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曰く、其の少年は5000年駆けて街へゆく  作者: 過猶不及
第二部
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落ちたかもしれない

 見上げると、灰色の雲が空を覆っていた。周囲には、濃く冷たい色をした針葉樹が生えわたっている。木の間に木が生え、わずかな隙間から見えるのもまた木であった。アルストは、手元の方位磁針を見おろした。これがなければ、まっすぐ進むこともままならない。今向いている方が本当に前方なのか。気を配らねば、後退してしまっている可能性さえあった。


 アルストは今、護衛任務の最中である。アルストだけではない、レオナルド魔導学院の3年生25名がこの任務に参加していた。護衛対象は、「とある要人」という話だ。アルストを含めた生徒全員、それよりは対象に関する情報を与えられていない。なにを護るのかも知らずに、命を懸けろとは、イグゼレムも酷なこと言う。アルストは、小さくため息をはいた。

 

「えーこちらS03AB021、ドロップ。こちらは暗くてジメジメしてますどうぞ」


 ザザザザという機械音と一緒に、かすれた声が腰元からした。森に入る前に、1人に1つ渡された無線機は、腰に備えつけてある。今の声は、無線機から発せられたものだ。


「こちらS03AF003、アルスト。ムダに無線機使うな。はっ倒すぞ」


 妙な雰囲気のあるこの場に足を踏みいれてから、なにも起こらないまま1時間は経過しただろうか。しびれを切らしたらしいドロップが、無線機で話しかけてきた。


 生徒たちは、5つの隊に編成され、各隊円を描くように配置されていた。5部隊で構築された円の中心には「とある要人」と教師5名がおり、教師もまた用心を囲むようにしていた。


「こちらS03AB021ドロップ。ヒマなんだよー。なんも起きないし……というわけで、しりとりしよーよどうぞ」


 しりとりなんか、同じ隊のやつらとやればいいだろうがと、喉まで出かかった。ドロップには友達がいなかった。いちおう部隊長に任命されていた気がする。長がしりとりを始める部隊。この調子で務まるのだろうかとアルストは頭をかいた。


「こちらS03AF003、アルスト。『どうぞ』って言えばなんでも許されると思うな。護衛任務なんざ、なにも起きないに越したことはねえだろ」


「S03AA021ドロップー。にしてもなにもないんだよー? 景色でも良ければまだ気もまぎれるけどさ。見渡すかぎり木しかない既視感ですどうぞ」


「こちらS03AC015、スペラーダミュ。……妙にリズム刻んでるとこ悪いけど、これ全体に繋がってるからな? 丸聞こえだぞ」


 割って入ってきたのは、学年会長を務めるスペラーダミュであった。全体に繋がってることは、最初に受けた説明で聞いている。とうのドロップは、腹を壊してその場にはいなかったが。


「え、うそまじで!? どうぞ」


「焦ってるわりに冷静じゃねえか」


「こんな時だからこそ、冷静でなくちゃならねえのさどうぞ?」


「黙っとけ」


「てめえが黙れ」


 ドスの効いた声が、無線機から響いた。ドロップの声とは明らかに違う。強く殺気がかった声だった。無線機からは次々と、「俺じゃないよー!? どうぞ」「誰の声だ? 聞いたことない、敵襲か?」などという会話が聞こえてくる。この聞き慣れた声色は、十中八九ツバキだろう、アルストは思っていた。いや、わずかな可能性さえのこらないくらい確実にツバキだろう。


 ザザザザというノイズが、無線機から聞こえてきた。また、誰かが繋いだようだ。


「こちら、T05AA101……イグゼレムだ。真面目にやれ。どうぞ」


 声は静かであったが、たしかな怒気がこもっていた。この会話に関わった誰もが、「あ、落ちた」と考えたことだろう。かくいうアルストの額にも、冷たい汗が滲んでいた。



 ご覧いただきありがとうございました。無線の知識はまったくありません。ので、細かいところは勘とノリノリで書いてます。ダンス踊っちゃうくらい。

 ちゃんと伝わるように書けているのか。自分では測れませんが、なるべく努力していこうという気持ちは変わらずあります。ので、あるていどは許してください。

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