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曰く、其の少年は5000年駆けて街へゆく  作者: 過猶不及
第一部
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思ってたのと違う!

 背中に、なにかがあたった。振りかえる余裕は毛ほどもない。それでも、その何かはの存在は、彼が捕まる一歩手前まできているということを示していた。


「は、走れる! 凄いぞ! でも怖い!」


 喜びと恐怖が同時に押し寄せる。本当はもっと感動的に森を駆けまわりたかった。しかし、そんなことを言ってる場合ではない。

 気がつくと、至るところから獰猛どうもうな野生味溢れる声が聞こえてくる。歓迎されている雰囲気ではなかった。今にも襲いかかってきそうな不穏な雰囲気。声はしだいに数を増やし、刻一刻と大きくなっていく。


 そんな深刻な状況においても、守護天使はのんきなもので。


「やってしまったー。とんでもないことしちゃたー。だがしかしー! 幸運なことに貴方は今不死身ー! 一部吹き飛んでも、食い千切られても大丈夫なんですねー!」


 などとのたまうのだ。後半の部分は一般生活では聞いたことがない内容だ。


「他人事か! いくら不死身でも怖いもんは怖い!」


「じゃあー、一度死んでみてはー? 一度試せば恐怖も無くなりますよー」


 大介の眉がピクリと動く。走る速さはいぜん変わらないが、なにやら様子がおかしい。さきほどとは打って変わって、静かになってしまった。


 守護天使がどうしたのかと確認をとるが、それでも反応がない。

 象の鼻は大介の背中に触れては離れを繰りかえしていた。


「お前、死んだことないだろ」


「え。いや、はい」


 大介の声は一段低かった。大介の頭の中には、怒りと呆れが同時に襲いかかっていた。不意をつかれた守護天使は、「え、いや、その」と狼狽うろたえていた。


「悔いのない人生って、なんだろうな」


 これまで人の“死“というものについて深く考え、関わってきた。そこら辺の同年代の若者とは比べものにならないほどだ。


 今日一日生き抜くことを目標とする人がいた。


 朝起きると隣のベッドが空いていた。


 壁越しでしか会うことが叶わない人がいた。

 

 大丈夫だと言いながら強張る表情。


 悲しそうに眉を困らせる人がいた。

 

 自分は十分に生きたから悔いはないと言う人が、明日友人が来てくれると意気揚々と語っていた。

  

 みんな、夢を見ていた。


 彼自身も多くの後悔を残して死んだ。今こうして生きているからまだ良いが。全員が全員なるわけではない。それは、守護天使の話を聞けば理解できた。


「不死身だろうがなんだろうが……俺は死ぬ寸前まで生きることを諦めない」


 自身が彼らの無念を背負うのだ。見苦しくても無様でも。最期まであがいてやる。大介は心に決めた。それが、今までをともに過ごしたきた、戦友たちへのせめてもの礼儀だ。彼らにどやされない生きかたを、大介はしなければならなかった。


「そういえばお前、最初ステータスが……とか言ってたなかったか?」


「は、はい!」


 いまだ大介の突然増した迫力に圧倒されている様子だ。その証拠に、語尾が伸びていない。


「それ教えろ」


「ス、ステータスっていうのは、この世の生物なら誰もが……」


「ステータスの説明はいい! お前ちょっとズレてるだろ」


 よく考えれば最初に声が聞こえた時、なんか変なこと言ってた記憶がある。


「ゲームのあれか?」


「ん、んー。ちょっと違いますかねー」


 すると、目の前に透明なボードが現れた。そこには、大介の生年月日と身長や体重、これまでの経歴などの個人情報が掲載されていた。しかも、顔写真つきである。


「ステータスといっても、レベルやら攻撃力やらそんなファンシーなものが載ってるわけじゃないんですよー。今の貴方に関する情報とかー、使える魔法が表示されるくらいなんですー」


 守護天使はどうやら、立ちなおりが早い性格らしい。話口調が戻っている。一方で、大介は愕然がくぜんとする。この絶望的な状況を打破できるかもしれない。その頼みの綱が、見事に千切れた。心なしか、走る速度も緩んでいく。


「まんま履歴書じゃんか……こんなのなんの役に……て、魔法!? 」

 確かに聞こえた“魔法“という言葉。目の前のボードが履歴書すぎて、聞き流しかけていた。絶望から希望に変わっていく。


「俺も使えるのか!?」


「もちろん使えますよー!」


「それを早く言えよ!よし、これで…ん?」


 気付けば辺りは暗かった。見上げると今まさに、象の前足が大介の頭上に振り下ろされる瞬間であった。ついに、象は大介に追いついていた。大きく無骨な足裏が大介の髪の毛にあたる。


「ちょ」


「ぎやー!」

 雷でも落ちたかのような轟音だった。地面に強烈なヒビ割れができていたのだ。そこは、ちょうど大介がいた場所。辺りに大介の姿は見られない。確実に下敷きだ。


「ぎやあああああー! 大介さんんんー!」


 返事はなかった。怪物象の全力の右ストレートが見事に炸裂したのだから。当然だ。象は今もなお、力を込めている。地面のヒビが徐々に広がりを続けていた。


 享年17歳。必死の抵抗も虚しく少年・館大介はその短い生涯に幕を閉じた。


             ✳︎


 象は異変を感じていた。どれほど力を込めて押し込んでも。どうしてか、反発を感じるからだ。広がるヒビと比例して、反発は強くなっていく。敵は退治したにも関わらず、不安が消えなかった。達成感を感じられず、より力を込めて地面を踏みつけ続ける。すると、一定の所でヒビ割れの進行が止まった。


 しかし、象はまた異変を感じ取る。なにが足もとで動いているのだ。気持ちが悪い。不安はしだいに動物的恐怖へと変わっていた。


 足が地面から離れはじめた。しかし、これは象自身の意に反する動きであった。現に、象の足は動きに抗うために力を込めていた。プルプルと震えている。象が意を決して大きな声で鳴く。そして、さらに強く力を込める。それでも、願い叶わず足はは持ち上がり続けていた。


「……が……」


「え?」


「ぱお?」


 その巨漢からは想像もつかない可愛らしい声が出た。驚いた時に変な声が出てしまうのは、どの生き物も、たとえ化け物でも同じなのだ。


 なにか、わずかに足もとから聞こえる。なおも徐々に象の足は持ち上げられていた。


「お前がさっさと喋らないから…」


 その声は震えていた。力と怒りが篭っているように感じる。


「…殺されちまったじゃねぇかあああ!」


 大介は声を荒げながら、象を遥か上空へと投げ飛ばす。象自身、宙を舞うなど初めての経験で、困惑と恐怖で固まってしまう。そして、そのまま遠くの地へと落ちていった。


             ✳︎


「えー……」


 飛ばされていった象を見て、他の化け物級の動物たちも、流石に怯む。騒がしかった威嚇も消えさり、後退りをしながら大介の様子をうかがっている。


「全然怖がってないじゃないですかー」


「なあ、俺はどんな魔法が使えるんだ?」


 呆れる守護天使にかまうことなし。大介は打開策を探しはじめる。考えるならば、動物たちが怯んでいる今しかないのだ。


「あららー。残念ですがー、初めからポンと使える魔法なんて無いんですよー? 魔法は経験の中で手に入れるものなんですー」


「まあだろうな。最初から魔法まで使えたら反則すぎるもんな」


 腕を組みながらウンウンとうなずく。不死身で象を投げ飛ばす腕力を持っている時点ですでに反則ではあるが、一旦置いておく。


「ですよねー。神様はー、『この際だから、大サービスだー』って感じだったんですけどねー。止めましたよねー」


 気のせいか、大介には守護天使も自分と同じポーズをとっている感じがした。そして今一度思う。不死身で象を投げ飛ばす腕力を持っている時点すでに反則だ。しかし、状況が極限すぎるのでやはり置いておく。


「神様軽いな」


「まったく困ったもんですよー!」


「この親にしてこの子あり感が凄いけどな」


「え、なんでですかー?」


 苦笑いを浮かべる大介に対し、なぜなのか本当にわかっていない様子である。


「よしやるか。いや、やるしかないか!」


「無視しないでくださいよー!」


 大介は腕組みを解くと、掌に拳を打ちつける。そして、拳を開いたり閉じたりしながら、自身を取り囲んでいる動物たちを眺めた。


「俺は、このバケモン集団に勝てるか……?」


 大介は、自称何でも知っている守護天使に、自身の行く末を問いかける。外を駆けまわることは大介の夢であった。しかし、まさかこんな形で叶うとは思っていなかった。この短時間に2度も死を経験するなど考えもしなかった。困惑と不安はどれだけ振りはらっても消えることがない。


「はい! きっと大丈夫です!」


 守護天使なりに気を遣っていることが大介には分かった。一応これでも大介を守護する天使様なのだと改めて感じていた。大介は、両頬を思い切り引っ叩く。


「俺は、このバケモン集団に勝てる!」


 大きく息を吐く。1度死んだが、象を投げ飛ばすことはできたのだ。その事実を知れただけでも、かなりの収穫だ。


「俺はこのバケモン集団に勝てる!」


 もう一度、自身に言い聞かせる。


「うおぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!」


 自分を奮い立たせるためにとにかく叫ぶ。今出る最大の声を張りあげる。


 呼応するかのように、動物たちも次々咆哮をあげた。


「うおー!」


 ついでに守護天使も咆哮をあげた。


「お前は何もしねーだろうが!」


             ✳︎


 一体どれだけの時間が経過したのだろう。日はすでに落ちはじめており、涼しさが増してきている。大介は前屈みに膝に手を置き、息を切らしていた。周りには、倒れた巨大動物たち。山のように積み重なっている。


「やりましたねー!」


「お〜。……魔法強え〜」


 総勢55体の化け物じみた動物もとい怪物たち。その中には、魔法を使ってくる動物まで存在した。大介が死んだ回数は、ちょうど50回。その内、魔法で30回は殺された。


 そしてなにより、戦利品として魔法1種を獲得していた。


「しかしなあ。これじゃ割りに合わないな」


【強化魔法/視覚強化】

 視野を広げ、視力・動体視力・視覚情報の同時処理能力を向上させる。


 最初、動物たちの予測不能な動きを避け続けていたことが功を奏して得た魔法。しかし、覚えるまでに40回近く死んでいる。


「いやいやー、覚えてからの動きは素晴らしかったですよー! 慣れてからは2度くらいしかやられてないですしー!」


「普通は1度でもやられてたらアウトだよ……ちょっと感覚おかしくなるな」


 だがしかし、規格外のこの星ならこれくらいが普通なのかもしれない。この怪物を、いとも簡単に倒せるようでなければ。きっと、この世界では生きていけないのだろう。すでにこの場で51回死んでいる大介がそう感じているのだから、説得力が違う。大介は、街へ出るための5100年の間に、とことん強くなろうと心に決める。


「まぁ、強くなる以外に森を出る道も無さそうだしな。」


「あー! 勝手に自己完結しないでくださいー! 私もいますからねー!」


「分かってるよ。お前は“何でも“知ってるんだろ?」


 少し試すように問いかける。


「なんでも知ってますよー?」


 大介は目の前に広がる、倒れた怪物に目を向ける。不老不死でも、これだけ動けば腹も減る。動物の世界は弱肉強食の世界。そんな場所に足を踏みいれようとは、思いもしなかった。人生どうなるかは最後の最後までわからないものだと思いつつ、大介は腹をさすった。


「じゃあ、料理の方法を教えてくれ」


 差し込みます。3000字くらいずつの方が読み易いみたいな話を聞いたので、分割しました。しかし、しっかり4000字。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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