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曰く、其の少年は5000年駆けて街へゆく  作者: 過猶不及
第一部
39/78

さらば、俺の…

風の吹き抜ける音が、何処からともなく聞こえてくる。


太陽が西の彼方へ姿を消してから時が経ち、昼間の暖かさは跡形も無く消えていた。普通ならば、人が活動する時間はとっくに過ぎ、何者とも知れない生き物の鳴き声が響いているだけの時間である。


「本当に合ってんのかよ。さっきぶつかった奴、魔力量は平均的だったぜ?」


しかし、こと今日に限っては違っていた。


「魔力量がイコール脅威とは限らないだろう? 大婆様って結構そこら辺アバウトだし。」

 

「あのクソババア。預言者感出したいだけだぜきっと。」


「大婆様って、そういうとこあるわよね。」


ピスケ第三魔法学園の巨大な正門の前に立つ三つの影。フード付きの黒いマントで全身を覆い隠しており、所々に泥がはねたような跡がある。夜の闇と相まって、遠目からでは居ることさえ気が付けないだろう。


「街の人に聞いた感じでも、彼はここの“生徒“ってヤツで間違いないよね。」


真ん中に立っている者が穏やかな口調でそう言うと、隣のこの中で一番背の高い者が前へと出る。


「……で。どーする?」


「…消し飛ばそうか。」


「りょーかい。」


言い終わると、硬く閉じられた鉄の門に右手を当てる。そして、その手から魔力が可視化できるほど高濃度で放出され始めた。


「僕らを脅かす程の強さなら、ココら一帯まっさらにして、残ったヤツで間違い無い。」


その様子を背後で見ながら、まるで友達との何でもない会話の如く言い放った言葉は、ひどく鋭く攻撃的な憎悪が感じ取れる。


「残らないかもよ?」


「なら、その程度だったって事だよ。」


魔力は益々溢れ出し、燃え盛る炎ようにゆらゆらと昇っていく。


「【 …」


「待て。」


3人の中で最も長身の者が魔法の名を口にしようとした直前で、待ったがかかる。先ほどから指揮をとっていた者であった。しかし、止めたにも関わらずその者は長身の者を見ていなかった。視線の方向は確かに向いているのだが、見ているのは鉄の門…のその先を見ているようであった。


「……何やってんだ。あんたら…!」


落ち着きの無い声が上から地上の3人へと届いた。一斉にそちらを見やる。


「……鳥にしては、随分と大きいね。」


見上げると、門の上に影が有った。今まで無かった人の形をした影であった。意表を突かれた3人であったが、その表情は今までと何ら変わっていなかった。


「質問に答えろ…!」


怒鳴り声ではなかった。ましてや大きな声でもない。それでもその静かさからは3人に対する敵対が感じ取れる。


ダイスケであった。


「答えたら、君は言うことを聞いてくれるのかな。」


「……場所を変えよう。」


その言葉で3人の目的に少なからず自分が絡んでいることを悟る。そして同時に、ダイスケは最悪の未来を想像した。





【数分前】


「…?」


何かを感じ、ダイスケは寝床から顔を上げた。


(デカイ魔力だな…)


欠伸をしながら身体を起こす。


極人間的な日常に身を投じてから今まで感じた事のない力を感じる。にも関わらず、呑気に欠伸をし、今も頭をポリポリとかいて薄目を開けているのは平和ボケが進んでいるからである。ダイスケ基準の“ヤバイ“事など早々起きないから大丈夫だろうとタカを括ってしまっているからであった。


「よっこらせ。」


と言いながら、寝床から立ち上がり背伸びをして窓から外を覗いた。その先には校門がある。


瞬間。


「!?」


感じ取れる魔力が急激に増した。それは、大きな魔法が放たれる前触れに他ならなかった。バーモントとの闘いでも、ツバキとの闘いでも感じた事がない巨大な魔力が正に今解き放たれようとしていた。


(ヤバイッ!)


咄嗟に窓を開け、手で窓の外枠を掴み、身を乗り出すと両足を壁にめり込ませた。はたから見ればダイスケが壁に垂直に立っている様に見える事だろう。


ダイスケは踏ん張る様に少し屈んだ。


バゴーーーーーンッッッッッ!!!!


壁が崩壊する音が耳に届く。


(さらば、俺の部屋…)


壁を踏み台としてダイスケはロケットさながらに門へ向かって一直線に飛んで行った。


きっと今頃、ダイスケの部屋は見る無残な姿になっていることだろう。


しかし、ダイスケは振り返らなかった。


振り返ればきっと後悔する。


絶対これ以外の方法あったじゃん!!!


と。


なーんでこんな事しちゃったかなぁ!!!


と。


100パーセント思うことだろう。


だから振り返らないのだ。















読んでくれてありがとうございました。


感謝しきり。

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