そんな顔して睨まないで
「よろしくね、レオの先生たち」
どうして私なんかが、こんな。こんな如何にもデキる女みたいな事をしなければならないのだろうか。ダミィロは心の中でぼやいた。目の前に居るのは、錚々たる面々。魔導師と呼ばれる、この国の魔法使いの最高峰。エンズコウにエルジャーノ、そしてシイナ。どの人も、わざわざ調ベル必要も無い程の有名人だ。芸能事務所か此処は。
「フードと仮面で、顔は見えないが・・・声からして、随分と若いな?」
そして、あれがイグゼレム。確か、シードラードさんが最も注意するべきだと言っていた人物。見たところ、シードラードさんと同じくらいの老け感だ。歳が近いのだろうか。他の面々に比べれば、というか比べ物にならないくらい、名を聞かない。ロンユ君も、彼の素性を調べるのにはとても苦労していた。
「女性の年齢に言及するなんて、無粋な男ね。そんなだからいつまで経っても独り身なのよ?」
「素性は調査済みというわけか」
ああ、こそばゆい。ちょっとトリちゃんの雰囲気を真似てみているのだが、それが一層気恥ずかしくて仕方ない。心無しか、周りの仲間がニヤニヤと此方を見ている気がする。みんな、フード被って更に仮面まで着けているから実際のところは分からないけども。
「そんなの調査しなくたって分かるわよ。貴方、幸薄そうだもの」
思ってないよお、思ってないよそんな事。凛々しくてダンディなおじさんだと思っているから安心して。大丈夫だから自信持って。だからお願い、怖い顔しないで。
「“机上のイグゼレム“。魔導師になったにも関わらず・・・一生をいち学校教師に甘んじている貴方には、お似合いの二つ名よね?」
止まらないよお。沈黙が怖いんだよお。だから許して欲しい。教師陣が揃って此方を睨み付けてくる。特に、丸眼鏡に緩いパーマのかかった髪を下ろした優男。彼の名前はエルジャーノだ。教師となる前は、国王直属のかかりつけ医をしていた男だ。彼は、イグゼレムの後ろからヌッと前に出てくると声を張り上げた。
「さっきから聞いていれば・・・!!! 貴様、随分な物言いだな!!! その二つ名は、何処の無礼者が名付けたかも知らない、この人には相応しく無いものだ!!! イグゼレムさんを甘く見るな!!!」
そそそそそそんなに怒らないでよお。ちょっと、なんか良い感じに悪役っぽい煽りをしたかっただけなのに。エルジャーノは、優男の雰囲気の割にかなりの熱い男だった様だ。謙虚で落ち着いているという話であったが、私達は更なる情報を得た。彼は、彼が慕う人間に関した煽りへの耐性が低い様だ。
「挑発に乗るな、エルジャーノ。少しでも冷静さを削ごうと、彼女も必死なのさ。なあ? イグゼレム」
「エンズコウの言う通りだ。彼等の気合いの入れようが窺える」
「なんて、悠長な事言ってていいの? 早く生徒達に連絡しないと・・・。貴方達、囲まれてるのよ?」
「・・・・・・」
イグゼレムは何も言い返して来ない。きっと、此方の意図を理解しようとしているのだ。きっと、彼はまだ生徒達に連絡を取らない。見れば、彼は腰元のトランシーバーを手に取る素振りも見せない。きっと、わざわざ私側から連絡を促した理由を思考している。シードラードさんの言ってた通りだ。