの中で中世的世界、魔法がある場所を頼む」


 思い付いた時の癖、指を鳴らして銃のような手の形を作る、を行いながら、僕は神に提案する。


「分かりました。それで、転生特典なのですが……」


「やっぱあるのね……魔法が全属性使えたらいい。位とか魔力量とかは、そっちが独断で。でも、強すぎないようにしてくれ」


「かしこまりました、そのように……では、あなたの新たな人生、素晴らしきものであるように」


 世界に送り込まれるテンプレかのように、僕は光に包まれた。

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