実は道徳も満点
昼休み。それはこの大食堂が1日の中で最も活気が溢れる時間帯である。みんな午後の授業中、腹の虫が鳴かないように胃にエサを与えているのだ。そんな賑やかな雰囲気の中で、ダイスケら4人はいつになく真剣な面持ちでヒソヒソと話していた。
「え、じゃあダイスケがその魔人たちを倒しちゃったのか!?」
いつの間にか食べおわっていたレイジは、手もとに残ったグラスの中の水を一気に飲み干した。
「倒したというより、勝手に帰ったよ」
「いやいやどのみち凄いぞ。魔人族っていったら、1人で魔道騎士団一隊と同等の強さって話だ」
レイジは、自他ともに認める魔道騎士団オタクである。その知識量は、魔道騎士団員全員の名前と所属している隊からはじまり、身長と体重も小数点以下まで言えるほどだ。そんなレイジの魔道騎士団に関する話は信用できた。その記憶力を少しばかりでも学力にむけられていればよかったのだが、レイジの学業成績は見るに耐えないレベルであった。
「それを3人相手にしたのか……お前なにもん?」
マルコの口角は、若干引きつっていた。
「少なくとも、バケモンではあるな」
「もしかしてさ? 最近話題になってる人攫いって、その魔人たちだったんじゃね?」
近頃、各地の学校で優秀だといわれる生徒が連れさられるという事件が多発していた。将来有望な人材が次々と攫われる緊急事態に、いよいよ国も動くという話がここ数日で起こっている。
「もしそうなら、ダイスケに目をむけている間はなんとかなりそうだな?」
「コタロ〜、冗談でも止めてくれよ……これ以上授業に置いてかれるわけにはいかないんだよお……」
ガンッと音を立てて、ダイスケは机に勢いよく突っ伏した。ダイスケは、魔人族との戦闘のおかげで寝不足であった。午前中の授業も全てで居眠りを決めた。もともと勉強面は学年最下位を我が物にしているダイスケである。これより下となると、恐ろしくて考えられない。
その様子を見て、マルコはさらに口角を上げていた。しかし、今度は苦笑いという雰囲気ではなく、ニヤニヤと面白いモノを見つけた時のような表情であった。
「たしかに、今日はいつにも増して寝てたもんなあ?」
マルコの学業成績は学年1位であった。ダイスケは、机に顎をのせたまま、マルコを見る。その目は疑いの眼差しであった。2年生の中で彼の学年1位という事実を認めている人間はいなかった。現に、ダイスケも認めていない。
「また夜にアマナツさんの秘蔵写真見せてやるから、元気出せ! ついでに勉強もみてやるから」
マルコは自前のカメラを颯爽と取りだした。勉強を見てくれることから、マルコは友達思いの優しい男であることはわかる。しかし、その前に出てきた「アマナツさんの秘蔵写真」という言葉に恐怖を感じる。
そのなんともいえない感情の板挟みにより、ダイスケはどうにも微妙な笑みを浮かべていた。他の2人を見ると、コタロウは頭上にクエスチョンマークを浮かべている様子で、レイジのほうはうなだれていた。そんな状況には目もくれず、次々に今日撮ったであろう秘蔵写真とやらを見せつけてくる。
「それ盗撮だろ。捕まるぞ」
「コタロウ。お前はまだ来て日が浅いからな。分からないんだ……これは、盗撮などではない! 見ろ、この写真なんかピースしてるだろ!」
コタロウは、最近オイプロクス第一魔法学院からダイスケ達の居るピスケ第三魔法学園に転入してきた生徒である。マルコはやれやれと首を左右に振りながら、写真を見せ続ける。
「顔引きつってるぞ」
「基本的に俺に対してはいつもこの顔だ。これがデフォルトなんだよ」
「終わってんじゃねーか」
「安心しろコタロウ。お前はまだ来たばかりだから知らないだろうが、こいつらはまだ始まってすらいない」
「もう勘弁してくれって顔してる」
「そんなわけあるかあ。『もう魔力使い過ぎじゃない?』って気遣ってくれたんだぞ?」
マルコは学年1位の成績の持ち主である。しかし、みんなはその事実を認めようとはしなかった。
大事なのは中身。
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