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曰く、其の少年は5000年駆けて街へゆく  作者: 過猶不及
第一部
9/78

試行錯誤

 闘技場はこれまた大きかった。校舎や寮などいくつもある建物の中においても良く目立つ。ひときわ巨大な建築物である。そのため初めて来たのに迷うことがなかった。

 

 闘技場は楕円の形をしていた。中も当然広い。人がどれだけ入るのか検討もつないほど大きく積み重ねられた観客席。中央には、闘技場全体の形に合わせた楕円形のアリーナがある。今の時間は使われていないようだ。観客席には人はいない。

 

 そんな閑散とした闘技場において。中央アリーナに、3人の教師が立っていた。


「今、受験者の筆記試験の結果の連絡が来ました。」


 そう言ったのは、眼鏡をかけたロングヘアーの若い女性教師だ。名をフィールという。よそから見れば、連絡などとっている様子は微塵も感じられない。彼女は今、テレパシーによって他の場所にいる教師と連絡を取っていた。


「採点、ずいぶん早いっスね」


 言いながらピアスを触る男はこの中で最も若い男性教師である。名前はモモツギ。この男、全ての指に指輪をはめている。腕輪もジャラジャラとつけ、ネックレスにピアスもしている。ただ、これはこの男がチャラ男というわけではない。その全てが、魔道具なのである。


「採点どうこう以前に、白紙だったようです。0点です」


「本当っスかそれ!? どんな内容だったんスか!?」


「内容は中等部の基礎問題と、高等部の魔法学を触りだけだった筈だけど…。流石に初等部の問題を高等部編入試験に出す訳にはいかんだろう。」


 ゲントレーは、この中では最年長だ。白髪混じりの頭に、とんがった顎髭と口髭を蓄えている。彼は、今回の試験全体を任されていた。


「どうしますか? その受験者は、すでにこちらに向かっているらしいのですが」


「んなもん見るまでもなく不合格に決まってんじゃないスか! 常識のない奴に入られても困りますって!」


 シッシッと追い払うようなジェスチャーをする。その言葉に、女性教師も「そうですね」と呼応した。たとえ今回の試験が単純に“見るため“の試験だとしても、流石に0点はまずいと考えているらしい。


「いやしかし……」


 前途ある若者なのだ。見るだけでもやってあげたい。しかし2人は「流石に無理だ」と今度は顔で訴えかけてくる。


「アマナツ君が、彼を推薦しているんだ」


「え!?  3組のルーム長のアマナツさんがですか?」


 この学校は規模が大きい。そのため、生徒の人数が多すぎて先生だけではどうしても手が回らなくなってしまう。そこで、ルーム長というのがこの重要になってくる。ときには、先生の代わりとなって生徒をまとめるのだ。指揮をとるリーダー性と皆から慕われる信頼が必要なのである。アマナツは、そのルーム長を任されていた。


「そうなんだ。アマナツ君が『彼はちょっと常識はない所があるけど凄い人なんです』と熱心にね。テスト内容もそれとなく聞かれたから、まあできる範囲で答えてあげたんだよ」


「でも、アマナツはなあ。頭は良いけどちょっと抜けてる所があるから。まあ、それがあの子の良い所でもあるが」


「確かに。というか、テスト内容を教えて0点は相当ですよ」


 モモツギは、アマナツがルーム長を務める3組の担任であった。自身の担当するクラスの子の名前を出せば、彼も気が変わるかもしれない。そう考えたのだが、テスト内容を教えても0点という事実が足を引っ張る。言わなければ良かった。


「あのー」


 確実に、3人のどれでもない声が背後から聞こえてきた。その声に3人は仲良く同時に振り返る。ついに来たようだ。


「試験会場ってここですよね?」


「あ、ああそうだよ」


 その声の主は受験者のダイスケであった。ゲントレーは、やや引きつりながらも笑顔で返答する。まさか聞かれてはおるまいか。


 突然、両肩を掴まれる。掴んだのは、フィールとモモツギだ。見なくてもわかる。後ろを向うとすると、それよりも早く2人に強引に振り向かされてしまった。そして瞬時に、肩を組まれる。


「来ちゃったよー!? どうすんスかー!」


「私が『不合格です』と伝えましょうかー!?」


「う〜む」


 顔を近づけ合い、背後にいる受験者に聞こえないようにヒソヒソと話す。2人はすでに追いかえす気満々だ。しかし、ここまで来た彼を追いかえすのは気が滅入る。加えて、アマナツからの推薦もあった。彼女に、追いかえしたなどと伝えるわけにもいかない。


「あの〜筆記は失敗したけど、俺頑張ります! よろしくお願いします!」


 大きな声に驚き、大介のほうを振り返る。そこには、深々と礼をする姿があった。3人は顔を見合わせる。


「本人もやる気だし、いいんじゃない?」


 その試験全体の最終責任者がOKだと言ってしまえば、他の人は口出し無用である。2人はため息を吐く。


「そうっスね」


「最終判断は私たちではないので。」


 渋々ながら了承してくれた。2人も教師だ。子どもが嫌いなわけではないのだ。ただ、どんな風貌の男が来るのかと戦々恐々だっただけだ。見てみれば、アマナツの言っていたような常識がない少年には見えない。礼儀正しい良い子ではないか。


             ✳︎


「じゃあ、これから試験を始めるにあたって、どうせなら我々の自己紹介をしようか。私はこの試験の責任者、ゲントレーだ。よろしくね」


「名前言うんスかあ? ……モモツギだ。普段は戦闘面を教えている」


「フィールです。よろしくね、ダイスケさん」


 恐ろしく緊張しているという情報は聞いていた。そこで自己紹介をして、少しでも打ち解けられたらと考えたのだ。もしかしたら、緊張で筆記試験が奮わなかった可能性もゼロではない。


「彼女は魔力感知が得意なんだ。ファール君は魔力を。モモツギ君は能力を測るのが得意でね。どちらも今回の試験を行う上で必要なんだ」


 フィールは、試験中に魔力測定を行う。不正行為をしていないか、チェックをする役割も担っている。モモツギは試験内容全体に関わる。合否の最終決定権はゲントレーだ。しかし、実技試験の担当試験管はモモツギなのである。


「最初の試験は魔力コントロールを測る。その線から、あの100メートル先にあるまとを狙って魔法を撃ってくれ。あ〜、魔法じゃなくてもいいぞ? 魔力をぶつけるだけで良い」


 モモツギが指差す方向には円形の的が用意されていた。中央アリーナの壁に取りつけられている。中央に向かって徐々に小さな円が描かれている直径1メートル程度の的だ。


「肩肘張らずに、リラックスしてくれれば良い。べつに、1度きりってわけじゃないしな」


「は、はい!」


 ダイスケは大きな声で返事をする。緊張からか動きがカクカクしている。少なくとも、人間のする動きではない。リラックスはできていないようだ。


「モモツギ君。彼をどう思う?」


「どうもこうも、筆記の魔法学の問題すら解けないんスよ? 期待はしないほうが良いっスね」


「私も同意見です。彼の魔力量は見るかぎり、平均値そこそこです。アマナツさんの買いかぶりすぎかと」


「なにがあったか知らないけど、あの子騙されたりしてないかな」


 ヒソヒソ話というものは、それなりに距離があっても意外と聞こえるものだ。チラリとダイスケに目を向ける。ボーと的を見つめている。どうやら全く耳に入っていないようだ。しかし、それは緊張しているからという感じではなかった。100メートルはやりすぎだったか。彼は諦めてしまったのだろうか。


             ✳︎


 今から約5000年前。それは、まだこの地に降り立って間もないころのことだ。ダイスケには、純粋な疑問があった。


「なあ、俺の魔力ってどのくらいなの?」


 それは、自分の魔力量についてだ。魔力には限度あるということは、以前に聞いたことがあった。加えて、自分自身でもなんとなく自覚していた。魔法を使いすぎると、身体が動かなくなる瞬間があるのである。しかし、その量がどの程度なのかはわからない。この世界の基準値もわからない。


「大介さんの魔力量はー、一応世間一般でいうところの平均値にしてありますよー。中の中ですねー」


 『平均値』という響きが大介に底知れぬ不安を感じさせる。この森で戦っていく中で、恐らく最重要となるであろう魔法という存在。どうせなら魔力量は、軽い感じで莫大な量にして欲しかった。魔法を使っていくと、身体が動かなくなる瞬間が必ず訪れる。そして次の瞬間には殺される。本当に、弱肉強食にもほどがある。そんなこともあり、魔力量は多いに越したことがなかった。


「魔力って増えるよな?」


 というか、むしろ多いほうが助かる。


「はいもちろんー!」


「なんだよ。鍛えれば増えるのか〜良かっ……」


「いえいえー。魔力は、“成長“ととも増えていくんですー。」


 嫌な予感がする。寒気がする。全身に緊張感が走る。恐る恐る今思った、いや思ってしまった考えを問う。


「じゃあもしかして?」


「流石察しがいいですねー! そうなんですー! 不老でもある大介さんの魔力は、増えませーんー!」


「なんでぇええええ!」


「イエー!」


 悲痛な叫びが森に響きわたった。それによって森の怪物たちが大量に集まったのは言うまでもない。


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