地の利
「いずれにしろ、貴様はここで死ぬ。俺達の計画の障壁となるモノは全て! 排除する!」
「おい待てって! いったいなにを怒って」
メンテインの猛攻が続く。持っている鎌はたった一本であるが、攻撃の手数はまるで数本の得物を振り回しているかの様である。しかし、その攻撃は全くもって当たる気配がない。
「貴様、なぜ反撃しない! 俺はお前を殺す気だぞ!」
「なんのために戦うのか! 俺達は、本当に戦わないといけないのか!」
理由のない争いほど、虚しいものはない。ヤクには、彼を殺す大義名分がなかった。
「そうだ!」
即座に返された答えは、決意にも似たものを感じる。
「話し合いでどうにかならないのか! マジンだかチテイジンだか知らねぇが、そんなのどうでもいい! お前達も人なんだろ!? 俺たちは、言葉の通じない獣じゃねぇんだ!」
ヤクはこれまで戦うしか道がない人生を歩んできた。しかし、今は違うのである。
「話し合い!? そんなモノ、とうの昔に終わっている!」
「とうの昔って」
「それになんの意味があるというんだ! 話し合いなんてなあ、表面をとり繕っただけの、ただのお飾りにすぎない! 結局は、弱者と平和を愛する者が、損をするようにできている!」
ヤクは戸惑う。何故こんなにも悲しみを感じるのだろうかと。苦しい表情を浮かべるのかと。ただ、戸惑っていた。
「俺らは戦うしかねぇんだ! それしかねぇんだ! 拳をむけろよクソ野郎!」
彼らがいったいなに想っているのか、考えて行動しているのか。ヤクには見当がつかなかった。ただ1つだけ、今言えることがあるとするならば。
「大義がない! 大義が、ないんだよ! 俺にはお前を殺す理由がないんだ!」
彼らにはそれがあるのかもしれない。いや、あるのだろう。確実に、殺す理由が存在するのだ。
「………ずいぶん余裕なことを言うじゃねぇか! 貴様は、子どもでも相手にしているつもりか!? たとえ貴様と俺の実力が、大人と子ども程離れていたとしてもなあ……」
左手にも鎌が現れる。さっきの比ではないくらいの殺気を纏っていた。
「俺“は“子どもじゃあねぇんだ!」
手数が増える。ヤクの回避にも少し余裕がなくなる。ヤクは思う、このままではラチがあかない。自分が死ぬことはないにしても、もうじき夜が明けてしまう。学校が、授業が始まる時間が迫って来ている。いつまでもここにいるわけにはいかない。
「そうだな」
ガキンッ
魔力が原材料とは思えない、本物の金属のような音が鳴った。ヤクが鎌を拳で弾いたのである。メンテインはその衝撃で仰けぞってしまった。
「じゃあ、歯食いしばれよ!」
「ねえ!」
ヤクが拳を握り締め、必殺の腹パンをかまそうと踏ん張った瞬間、よそで見学に徹していた2人の内、リーダー格の比較的小柄な男がヤクに声をかけた。
「さっきから君、チラチラ“あっち“を見ているね? あっちには、いったいなにがあるのかなあ?
男が指差した方向には、学校があった。ヤクが通う学校。当然その周りには街がある。街はまだ暗く、街灯の明かりも微かに見える程度であった。
✳︎
時は、ほんの少し前に遡る。
メンテインとヤクの攻防を眺める2人は呑気に会話をしていた。
「あの激昂したメンテインの攻撃を全てかわしてる」
「別に不思議じゃないよ。あれくらい強いことはもうわかっているからねえ」
「……余裕そうだけど。どうするの? 私たちも加勢する?」
男の名前はバド。問いかける女性はコミュニという名である。身長差は20センチ程度だろうか、小さいほうがバドである。
「う〜ん……」
バドは顎に手を当て、悩む体勢に入る。しかし、これはただのポーズ。コミュニもそれがわかっているのか、どうせもうやることは決まっているのだろうと、ジトッとした目線をむけていた。
「相手は強敵だ。それにまだ底を見せない余裕さをも感じる……3人がかりは、ちょっと危険だよね」
バドは、先程までヤクを含めた自分たちいた街を見ると、不敵な笑みを浮かべた。
「純粋な戦闘面での処理が難しいなら、今度は地の利を生かしてみよう……たとえどれだけ強くてもさあ、所詮は人だよね」
○ダイスケ
5000年間、いつ死ぬか分からず、ろくに眠れない熾烈な環境に身を置いていたので、戦闘に関しては色々クレイジーになった。生活面はと言うと、勉強は酷過ぎてマルコ達に助けてもらいながらなんとかついて行っている状態で、学内ではよく迷子になっている。他にも、食べ物でよく釣られてパシられる・コーヒーが飲めない・トイレでよく寝ている等まだまだ慣れない。ジャンクフードやらの油物や味の濃い物に憧れはあったが、そんなに得意では無かったようで、結局米飯と味噌汁に落ち着いている。




