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曰く、其の少年は5000年駆けて街へゆく  作者: 過猶不及
第二部
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ハーメルン計画

 鬱蒼うっそうたる森に生える巨木のわきは、大蛇と見間違えるいばらの道であった。およそ人が暮らすにはふさわしくない場所だ。そんないばらに囲まれて、1軒の小屋がたっていた。押せば倒れてしまいそうな質素な小屋である。イバラが屋根を越して伸びており、一目で小屋を認識するのはむずかしい。生い茂る木々から若干差し込む日光を、囲んだいばらがさらに少なくしているので、小屋の周りは暗黒であった。


 小屋の中は、なにもなかった。窓もなければ家具1つ、人間1人も存在しない。見つけた人は、なんのためにたてられたのか疑問を感じてしまうだろう。


 小屋の床からは、空気が通っていた。床付近に、コォという音がわずかに響いていた。床の下には、なんと地下へと通じる階段があったのである。


 階段を進むと石が積まれて形成された壁に囲まれていた。行き止まりである。壁には、生々しい血液の跡が残っている。すでに乾ききっており、壁のシミと化していた。


 その岩盤を超えた先に、人が住めるだけの生活空間が広がっていた。げんに、今この瞬間にも人が暮らしているのであった。


             ✳︎


 ソファーに浅く座る男は、目尻にシワを刻んで、白髪混じりの髪と髭をたくわえている。新聞を読もうとまくられた袖。見える腕は、どんな武器よりも凶器じみた太さをもっていた。


「今日も朝が早いようで、先生」


 顔を上げると、目の前には若い男が立っていた。ドアを開けて入ってきたようで、彼の向こう側にはさっきまで閉じてあったドアが動いていた。しかし、開ける音がしなかった。足音さえも聞いた記憶がない。


 その若者の名はアンチミュート。軽いパーマをあて、目にかかるくらいのキノコ頭をしている。軽薄そうな男である。


「アンチミュート。『その呼び方はよせ』と昨日も言ったのだがな」


 男はふたたび新聞紙に目を落とす。アンチミュートが部屋に入ってきたことに関しては、なんとなくわかっていた。むしろ、なんとなくでしかわからなかったというべきか。それほど集中して新聞を読んでいたつもりはなかった。彼は気配を消すのが上手い。


「そうだったんか、そりゃすまん。日記にあんたのことは『先生と呼べ』とデカデカ書いてあったんでね」


 アンチミュートはヘラヘラと笑う。まるで反省の色がみられない。加えて、男を先生呼ぶわりに口調はかなりラフだ。


「その話も、昨日した」


「なんだ……あんたも楽しんでんじゃねぇか」


「ああ、朝の日課だよ」


 男は新聞を読むことをやめずに微笑えんだ。アンチミュートもその様子を見て、口角を上げる。少し間をおいて、アンチミュートの目が開かれた。


「その新聞、今日のじゃねぇなあ?」


 新聞に刻まれた日付は昨日であった。第一、今は早朝もいい所である上に、こんな辺鄙な場所までご丁寧に新聞が届けられるわけがなかった。


「上からの届け物だよ。いよいよ国が動きだしたようだ」


 その言葉に、アンチミュートは口を曲げる。


「へえ〜、よくわからねぇが……そりゃ大変だ」


 つぎの瞬間には不敵な笑みへ、表情を変えていた。アンチミュートは男に背をむけると、ドアのほうへとクルリと身体を旋回させた。


「寝てるやつ全員たたき起こしてくるよ」


 軽く手をひらひらと振ると、アンチミュートは部屋をあとにした。


             ✳︎


 さっきまで男とアンチミュートしかいなかった部屋が、今は20の人間でうまっている。


「全員そろったのか?」


「いや、トリトルテがまだだ。」


 アンチミュートの問いに、1人が答える。男は、また彼女かと微笑む。対してアンチミュートはため息をつくと、呼びに行こうとドアへとむかう。


「女の子の朝は、なにかと時間がかかるものだ。許してやれ」


 若干イライラしているようであるアンチミュートをいさめる。


「先生は女に弱い。日記の通りだな」


「君も妻を持てばわかるさ。女は怖いぞ」


「すまない! 遅れた!」


 アンチミュートと男が小競りあいをしている間に、トリトルテが部屋に到着した。髪の毛をポニーテールにして、顔を輪郭に沿って髪の毛を触覚のようにたらしている。


 アンチミュートはまたため息をつく。やれやれと呆れた様子ではあるが、イラ立ちはもうしていないようだ。部屋に入り、トルトルテが落ちついたのを見届けると、男は話しだした。


「さぁ、始めようか。ハーメルン計画の総仕上げだ」


 男は手に持っていた新聞を目の前の机に広げた。


「上からの通達だ。いよいよ人攫い事件に魔導騎士団が介入してくる。……来週には、各地に広がり、私達の足取りを追うようだ」


「ここらへんで魔導騎士団が動くだろうってのはハナから想定してたし、問題ない」


 そう返したのは、トリトルテであった。遅れてきた負い目を全く感じさせない。


「お前、遅れたくせに偉そうだなあ?」


 そして、そこを難なくついてくるのがアンチミュートという男であった。アンチミュートは日記帳を開くと、「トリトルテは遅刻癖のえらそー女」と書いた。


「あ、止めろアンチミュート! 今日はたまたま遅刻しただけだ!」


「嘘つくな! まわりの空気を見ればわかる! これは慣れてる空気だ!」


 実際のところ、トリトルテの遅刻癖は本当であった。毎回集まりには遅刻する。それも5分や10分といったギリギリ許せるか。という微妙なラインをねらってくる。なので、みんなそこまで強く言えないでいた。ただひとり、アンチミュートを除いては。


 アンチミュートは、遅刻してくるトリトルテに毎回叱るまではいかないにせよ、いちゃもんをつけていた。そして、毎回日記に書こうとしてはトリトルテに邪魔されていたのだが、今日ついにその遅刻癖が日記に記録されたのである。


「もういいか2人とも? 私は、話しはじめたばかりだよ……」


 いがみあう2人に、諭すように問いかける。その言葉に2人はまだ言いたりないと言わんばかりに口を歪めるも、我慢しておし黙った。


「よし、気をとり直して。さっきトリトルテが言ってくれたように、これは想定内だ。よって明日、当初から計画していた『レオナルド魔導学院への襲撃』を決行する」


 男は、新聞紙の上に重ねるようにして大きな地図を広げてみせた。


 一部と二部に分けてみました。私の中では一部は自己紹介で、二部からいよいよお話スタートって認識ですかね。なので、二部から見てもらっても、、、まぁ良いんじゃあないでしょうか、いや良くないな。


ここまでご覧頂き、誠にありがとうございました。まだ続きます。

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