三大種族
ピスケ第三魔法学園には、街中の児童生徒が集まっている。初等部から高等部まで、男女問わず、学校内にひしめき合い学園生活を送っているのだ。なかには、家から距離のある者もいる。そんな彼らのために、学園内には住まう学生寮がいくつも点在していた。
ダイスケとコタロウ、マルコの3人は、教室から2年生男子寮の一角の移動していた。マルコの部屋である。
玄関からつづく細い廊下。廊下沿いには、洗面所とトイレが備えられている。廊下のさきには、四角形どの部屋がある。どの寮の部屋も、この形を基本としている。しかし、さきの四角い部屋のなかは、人によって大きく外見を変える。その人間性が、色濃く反映される。
マルコの部屋は、ほかの誰の部屋よりも広く感じる。大きさは変わらないはずだが、床にほとんど物が置かれていないことが原因だろう。どの隅にもホコリがなく、マメに掃除を行っていることがうかがえる。
入って左を見ると、壁の1面を丸々覆う本棚が設置されている。1から10まで番号のふられたファイルが並べられていた。ダイスケは、その中身を知っていた。マルコが日々熱心に撮っている写真が丁寧にしまわれているのだ。今日こそは、ぜったいこの中身を見ないで帰りたいと、ダイスケは切に願っていた。
床は硬くひんやりとしていて、この季節には少し合わないが、文句を言うほどの感じでもない。3人は、ちょうど三角形をつくるように向かいあいながら腰かけた。
「けっきょく……魔人族ってのはさあ、人なのか?」
守護天使から聞きそびれていた。誰から聞いても同じだろうと、目の前の2人に問いかける。一方で、守護天使は「なんでなんでー!? なんで私に聞かないんですかー!」とうるさい。
すると、座布団のうえで胡座をかくコタロウが口をひらく。
「歴史的には、もとは俺たちと“同じ人間“だったはずだ。で、途中で枝分かれした」
マルコのほうは、座椅子に座りながら、肘かけを使って頬杖をついている。
「歴史つっても、古すぎて半分おとぎ話みたいな扱いだけどな」
「はるか昔に空から落ちてきた天使と人間との間に生まれたのが、最初の魔人だといわれてる」
「な、嘘みたいな話だろ? 天使なんているとは思えないし」
その発言に、ダイスケはなんともいえない微妙な表情を浮かべた。ダイスケは天使を知っている。5000年も前から、ずっと知っている。おそらく、全人類の誰よりも天使の存在を理解している自信がある。現に今も「いるいるうー! いるんだな〜、それが〜」という天使の声が脳内に響いているのだから。
「い、いるんじゃないか……? 魔人がいるくらいだし……?」
「いるなら拝んでみたいなあ……きっと素敵なんだろうなあ……そのまま召されちゃうかも……!」
素敵かどうかは、わからない。実際に見たことはない。話しているかぎりでは、そこまで素敵な雰囲気はない。のんきに語尾を伸ばしている時点で、マルコの言うところの「素敵」とはきっとほど遠い。
「私ー、この人苦手ですー」
たとえ、マルコの考える「素敵」が“これ“だとしても、残念。天使のほうはマルコのことを素敵だとは、思っていないようだ。
「魔人族のほかに、獣人族にも“そんな感じ“の話がある」
「龍と人の間に生まれたってやつだろ? 胡散くさいよなあ」
「獣人に関しては、たしかに胡散くさい。“龍“ってのがな……天使に対抗した感じがある」
「獣人族なんてのもいるのか!」
獣人族とは初めて聞いた。このなかでは圧倒的に長生きしているはずだが、いかんせん唯一の情報源が、情報源の役目を果たさない。
「獣人族と魔人族に常人族。合わせて『世界三大種族』って呼ばれてる。常人族ってのが、俺たちのことだな」
「『ヒトならざるは、ヒトにあらず。つねヒトなることこそ、ヒトである』つって、習ったなあ」
マルコは立ちあがると、本棚に向かった。なにか探し物があるようだ。
「中等のときのやつだろ? なつかしい」
「獣人や魔人が、人と区別されていた時代があったんだと。今でもその気が、あるところはあるがな」
言いながら、表紙の折れた本を三角の陣形の真ん中に置きすてる。どうやら中等部時代の教科書のようだ。すり傷も所々にあり、ずいぶん使いこまれている様子だ。マルコは、ふたたび教科書を手にとると、ペラペラとめくりはじめた。
「魔人族はともかく、獣人族なら街を歩けばチラホラいる。この学校にもそれなりにいるし」
ダイスケは首をかしげる。いかんせん、獣人族らしき人を見たことがなかったからだ。どう思いかえしても、毛深い二足歩行を学校内で見たことがない。
直後、マルコは「あった」とつぶやいた。ページには、さきほどの、『ヒトならざるは、ヒトにあらず。つねヒトなることこそ、ヒトである』という言葉が載っていた。
「獣人族に関しては、俺たちと見た目はほとんど変わらない。耳が尖ってたり、ケツに尻尾の名残りみたいなコブがあったり……パッと見ただけじゃわからないことが多い」
「あと肌の色とか瞳なんかも、見分けるポイントらしいぞ? まあ、個人差の範疇って感じで、俺にはさっぱりだけど」
読んでいただき、本当にありがとうございます。
マイペースに進めてまいりますが、どうぞよろしくお願いします。
 




