一度だけのお願い
私はこの国の女性の中でも五本指に入る価値のある女だ。
それは両親の家柄で、父の地位で、見た目の美しさで、身につけた素養で、婚約者の産まれで、つけられた価値。
産まれてからずっと価値を守る為に相応しい振る舞いを強制されてきた。
両親から褒められずとも、父から道具に見られようとも、見た目に嫉妬されようとも、努力を親の力にされようとも、婚約者に疎かにされようとも、守らなければ私に生きる道は無いから。
そんな私を価値だけで見ない人間が一人だけ存在する。
母の友人の息子で、少し年上の、ひどく仏頂面の男だ。何がそんなにも気に食わないのか、常に睨みつけているような不貞腐れているような顔をしている。
それがわざとでもなく標準装備なのだと知る頃には、彼にも私を知られていた。
「何か希望はあるか」
私を憐れんだのか、ある時彼は言った。私の意志を確かめる様な言葉を、生まれて初めて聞いた私はどう答えればいいか分からなかった。
いつも決められていたから。
言われたことをするだけだったから。
余程途方に暮れた顔をしていたのだろう。男は珍しく仏頂面を崩してーー恐らく困った顔をしていたーーそして、ポケットから飴玉を一つくれたのだ。
初めて食べるそれは、私の何かを一緒に溶かした。
それから彼に会う度に私は強請った。
有名なケーキを。
珍しいクッキーを。
可愛いカヌレを。
人気のプリンを。
彼は一度も拒絶したことは無かった。値切られることはあっても。
わざと高慢に振る舞って、彼が逆らえず仕方なく買ってくる。
まるで悪い女みたいね。
彼だけなの願いを叶えてくれるのは。
彼だけなの信じられるのは。
彼だけなの甘えられるのは。
彼だけなの私の本当を知るのは。
だから、一生に一度だけ、本当の我儘を言わせてね。
「ねぇ、一生のお願いよ」
きっと貴方は分かっている。だからそんな顔をしているのでしょう?
「我儘もいい加減にしろ、お前ももう成人するんだから」
「ええ、大丈夫よ。これが最後のお願い、そう、『一生に一度のお願い』だから」
それでも私には貴方しかいないことを知っているからここにいるのでしょう?
「きいてくれるわよね?」
貴方も噂を知っているからここにいるのでしょう?
「一生のお願いよ。もし王子が私を罪人としたらーー私を殺してちょうだい」
仏頂面が更に恐ろしげな顔になる。そんな顔したって、怖くないわ。
「無実の罪で捕らえられて苦しみや辱めを受けるなんて絶対に御免だわ。だから殺してちょうだい。あなたが私を。痛いのは嫌よ。痛くないようにしてね」
貴方の方が痛そうな顔をして、それでは騎士失格よ?
「一生のお願いよ。ね?」
お願い、またいつもみたいに、仕方が無いからって言ってちょうだい。
『お易い御用だ』
ああ、貴方は本当に優しいわね。
きっと嫌だったのに。
血が滲むほどの決断だったのに。
いつも本当に叶えてくれる。
貴方がそう言ってくれたからこの場に私は立てたの。
貴方がいつも私を見てくれたからここまで歩いてこられたの。
貴方が助けてくれるって信じていたから取り乱さずにいられたの。
ああ、どうか泣かないで。
愛する貴方の手で死ねるなら私は幸せよ?
お読み頂きありがとうございました。
彼のその後というか、王子達のその後の話もふんわり考えてはいるのですが···また、嬉しくなったら書きます。
書きました!「我儘のその後は」→https://ncode.syosetu.com/n4274fu/
ちなみにこれらは連載はしません。